北北海道を牛柄トラックで駆ける牛削蹄所。菅原道北削蹄所のオフィシャルサイトです。

牛のげっぷへの課税をめぐる動き


牛のげっぷへの課税をめぐる動き

昨年10月、ニュージーランド(NZ)のアーダーン首相(当時)は、温室効果ガス(GHG)であるメタンの排出量を削減するための政策の一環として、2025年までに家畜が出すGHGの量に応じて農家に課税する方針を発表した。この方針について、アーダーン首相は、NZの生産者が農業排出ガスの削減をこれまでにない世界初の仕組みで挑戦することを意味し、さらに、NZの最大の輸出品(年間464億ドル相当)に世界的な競争力を与えるとともに、2030年のメタンガス削減目標の達成に向けた取り組みを軌道に乗せ、排出量の削減の取り組みにおいてNZの生産者は世界で一番になるだけでなく、世界のために最善を尽くすことが出来、NZ経済にとっても良いものであると述べた。このニュースは生産者からの批判の声とともに世界中で大きく報道されたが、方針の発表後6週間に渡って行われた国民からの意見聴取を踏まえて、方針の修正が12月に発表されると、関係者からは概ね好感を持って受け止められた。今年1月、アーダーン首相の突然の辞意によって新たに首相となったヒプキンス氏は、インフレ対策などを最優先課題として「政策の優先順位を見直す」としている。ただ政府は、農業排出ガスへの課金導入について、実施方法についてはまだ決定していないが、2025年に予定通り実施する方向であることを報道が伝えている。

引用記事:Jミルク

2023-11-13 | コメントは受け付けていません。

牛乳を飲むことで睡眠の改善


必須アミノ酸の1つであるL-トリプトファンは、1980年ごろから睡眠改善効果について調べられています。いくつかの研究で、L-トリプトファンを就寝前3g以上投与すると寝つきが良くなることが確からしいとされています。
ただし、L-トリプトファンを3g以上と多量に摂れる食材は存在しないため、就寝前におけるL-トリプトファンを含有する食材の一過性の摂取では睡眠改善効果はありません。しかし、習慣的なL-トリプトファンを含む食材の摂取による睡眠改善効果についてはさまざまな報告があります。
例えば、大学生249名の調査では、朝の時間帯(6~9時)に牛乳を飲む学生は朝型で、休日の起床時刻が早いという結果が報告されています。また、牛乳を週5回以上飲む学生は熟眠型と中間型のみでしたが、それ以下の頻度の学生では熟眠型が少なく不眠型の学生も見られました。イライラする頻度も、牛乳の摂取頻度の低い学生で多かったことが分かっています。さらに、2~5歳の幼児613名を対象にした調査では、毎日牛乳を摂取する習慣のある幼児は、摂取しない幼児より朝型でした。
朝型の子のほうが夜型の子より睡眠の質が良いことが明らかになりました。
これらの研究は、トリプトファンを多く含む牛乳乳製品の時間帯を考慮した常用が、睡眠を質的に改善する可能性のあることを示唆しているものです。朝の牛乳乳製品の習慣的な摂取が睡眠を改善する可能性があります。夜の睡眠においてはメラトニン、セロトニン、トリプトファンなどが必要になってきますが、それを朝に摂取することによって夜に十分に供給されるためではないかと考えられます。

引用記事:Jミルク
写真素材:フリー素材.COM

2023-10-23 | コメントは受け付けていません。

効果的な蹄浴による費用の低減と跛行の減少

効果的な蹄浴による費用の低減と跛行の減少
オルトゥロ・ゴメス博士、獣医師
ジンプロコーポレーション

農場において、趾皮膚炎やヒゲイボとして知られている感染性の蹄病によって引き起こされる経済損失は、大きなものとなっています。これら感染性蹄病の新規発生の予防と、慢性病変をコントロールするために、蹄浴が一般的に行われています。趾皮膚炎はすぐに病態が変化していく疾病です。わずか10日間で小さな潜在性の病変(直径2cm以下)から進行性の急性潰瘍病変(直径2cm以上)に進行してしまいます。アメリカでは治療のために$300/頭かかるとされているために、予防が非常に重要です。

忘れてはならない蹄浴の目的
蹄浴の目的は感染性の蹄病の予防とコントロールであることを決して忘れないでください。臨床症状が出ている牛の治療のために蹄浴を用いるわけではありません。農場において、すでに趾皮膚炎治療のために相応のお金をかけているとしても、効果的な蹄浴プログラムを確立することで、慢性病変が再度臨床病変に進行することを防いだり、健康牛の新規罹患を予防することが期待されます。蹄浴プログラムの中で、デザイン、設置場所、管理を最良にするよう注力することで、蹄浴を行う頻度を減らしたり、治療費用を大きく減らすことが出来ます。

牛の肢蹄の問題を予防する上でデザイン、設置位置、管理方法が重要
蹄浴は農場において、個別の牛1頭1頭に対して行う処置ではなく、群全体に対する対策として扱われます。蹄浴に用いる薬剤の検討よりも、蹄浴槽のデザイン、設置位置、管理方法がより重要な検討項目です。

蹄浴の効果を高めるために忘れてはいけないポイント
・パーラーの戻り通路のように、牛が日常的に通過する場所の水平な地面に蹄浴槽を設置する。全頭の全肢が、蹄浴槽全体を使って薬液に浸かることを確認する。

・蹄浴槽は長さ3〜3.7m、幅0.5〜0.6m、深さ25cmのものが推奨される。

・薬剤が好発部位に十分に付着するために、薬液の深さは最低でも10cm以上とする。

・下肢の衛生スコアに基づいて、各週で日を開けずに蹄浴を行う。下肢の衛生スコアは、蹄浴頻度を決める目安となる。汚れている牛が多い場合、より蹄浴頻度を増やさなければならない。

・現在多くの農場において、一般的には100〜300頭が通過したら蹄浴の薬液を交換している。牛体の衛生状態や天候、薬剤の種類や濃度によって、薬液の交換頻度は異なる。

・新しい薬液を補充するタイミングを調整し、各群の牛たちが新鮮な薬液に肢を浸けることが出来るようにする

・新しい薬液を投入する前に、古い薬液を完全に排水し、水で蹄浴槽を洗う

・蹄浴槽を通過後、清潔で乾燥した場所を歩かせる

・薬液を用いない日でも、石鹸浴(水100リットルに対して、洗剤1リットルを投入)を行うことで、衛生状態を保つ。

・固定式の蹄浴槽を用いる場合、蹄浴を行わない日は、蹄浴槽上を歩かない迂回路を設けることが推奨される。

上記のポイントを満たす様に蹄浴槽のデザイン、設置場所、管理方法を検討する事が、最良で効果的な蹄浴プログラムを運用する事に繋がります。それによって趾皮膚炎のような感染性の蹄病の予防及び治療にかかる費用を共に減らすことが出来ます。

引用記事:ZINPRO

2023-10-2 | コメントは受け付けていません。

牛の品種と一頭当たりの価格について


食文化は世界中で多様であり、その多様性の一つが畜産業界から提供される牛肉です。この美味な食材の背後には、品種ごとの肉質、重さなどが価格と大きく関係しています。畜産業界の奥深さを探りながら、牛の品種別に重さと一頭あたりの料金に焦点を当ててみました。

牛の品種ごとの特徴と価格:

畜産業界は、黒毛和種、交雑種、ホルスタイン種など、さまざまな品種の牛を育てています。これらの品種ごとに、肉質や育成条件、価格に大きな差異があります。

黒毛和種(和牛)
その美しい大理石模様の肉質と希少性により、最も高価な品種とされています。肥育牛(お肉になるまで育てている牛)の相場は150万円以上で、ブランド和牛では300万円~400万円にも達することもあります。一頭から取れる肉量は約300kgで、贅沢な食体験を約束します。

交雑種
オスの和牛とメスのホルスタインをかけ合わせて育てられる牛です。価格帯は80万円以上で、肉質は和牛に近く、食べやすい特徴を持ちます。レストランからスーパーまで幅広い需要を満たす存在です。

ホルスタイン種
主に乳牛として育てられ、乳を生産することが目的です。そのため、肉質はやや劣りますが、価格はお手頃で、一頭45万円以上です。また、メスのホルスタイン種は、乳牛としての価値も高く、80万円以上することも。

ブランド牛の魅力と価格:

さらに、ブランド牛として知られる神戸牛や松阪牛にも注目してみましょう。これらのブランド牛は、その極上の肉質と独自の飼育方法により、一頭当たり500万円以上の高価格がつくこともあります。神戸牛や松阪牛は、肥育期間や飼育環境に厳しい基準を設けられており、その希少性が高級食材としての価値を引き上げています。これらの牛肉は、極上の肉質と豊かな風味を楽しむために、高値で取引されています。

牛の重さと利用可能な部位:

一頭の牛の重さは700kgから1,000kg程度であり、その内訳はお肉として利用可能な部位は約300kg程度です。残りの部分は骨や皮、血液などが占めています。ここで気づくべきは、一頭買いと一頭から得られるお肉量の関係。一頭の重さに比べて利用できるお肉は限られていることがわかります。

結びつける畜産業の努力と価格:

価格だけではなく、畜産業界における努力と熱意も牛肉の価値を形作っています。高級な和牛の背後には、長年の育成技術の向上や飼育環境への投資、肉質向上への取り組みがあります。これにより、高品質なお肉が生み出され、その価格が反映されているのです。
牛の品種ごとの肉質や価格の違いは、消費者にとって選択肢の豊かさを提供しています。黒毛和種の贅沢な食味、交雑種の食べやすさ、ホルスタイン種の手ごろな価格、そしてブランド牛の極上の風味―それぞれの品種には、独自の魅力が詰まっています。牛肉の魅力を存分に楽しむためには、品種の特性を理解し、価格や肉質を考慮して選ぶことが大切です。

イラスト素材:vecteezy

2023-8-16 | Leave a Comment

牛という動物の多様な顔――日本と世界の文化と宗教による牛へのアプローチ


牛という動物は、世界中の様々な文化や宗教において、その重要性や役割が異なるだけでなく、象徴する意味合いも多岐にわたります。牛は人々の生活に密着し、地域や信仰によって異なる扱いを受けてきました。
以下に様々な国における代表的牛へのアプローチの違いをまとめました。

インド――神聖なる存在としての牛

インドでは、ヒンドゥー教において、牛は母なる存在として尊重されてきました。インドの農業社会では、牛が耕作や農作業に活用され、豊かな収穫と繁栄をもたらすパートナーとして大切にされてきました。そのため、牛を神聖な存在として崇拝する文化が根付いています。
仏教の開祖であるお釈迦様の元の名前でもある「ゴータマ」という名前は、「最上の牛」という意味を持ち、それだけ牛の存在を重要視していたことが伺えます。
また牛の糞や尿、乳さえも聖なるものとされ、日常生活にも密着しています。

イスラム圏――ハラールな牛肉

イスラム教徒の中でも特に、イスラム圏では牛肉の扱いに厳格なルールがあります。牛肉は「ハラール」(許された)とされますが、特定の宗教的な処置を施された牛の肉のみが食べられます。コーランには「死肉、血、豚の肉」が禁じられたとの記述があり、それに従い牛肉を摂取する際にも特別な注意が払われます。牛肉の消費は一般的ですが、その取得と処理には宗教的な規定を満たす必要があります。

欧米――食肉としての牛

欧米の多くの国々では、牛は食肉として扱われることが一般的です。牛肉はステーキ、焼き肉、ローストビーフなど、様々な料理に使われ、食文化に根付いています。牛を食べることは宗教的に問題視されることはありませんが、イスラム教徒のコミュニティやヒンズー教徒の多い地域では、牛肉を提供するレストランや食品会社に配慮が求められることもあります。

日本――農耕の相棒としての牛

日本の文化においても、牛は古くから農耕の相棒として重要な存在でした。耕作や農作業に用いられ、人々の生活に密着していました。また、仏教や神道においても牛に対して特別な意味があります。仏教の物語「水牛と猿」においては、忍耐と受け流す力の大切さが説かれています。日本では牛を食べることは一般的で、牛肉料理は人気のある食べ物となっていますが、特にヒンズー教徒のコミュニティや文化的なイベントでは、配慮が求められることもあります。

さらに、世界的な視点で見ると、牛は農業や畜産業のみならず、環境への影響や持続可能な開発の観点からも注目されています。牛の畜産には温室効果ガスの排出が関連しており、持続可能な農業や環境保護の視点から、畜産業の改善や代替食品の開発にも取り組まれています。

牛の姿や扱いには、地域や文化、宗教の背後に深い意味があります。それぞれの文化や宗教に根ざした牛へのアプローチを理解し、尊重することは、異なる文化間の共感と相互理解を促進する上で重要な要素となります。牛を通じてさまざまな文化とのつながりを感じ、共存のための努力を重ねることで、より豊かな世界を築いていくことができるでしょう。

写真素材:フリーイラストクラシック

2023-8-9 | Leave a Comment

牛の知能に迫る – 感情表現やコミュニケーションの一端を垣間見る


牛は私たちが想像する以上に知能の高い動物であり、感情を豊かに表現し、コミュニケーションを行っていることが最近の研究によって明らかになっています。これまでに牛の知能に関する興味深い実例が数多く報告されており、以下ではその一部を紹介します。


個別の声でコミュニケーションを行う牛

オーストラリアの牧場で行われた研究では、放し飼いにされている若いホルスタインの牛の群れを対象に、牛たちの声によるコミュニケーションを調査しました。結果として、牛たちは個々のユニークな声の特徴を持っており、それを異なる状況下でも使い分けていることが明らかになりました。
例えば、発情期や食事時などのポジティブな状況では喜びや満足を表現するような声を発し、一方で食事を与えられない、仲間から隔離されるなどのネガティブな状況では悲しみや不安を示す声を発することが観察されました。これらの声の特徴を使い分けることによって、牛たちは自分の感情や意図を仲間に伝えていると考えられています。(出典:学術誌「サイエンティフィック・リポーツ」)

脱走行動を示す牛たち

牛は自分の環境や状況に不安を感じたり、ストレスを受けると脱走を試みることがあります。ドイツのソーセージ会社の畜舎から逃げ出した牛や、他の動物園や屠殺場から脱走した牛たちの報告があります。これらの脱走行動は、牛たちが自らの命を守る意欲や知恵を持っていることを示しています。
特に、ドイツのソーセージ会社の牛(イボンヌさん)は、ソーセージになることを恐れて10ヶ月も逃亡を続け、人間の手による保護が話題となりました。彼女の逃走行動は、牛たちが自らの運命を変える意思を持っている可能性を考えさせるものでした。(出典:YouTube – Clever Girl、Cow escapes sausage maker – pretends to be deer – Odd News | newslite.tv)

牛の友情と思いやり

牛たちは社会的な動物であり、群れを作って生活しています。彼らは同じ群れの仲間に対して思いやりを持ち、お互いを助け合うことがあります。例えば、若いホルスタインの牛が他の仲間の不安を静めるために寄り添ったり、逃げ出した仲間を探して救出したりする姿が報告されています。
また、牛の中でも特に個別の声でコミュニケーションを行うことが観察され、牛たちは異なる状況で声の特徴を使い分けており、それによって自分の感情や意図を仲間に伝えていると考えられています。これらの友情や思いやりの行動は、牛たちが社会性を持った知的な生き物であることを裏付けるものとされています。(出典:アトラス・オブスキュラ、シドニー大学のグリーン氏)

これらの実例から、牛が知能や感情を持ち、社会性を持った動物であることがわかります。彼らは個々の個性を持ち、喜怒哀楽を感じ、仲間との絆を大切にしています。農場や動物園などの環境では、牛たちが自然な行動を発揮できるような配慮が必要であり、彼らの福祉を向上させることが重要です。牛の知能と感情を理解し、共感することで、より良い共生社会を築くために努力することが大切です。

写真素材:著作者:kotkoa/出典:Freepik

2023-8-2 | Leave a Comment

「地球温暖化の救世主? 海藻を餌にしてメタン削減を目指す牧畜業界の挑戦」


地球温暖化の問題が深刻化する中、私たちは地球環境を守るために新たなアプローチを模索しています。特に、牛が地球温暖化に与える影響が大きいことが認識され、その対策が急務となっています。牛は胃の中で特殊な微生物の働きによってメタンという温室効果ガスを生成し、これが大気中に放出されることから、農業部門におけるメタンの排出削減は環境保護において重要な課題となっているのです。

そんな中、環境に配慮した牧畜業界の取り組みが注目を集めています。その中でも特に興味深いのは、海藻を牛の餌に混ぜる取り組みです。海藻は数多くの種類がありますが、中でも特に紅藻カゲキノリ(Asparagopsis taxiformis)が研究の焦点となっています。

紅藻カゲキノリには特別な性質があり、牛の消化管内に入ると、そこで反芻動物の胃内細菌のメタン生成を抑える働きが確認されています。具体的には、カゲキノリに含まれる特定の成分がメタン生成に関与する微生物を減少させ、結果として牛が排出するメタン量を削減する効果があるのです。この成果により、牧畜業界における地球温暖化対策の一石を投じる可能性を秘めているのです。

実際に行われた研究では、紅藻カゲキノリを牛の餌に加えることで、メタン排出量を最大で80%も削減できるとの報告があります。この驚異的な削減効果は、環境問題への対策として非常に有望であるとされています。

さらに、海藻を牛の餌に取り入れることで、環境への負荷を軽減するだけでなく、肉の品質や味にも影響を及ぼさないという利点があります。これにより、消費者にとっても環境に配慮した選択肢として受け入れられやすくなるでしょう。

ただし、この取り組みにはまだ課題も残っています。海藻を実際に牛の餌として与える際の実現性や、大規模な生産体制の構築など、さまざまな側面からの検討が必要です。また、牧畜産業が抱える他の環境問題や動物倫理の問題も解決しなければなりません。

海藻を餌にする取り組みは有望なアプローチであり、環境負荷を軽減する上で重要な役割を果たす可能性が高いとされています。ただし、これだけで牧畜産業の問題が完全に解決するわけではなく、引き続き多角的なアプローチが求められることも忘れてはなりません。海藻を餌にした牛肉が将来的に一般的になるかどうかは、さらなる研究と取り組みの成果次第と言えるでしょう。地球温暖化という深刻な課題に向き合う中で、私たちは環境に優しいイノベーションを進めることの重要性を改めて感じるところです。

写真素材:公益法人黒潮生物研究所

2023-7-25 | Leave a Comment

誰かに話したくなるお肉の豆知識


明治時代から私たちの生活に徐々に浸透していった食肉文化。現代では日々の食卓ですっかりおなじみとなった肉について、あなたはどれくらい知っていますか?今回は知ると誰かに話したくなる豆知識を牛肉、豚肉、鶏肉に分けて紹介します。

豆知識①
「国産牛」イコール「和牛」は間違い
国産牛と和牛、この2つの言葉の意味には明確な違いがあります。国産牛は、品種や生まれた土地に関係なく、生まれてから出荷までの間、最も長く日本で飼育された牛のことを指します。一方の和牛は、黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角和種と、これら4品種の間での交雑により生まれた牛のことを指します。そして、日本で出回っている和牛の約98パーセントは黒毛和種です。但馬牛、神戸ビーフ、特選松阪牛、米沢牛などの有名ブランド牛もこの黒毛和種という品種なのです。

豆知識②
「こま切れ」と「切り落とし」の違い
さまざまな料理に使えて便利な「こま切れ」と「切り落とし」ですが、その違いはご存じでしょうか?一般的に「こま切れ」とは、肉を整形する際に出るさまざまな部位の切れ端を集めた商品を指します。そのため、厚さや大きさもバラバラにカットされており、主に焼きそばや野菜炒めなどの具材として使用されます。
一方、「切り落とし」は特定の部位の肉をスライスした際に出る切れ端の商品を指します。厚さは均一ですが、大きさはバラバラにカットされており、主にすき焼きやしゃぶしゃぶなどに使われます。

豆知識③
ステーキの焼き加減の由来は「ゆで卵」
ステーキを注文する際、焼き加減に「レア(rare)」「ミディアム(medium)」「ウェルダン(well-done)」などの呼び方があります。その中の、レアとウェルダンという言葉は、卵のゆで加減を表現した言葉に由来するそうです。レアという言葉は、半熟卵を意味する英語の古語から生まれました。ウェルダンは、硬ゆで卵を指す「well(正しく)done(調理された)」が由来だとか。卵と同じく、肉も加熱時間が長くなるほど、固くなります。それでは、厚さ2センチメートルのヒレ肉での焼き加減を紹介します。

レア
(英)rare
内部温度55度から65度以下
片面を強火で30秒焼き、弱火にして1分焼く。返して同様に焼く。表面は焼けているが、中心部は生で、肉汁が多い。

ミディアムレア
(英)medium rare
内部温度約65度
片面を強火で30秒焼き、弱火にしたら1分30秒焼く。返して同様に焼く。レアより火は通っているが、中心部はまだ生の状態。切ると赤い肉汁がうっすらとにじみ出る。

ミディアム
(英)medium
内部温度65度から70度
片面を強火で30秒焼き、弱火にしたら2分焼く。返して同様に焼く。中心部にちょうど良い状態に火が通り、薄いピンク色。肉汁は少ししか出ない。

ウェルダン
(英)well-done
内部温度70度から80度
片面を強火で30秒焼き、弱火にしたら2分30秒ほど焼く。返して同様に焼く。肉汁はほとんど出ない。それよりしっかり焼けば、ベリーウェルダン。


文献引用:農林水産省
写真素材:onikuimage

2023-7-18 | Leave a Comment

乳牛にも原戸籍と住民票がある??


乳牛の住民票?「個体識別番号」
 先日、筆者の野暮用で、「住民票」と「戸籍謄本」が必要となり、役所へ行きました。かなり以前、あるバラエティトーク番組を見ていた時に、現在でも歌手や相撲評論家としてご活躍されているマルチタレント・デーモン閣下がご出演しており、『吾輩も、世の仮の姿(つまりノーメーク状態、素の姿)になって、役所へ行き、住民票を取りに行くこともあるよ。でないと、生活できないもの!』と発言し、周囲の爆笑を誘っている場面がありました。閣下のような紀元前生まれ?を自称している大人物や、筆者やこの記事をお読み下さっている皆様も、(彼が言うように)、この世の中を生きている以上は、必ず1度は役所へ赴き、費用を支払い、住民票などをもらう行為は不可欠であります。

 乳牛の世界では、住民票や戸籍謄本と言うべき代物があるのか?勿論ございます。我々人間が管理している以上、食物を提供してくれる牛などの家畜動物にも管理システムがございます。に別記事で「乳牛の血統登録」について紹介させて頂きましたが、血統登録事業によって記録される登録証明書は、乳牛の血筋が記されていますので、人間の世界で比喩すると、「原戸籍」と「戸籍謄本」になると思います。
 乳牛の住民票に相当するのが、『個体識別番号』となります。人間と違うのは、人は、其々の姓名で住民登録されていますが、乳牛の場合、文字通り、其々の個体番号によって、牛個体の生年月日、母牛番号・飼養者氏名・所在地などがデータ登録されます。
 「番号で管理する」という意味では、我々住民票を有する日本国民が、2015(平成27)年10月から通知され始めた12桁の数字から成る「個人番号(通称:マイナンバー)制度」と酷似していると言えるかもしれません。因みに乳牛の個体番号は10桁の数字で構成されています。

個体番号を管理する機関と耳標
 日本国内で飼養されている全ての生体牛(乳牛・肉牛)は、国産牛・輸入牛問わず、10桁から成る個体識別番号が振り分けられ、その個体番号によって国内の飼養牛の来歴・経歴は、農林水産省から業務委託されている独立社団法人・家畜改良センター(所在地:福島県)によって管理されます

 先述の如く、国内で、誕生・飼養されている乳用・肉用の牛は、全て10桁の個体識別番号によって、各々の生産者と家畜改良センターに管理されますが、その番号は、牛の両耳に装着する『耳標(じひょう・別名:耳タグ)』に記入されており、この標識を生産者が、分娩や購入などで入手した新規牛個体の耳に取り付けます。
 生産者が手元で、飼養している牛に耳標を装着する事は、家畜改良センターより義務付けられていますが、生産者自身も、様々な管理面で、外見では判別が困難な牛たちを、両耳に付いている其々の個体番号(耳標)を一目で識別できる利点を持っています。
生産者は、入手した新規牛個体に「耳標」を取り付ける義務を果たすと共に、更に家畜改良センターには『届出』もしなくてはなりません。即ち、分娩で仔牛が誕生したなら『出生報告』、他所から牛個体の購入や導入した場合は『転入報告(逆の場合は転出)』、飼養していた牛が運悪く死亡した場合は『死亡報告』、といった上記の発生状況に応じて報告をする事も義務付けられています。
 我々も役所に子供が誕生した場合は「出生届」、引っ越しした場合は「転出入」など、様々な届出を役所で行いますが、牛の場合も同様で、牛の家畜役所の責務は家畜改良センターが担っています。

 因みに、生産者が万一、自分が飼養している牛の耳標装着や「出生などの届出」の義務を怠った場合は、日頃の管理にも大きな支障を来し、未届出の牛が産出した牛乳や肉の出荷販売は許されません。また耳標は、牛の両耳に装着されるのが義務付けされていますので、未装着や片耳のみ装着状態では、他所への運搬(出荷)も禁止されています。

引用文献:酪農と歴史のお話し

2023-3-6 | Leave a Comment

乳牛の生活とその社会


乳牛社会のリーダー乳牛
 乳牛は舎内で拘留して飼育されている「つなぎ飼い方式」しても「フリーストール形式(搾乳と飼料給餌時以外は、放牧場や舎内で放し飼いされいる方式)」でも、知り合いの乳牛達が集まって団体を構成しています。この様に複数の乳牛が集まれば『乳牛社会』を構成し、その中では、乳牛社会を束ねるリーダー乳牛が必ず登場し、他の乳牛達の引率などを行います。中には世話好きなリーダーが存在します。
 牛群(乳牛団体)が放牧地へ移動する際・新しい放牧地周辺を一周する時、そして長距離を移動する場合はリーダー乳牛が先導を行って、これに後続する順番も殆ど決まっています。特に、集団内で先頭牛と末尾牛では乱れる事は(事故などが無い限り)少ないです。この関係を『先導・後続関係』と言われています。
 その先導役選出方法ですが、殆ど同様な「先導・後続関係」社会を持つ人間界では、話し合い(査定)・選出・選挙によって決定されますが、乳牛世界の場合はどうでしょうか?白状すれば、牛でもない我々人間の傍目から見れば完全に判りかねますが、リーダー牛は経験豊富でメンバーの信頼が厚い牛が選定されているようです。やはりどの社会でも、優秀で周囲の人望が厚い者が選ばれるのが理のようです(勿論中には、例外もありますが)。
 また先のフリーストール飼育方式の場合、搾乳時に入る作業場・搾乳室への乳牛の入場順番もほぼ一定しています。親しい乳牛同士は続いて入場するし、逆に不仲の乳牛同士がいたりすると、互いに入場を邪魔したりするケースもあります。
 因みに、先述の乳牛社会内にある『先導・後続関係』というのは、飽くまでもメンバー内で経験豊富で信頼感が厚い、いわば『人望型』の乳牛がリーダーとなります。決して闘争が強く、無理矢理に他の乳牛を従わせる様な暴力的乳牛が、乳牛社会のリーダーになる絶対条件ではないようです。この闘争関係の強弱は、また違う関係となります。
 面白いものです。人間社会でも古今東西、国々を制覇する程の絶対権力を持った、有能であり、覇道的強勢力(人物)が、絶対的リーダーになった例は少なく、逆に周囲の信頼感が厚い王道的弱勢力の方が最終的に社会を統率するリーダーとなる方が多く見受けられます。周囲に暴力的天才リーダー織田信長の末路と周囲に温和的中庸リーダー徳川家康の終着点が最も良い例ではないでしょうか。
 本題から少し逸れてしまいましたが、乳牛世界にも類以した現象があるというのが、何とも感嘆させられる思いであります。

乳牛間の闘争行動と親和行動
 人間社会にも強い人間・弱い人間がおり、社会規模や年齢を問わず、少なからぬ闘争・喧嘩が日常的に起こっている事があると思いますが、それは乳牛社会でも同様です。牛群には闘争の強い乳牛と弱い乳牛がいまして、順位が決まっています。これを『優劣順位』と言います。
 『優劣順位』は、乳牛が若齢期の頃にはありませんが、互いに年齢を重ね、放牧場などで闘争を重ねる事によって乳牛間の優劣が徐関係々が強固に形成されていきます。乳牛の頭数が少ない小社会だと、強い乳牛~弱い乳牛順に並べてゆくと直線的になりますが、逆に頭数多い大社会だと「A乳牛はB乳牛・C乳牛に強いが、D乳牛には弱い。しかしそのDはB・Cの両乳牛に対しては弱い」という複雑な闘争関係が成立するという「群雄割拠状態」になるケースが多くあります。
 闘争行動には、頭突き・押し退けなど直接攻撃するものと、威嚇(咆哮など)や回避など間接攻撃があります。異なる牛群を混成する時・新しい乳牛を牛群の中に入れると、群内で頭突きなどの直接攻撃が多くありますが、数日後には威嚇などの間接攻撃に変わっていきます。
 直接・間接関わらず、牛群内で闘争行動が発生しやすい原因として、「飼槽規模が頭数に比べると小さい」「牛床の数が不足する」の2点が主に列挙されています。

 闘争行動の反対が『親和行動』になりますが、よく知られている親和行動には舐め行為(グルーミング)があります。この行為を行う乳牛・行わない乳牛は区々ですが、特に優劣順位が近い乳牛間で、互いに舐め合い親睦を深める事が多いようです。順位が近い者同士で親睦を深め、牛群内で余計な摩擦を起こさない様にしているようです。

引用文献:酪農と歴史のお話し
写真素材:LooseDrawing

2023-2-6 | Leave a Comment

牛乳摂取はコレステロールの低下に関係し、冠動脈疾患リスクを 低減する ~英国で行われた遺伝疫学研究から~

牛乳乳製品の摂取と心血管代謝疾患との関連については多くの研究が行われてきており、牛乳摂取はこれらの疾患のリスクを高めるとして、低脂肪乳の摂取が推奨されてきました。しかし、最近行われた大規模なコホート研究やメタ解析の結果では、むしろ循環器系疾患のリスクを下げることが報告されています。
今回は、英国のレディング大学などが約 200 万人のデータをもとに行った研究で、International Journalof Obesity に掲載された論文「1,904,220 人を対象とする 2 標本メンデルランダム化解析を活用した牛乳摂取と心血管代謝疾患との因果関係研究」1)について解説します。この研究では、「メンデルランダム化解析」という新しい疫学的解析手法を用いて、乳糖分解酵素(ラクターゼ)遺伝子変異(乳糖不耐に関係)に基づく牛乳摂取の遺伝的アプローチを行い、「より高い牛乳摂取量に関連した遺伝的変異を持つ参加者は、わずかに高い BMI、体脂肪を持っていたが、善玉(HDL)コレステロールと悪玉(LDL)コレステロールのレベルは低いことがわかり、冠動脈疾患のリスクも有意に低いことがわかった。」としています。
すなわち、脂質コントロールが必要な疾病においても、牛乳摂取を控える必要はなく、むしろ摂取するほうがリスクは低下するという興味深い報告です。

牛乳摂取と疾患リスクの因果関係とは
 現在、肥満、高血圧、脂質異常症、高血糖症は、心血管代謝疾患の大きな原因となっており、世界的にみると高い罹患率と死亡率をもたらしています2-4)。そのため、これらの生活習慣病予防のためには食生活の改善が課題です。心血管代謝疾患の主要な決定要因には、食習慣のなかでも高脂肪食があります。脂質異常症や虚血性心疾患の重症化予防のためには総脂肪量、とくに飽和脂肪やコレステロール摂取を制限す
るよう推奨されています。
 牛乳の摂取は動脈硬化の原因になるという研究報告が過去にはありましたが、牛乳乳製品の摂取によって循環器系疾患のリスクが低減することが、9件の研究(N = 57,256)データのメタ解析によって報告されています5)。ランダム化比較試験(RCT)で得られた知見は必ずしも一貫していませんが、これらの研究では、有益であれ有害であれ、牛乳摂取が明らかな原因とする因果関係を示す証拠は得られていませんでした。

近年注目されているメンデルランダム化解析
食事や運動、アルコール摂取と疾患リスクとの関連については多くの交絡因子(調べようとする因子以外の病気の発生に影響を与える因子)があり、また長期の追跡時間が必要です。
そのため従来の観察研究で報告されたこれらの関連は、RCT(ランダム化比較試験)では結果が一致しないことがよくみられました。観察研究ではビタミンEの摂取が冠動脈疾患のリスク低下に寄与していることを示唆していましたが、RCTでは同様の結果には至らなかった例があります。
観察研究は、交絡因子や選択バイアス(対象者を選定する際に生じるバイアス)など、結果に影響する要因が含まれる場合があるので、因果関係について推論するには十分なものでは
ないということが言われてきました。
 今回の研究で用いられた解析手法は、遺伝疫学の分野で近年注目されているメンデルランダム化解析です。これは、ゲノム情報で予測した形質(髪の色など外に現れる性質や形)と疾病リスクとの関連を推計することにより、従来の観察研究で問題となる交絡因子に対処しようとする方法です。メンデルランダム化解析では、一塩基多型などの遺伝子多型(形質の違いに影響を与えるとされるゲノム情報の違い)がランダムに分配されるというメンデルの法則を利用して、牛乳の摂取量ではなく、ゲノム情報で予測される牛乳摂取量を用いて、心血管代謝疾患リスクを比較します。ゲノム情報で予測された牛乳摂取量の高い集団と低い集団の間では、背景因子が均等になることが期待されることから、従来の観察研究に比べ交絡因子の影響を受けにくく、観察研究に用いるデータであっても因果推論(causalinference)を可能にする手法です。

ラクターゼ遺伝子変異に着目
この論文の筆頭著者であるカラニ教授らは、牛乳の消化に関わる酵素であり、乳糖(ラクトース)の消化を担うラクターゼ酵素のラクターゼ遺伝子に着目しました。ラクターゼ遺伝子の上流に位置する一塩基多型(SNP)rs4988235 が、ヒト集団において、酵素の転写に影響を与え、ラクターゼ活性を抑えることが明らかとなっています(乳糖不耐となりうる遺伝形質)。また、この一塩基多型(SNP)の T アレル(対立遺伝子)はラクターゼ持続性と関連しており、転写因子と結合してラクターゼ遺伝子のプロモーター活性を高めることが知られています(乳糖不耐とはならない遺伝形質)。このように、一塩基多型(SNP)が乳糖の消化に影響を与えることから、一塩基多型は、牛乳摂取と疾患との関係を検討するメンデルランダム化解析において牛乳摂取量の代用として用いられてきました 6-8)。すなわち、ラクターゼ遺伝子変異の T アレルを持つ集団を牛乳摂取が高い集団、その他の変異を持つ集団を牛乳摂取が低い集団として比較することで、交絡因子を考慮しなくても牛乳摂取量と様々なアウトカム(疾患リスクなど)との因果関係の推論が可能になりました。
 最近の乳製品に関するメンデルランダム化(MR)研究は、乳製品の摂取量が多いとBMI が高いという因果関係を明らかにしていますが、循環器系疾患(CVD)との因果関係は示していませんでした9 ) 。そこで、この研究では、肥満、血圧、慢性炎症、脂質、糖代謝のマーカーも含めて、牛乳摂取と循環器系疾患、2型糖尿病,心血管代謝疾患の危険因子との因果関係を包括的に調べました。今回のメンデルランダム化解析は、3つの大型集団研究に参加した417,236人のデータをメタ解析して、さらに複数のコンソーシアム研究のメタ解析から得られた統計データを含めて検討しています。

牛乳摂取量が多いとコレステロールが低い
 1,904,220 人の大規模なメタ解析の結果、牛乳の高い摂取量を示すラクターゼ一塩基多型(SNP)rs4988235 の T アレル(乳糖不耐にならない遺伝形質)の集団は、BMI の高さや総コレステロール、LDL コレステロール値の低さなどの循環器系疾患の危険因子と有意に関連することが明らかになりました。さらに、メンデルランダム化解析(MR)を用いて相関推定値を算出した結果、牛乳摂取量が多いと BMI が高くなり、LDLコレステロール、総コレステロール、HDL コレステロールが低くなるという因果関係が確認できました。現在、牛乳摂取と循環器系疾患リスクとの関連が議論されていることを考えると、このメンデルランダム化解析の結果は公衆衛生上、重要な意味を持つと思われます。

乳糖やカルシウムがコレステロール値の低下に関与
牛乳の摂取量が多いとコレステロール値が下がる理由について、牛乳に含まれるカルシウムと乳糖は、脂質代謝に影響を及ぼすことが知られています。食事で摂取した乳糖がカルシウムの吸収を促進することで血中脂質に影響を与えるほか、ヒトでは乳糖を大量に摂取するとコレステロール値が低下します 10)。次に、食事からカルシウムを摂取すると胆汁酸の排泄を増加させ、肝臓のコレステロールから胆汁酸を再生させるので、最終的にはコレステロール濃度の低下につながる可能性があります。最後に、腸内細菌による難消化性でんぷん(RS)の発酵の結果であるとも考えられています。これらの RS はコレステロールの合成を変化させ、腸肝循環を阻害することで、コレステロール値を低下させることができるからです。

脂質コントロールが必要でも牛乳摂取する方が冠動脈疾患のリスクが低下
さらに、カラニ教授は「より高い牛乳摂取量に関連した遺伝的変異を持つ参加者はわずかに高い BMI、体脂肪を持っていたが、HDL コレステロールと LDL コレステロールのレベルは低く、冠動脈疾患のリスクも有意に低いことがわかった。これらはすべて、心血管代謝疾患の予防に牛乳の摂取量を減らす必要がない可能性があることを示唆している」と語っています。今回の遺伝疫学研究で、脂質コントロールが必要な疾病においても、牛乳摂取を控える必要はなく、むしろ摂取するほうがリスクは低下するという因果関係があることが明らかになりました。このことは、脂質摂取の質から考えると、大変重要な意味をもち、さらに研究が進めば、牛乳はn3 系脂肪酸が含まれる魚油や亜麻仁油等のように積極的に摂取するべき食品と言われる日もそう遠くはないかもしれません。今後の大規模な介入研究をはじめとしたさらなる研究が期待されます。

引用文献:一般社団法人Jミルク

2022-7-22 | Leave a Comment

牛乳の栄養的特性と摂取効果について

■牛乳は「体にいいのか?」~牛乳の機能性~
2012年に農畜産業振興機構が幅広い年齢層の3,200人を対象とした牛乳摂取に関するアンケート調査の中で、およそ半数が「牛乳には、カルシウムやたんぱく質など体に必要な栄養素がバランス良く含まれている」ということを聞いたことがあると答えました8)。また、「牛乳にはカルシウムの吸収を助けて骨粗しょう症を防ぐ成分が含まれている」、「牛乳に含まれるカルシウムは、骨を丈夫にし、子どもの身長の伸びを助ける」ということも約4割が耳にしているとのことです。小学校などの若年時から牛乳の摂取が習慣化し、同時に栄養教育なども十分にされた結果なのでしょう。多くの消費者にとって、牛乳摂取は単にのどが渇いたから、あるいは料理の原材料だからというのみにとどまらず、「必要な栄養素の補給効果」、「カルシウム補給による骨粗しょう症の予防効果」、そして「子どもの身長をより伸ばす効果」をも期待していると考えられます。これらを含めて、いくつか牛乳・乳製品について健康効果を紹介したいと思います。

(1)必要な栄養素の補給・バランス補正効果
1杯(200ml)の牛乳には138kcalのエネルギーがあります。このエネルギーは成人女性(18~29歳、身体活動レベルI)の1日に必要な推定エネルギー量1,700kcalの約8%に相当します。牛乳は、分刻みで時間に追われるような忙しい社会生活の中にある社会人にとって、手軽に補える適度なエネルギー補給源としての有力な選択肢のひとつです。1日の活動が開始する前に、規則正しく朝食と牛乳を摂ること、それは、働く者にとっての一日の活力、重要なエネルギーの補給となります。
われわれヒトが食事として取り込んだたんぱく質は、栄養成分として吸収され、臓器、筋肉、あるいは皮膚など、体を構成する成分として用いられます。また、生体の代謝に必要な体内酵素・ホルモンもたんぱく質でできています。牛乳には約3.3%のたんぱく質が含まれています。摂取する食品中に含まれるたんぱく質が良質かどうか判断する際に用いられる指標として、“アミノ酸スコア”があります。生体を形成するために摂取しなければならないアミノ酸(たんぱく質のもと)の含有率をもとにした指標で、牛乳は全卵や大豆などと共に最高値の100を示します。ちなみに炭水化物の代表である精白米や小麦は主食となることが多い反面、アミノ酸のうち「リジン」が割合として少なく、アミノ酸スコアが低値を示します。リジンは体内では合成できない必須アミノ酸で、通常は考えられないですが、精白米や小麦だけを食糧とすると、必要量を確保するために大量にこれらの食品を摂取するか、別の食品からリジンの供給を頼る必要が出てきます。牛乳はリジンも適度に含み、摂取するアミノ酸バランスの偏りは生じにくい食材です。なお、“牛乳だけで栄養補給がOKである”ということを言っているのではないので誤解なさらないでください。どのような食事にも栄養的に合うということです。普段、米食、あるいはパン食が習慣化していたとしても、牛乳を摂取することは栄養バランスの偏りを矯正するのに都合がよいということです。

(2)カルシウム補給による骨粗しょう症の予防効果
牛乳にカルシウムが多く含まれることは、よく知られています。骨・歯をつくる成分であるカルシウムは、牛乳コップ1杯(200mL)の中に227mg含まれています10)。日本人の食事摂取基準2015年版(厚生労働省)から計算すると、成人が1日のうち取り込むべきカルシウムの推奨量の約3分の1~4分の1がコップ1杯に含まれていることとなります(表1)。カルシウム摂取は、成人以降は摂らなくてもよくなるどころか、むしろ歳を重ねるにしたがって、摂る量を意識的に増やしてゆかなければいけないということが示されます。とくに老齢期は骨密度が低下し、骨粗しょう症の発症リスクが高い状況にあります。老齢期における消化吸収能力の低下しがちです。しかしそういった傾向は、体内のカルシウム不足を誘発します。牛乳はカルシウム給源として有用です。
成長期は、体が大きくなってゆくにしたがい、骨も丈夫になり体積も増してゆきます。ヒトの骨は、女性が20歳前後、男性では30歳前後まで太く、密度も高くなってゆきます。しかし、骨の新陳代謝は成長の頂点であるその時点でストップするのではなく、実は一生涯続きます。骨の新陳代謝とは、骨の主成分であるカルシウムが血液へ溶け出すこと(骨吸収)と、血中のカルシウムが骨組織へ沈着すること(骨形成)という真逆の作用が同時に行われることです。成長期の頂点までは、骨成分のカルシウムは血液に溶出する量より血液中から骨へ沈着する量が多く、結果的に骨量として増大してゆくのですが、成長期を過ぎると、そのバランスは逆転します。つまり、骨を形づくるカルシウムの量が少なくなってくるということです。骨量の低下は骨の脆弱性を増大させ、骨折のリスクが増加する「骨粗しょう症」へと発展してゆきます。この病症は、分泌されるホルモンのバランスが変化する閉経後の女性、カルシウム吸収が低下する老年期の男女、あるいはビタミンK摂取低下などで発生することが知られています。骨折は生活の質、いわゆるQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を低下させるため、予防医学の面では骨粗しょう症の回避が盛んに叫ばれ、骨折の原因である骨粗しょう症の予防には、①立位での運動②適度なビタミンDやKの摂取③日光を適度に浴びる④若年期からのカルシウムを摂る―といったことが効果的とされています。表1からもわかるように、牛乳1カップのカルシウム量は、15~69歳の女性が推奨されるカルシウム摂取量(650mg/日)の約3分の1をまかなうことができます。カルシウム製剤というものが市販されていますが、特に病気を患っているのでなければ、朝の牛乳1杯で、十分にカルシウム補給の一助となるのではないでしょうか。無論、カルシウムは魚や野菜などほかのものからもバランスよく摂ることをお勧めいたします。

(3)子どもの身長をより伸ばす効果
子どもの成長に関わる牛乳摂取の影響について日本(静岡県)における研究例4)を紹介します。9~10歳(小学4年生)の子供たちに対して、牛乳摂取習慣と身長・体重の関係を3年後のデータと比較したデータです。3年間で伸びた身長は、1日500ml以上牛乳を飲む子供は21.3±1.1cm程度、そうでない子供は18.8±0.5cm程度と、両者間で約2.5cmの差がありました。しかし、驚くべきことに、体重は両者ともほぼ変わりませんでした。この結果は、牛乳摂取により、身長に何らかの影響をもたらすことを示しています。また、この報告では、牛乳摂取が多い例では、肥満度、総コレステロール値が低下する傾向も認められたとあります。おそらく牛乳摂取は動脈硬化を促進する要因にはなりにくく、子供の成長に重要な栄養源であると結論付けています。しかし、注意しなくてはならないのは、このデータが500mlという量で仕切られていることです。牛乳1杯は約200mlですから、500mlは2杯半ということになります。子供は牛乳を飲みすぎる傾向にあります。あまり感じにくいのですが、牛乳には糖分が多く含まれています。牛乳を飲みすぎたことで満腹になり、ほかの食事に手を付けられないということでは、元も子もありません。でも、日々の生活の中では十分に起こりえます。お子さんがおられるご家庭では、通学されている学校で給食が出ているのであれば、牛乳1本が出ているでしょう。その量を踏まえて、家ではちょっと多めの牛乳1杯を飲むくらいで、十分です。育ち盛りならば、極端な量の牛乳を飲まなくとも、食材を意識するだけでカルシウムは十分に補給できるようになります。

(4)血圧を下げる効果
牛乳はこれまで示してきたように、比較的カルシウムが多く含まれる食品であることがわかります。このカルシウムという成分は、ヒトの血圧に影響を与える要因の一つです。具体的事例を示すと、高カルシウム摂取と血圧の値との間には負の相関関係があることは、古くから知られています。乳中のカルシウムが同じく乳に含まれるカリウムと協調して、血中のナトリウムの排出を促す効果です。牛乳の主要たんぱく質であるカゼインは、互いに結び付け合ってカゼインミセルという巨大物質(と言っても、ヒトの目には見えませんが、直径で約10~300nm(ナノメートル))として存在していますが、このカゼインとカゼインを結びつけるのがカルシウムです。口の中から乳が入ると、胃でミセルが胃酸に触れ、また、消化酵素の作用でミセルが分解されたら、カルシウムがミセルから離れ、遊離状態になり体内に取り込まれるようになります。なお、ヨーグルトの上に浮いている透明な液体(ホエイ)にもカルシウムが多く含まれています。ですから、ヨーグルトを食べるときは決して捨てないようにしましょう。
また、牛乳中に含まれるカゼインやホエイたんぱく質も、分解されることで血圧低下に関する生理活性ペプチド3)を生み出す重要な給源です。発酵乳由来のこのペプチドは、血圧を上昇させるために常時生成されるアンジオテンシンⅠ変換酵素(ACE)を抑制する効果があります(図1)。チーズなどでは比較的積極的に血圧抑制活性が調べられています。中でもしっかり熟成をしたゴーダ(熟成8カ月以上)やゴルゴンゾラに高いACE活性が見出されているようです1)。牛乳だけで血圧が下がるわけではありませんが、少なくとも血圧上昇につながるような要因は牛乳にはないようです。

(5)乳製品の虫歯予防効果
牛乳からつくられるチーズは、その多くが乳中のホエイ(乳清)を除いて作られています。ホエイには筋肉などになりやすいアミノ酸が多く含まれ、ホエイプロテインとして栄養ドリンクの材料になっています。水分の比較的少ないチーズの場合、製造工程の中で、虫歯の原因である糖分の大部分が除かれています。そのため、チーズにはむし歯の予防効果があるとの指摘が報告されています2)。
むし歯の原因は、喫食後の歯牙の間に残るプラーク内に潜在的に残る虫歯菌(S. mutansなど)が出す酸です。酸は歯の表面を覆っている硬いエナメル質・セメント質を溶かし、歯の内側の象牙質を侵蝕してゆきます。むし歯は歯が欠損してゆく誰にでも起こりうる疾患の代表例です。図2は、脱脂乳、チョコレート、ミルクチョコレート、砂糖、白いパン、チェダーチーズを口にした時の、歯垢pHの変化観察した研究例を示しています。歯垢pHは低いほど酸性化している状態を示します。pHが5.7 を下回ると、歯のエナメル質が溶けやすくなるとされています。砂糖、チョコレート、パンなどは食べた後、速やかにpHが下降し、エナメル質が溶けやすいとされるpH5.7を下回ります。一方、乳製品のひとつである脱脂乳は、飲んだ後一旦pHが低下しますが、5.7を下回らないで踏みとどまり、再度上昇しています。またおなじく、チーズ(チェダー)では摂取直後から、反対に歯垢のpHが高くなりました。このことから、チーズを食べることが、口腔内で酸を作りにくくし、むし歯になりにくい状態になるという可能性が示されたことになります。食後にひとかけら食べることで、むし歯の予防の一助になるのではと考えられます。

(6)睡眠の質とホットミルク飲用の関係
寝る前のホットミルクの飲用は、よりよい就眠につながるとか、リラックス効果があるなどといわれていますが、詳しいところはわかっていないのが実情です。2002 年にJ-milk が公表した報告書5)によると、200mL のホットミルク飲用で、寝つきや睡眠効率(就床時間に対する睡眠時間)が対照(寝る前に何も飲まない)に比べると高値を示し、睡眠の質が向上することを示されました。アルコール飲用は睡眠の質を低下させることは経験的にも理解できますが、しかし、飲酒の際にホットミルクも飲用することで、睡眠の質低下を食い止め、朝の目覚め時の負担感が軽減されることがデータ的に示されています。

引用文献:酪農ジャーナル電子版酪農PLUS

2022-6-10 | コメントは受け付けていません。

酪農現場における暑熱対策

1.現場で暑熱を評価する
乳牛の暑熱を評価する指標には、①乾湿球温度による体感温度、②風速による体感温度、③温湿度指数(THI:Temperature Humidity Index)、④風速、放射を考慮した修正THI(adTHI)があります。このうち、放射以外は比較的容易に計測できるので、現場での利用が可能です。
暑熱を計測するためには、温湿度計、風速計が必要となります。風車型の風速計と温湿度計が一体となった計測器が市販されているので、現場でぜひ1台用意していただきたいと思います。

暑熱の指標の詳細は以下の通りです。

1)乾湿球温度による体感温度

棒状温度計が2本並び、一方の感熱部にガーゼを巻き水つぼに浸して湿球(WB)とし、もう一方を乾球(DB)として、それぞれの温度から湿度を計測する乾湿計の表示値から体感温度を計算する方法です。

乾湿球温度による体感温度(℃)=0.35×DB(℃)+0.65×WB(℃)

で表されます。最近ではこの乾湿球型の温湿度計はほとんど用いられなくなり、デジタル式の温湿度計が広く利用されています。このため、気温(℃)と相対湿度(%)による体感温度の関係を求め表1に示しました。

この体感温度による暑熱の評価は、愛媛県、徳島県、農水省の各畜産試験場(研究当時)の研究結果から、①体感温度19.4℃から呼吸数が上昇し、②体感温度21.6℃から直腸温が上昇するとされています。また、③日平均体感温度が21.7℃以上になると乾物摂取量が低下し、④日平均体感温度が22.2℃以上で乳量が低下するとしています。この研究から、日平均体感温度が19℃を越えると「注意」が必要となり、25℃を超えると「危険」とされる領域になります。この温度を踏まえて乳牛の暑熱対策をします。

2)風速による体感温度
乳量の減少率を基にした送風効果を体感温度で表したものです。

牛舎内に風を起こして暑熱対策をするトンネル換気の原理を示す式です。

3)温湿度指数(THI)
人間の不快指数と同じ式で計算されます。

温湿度指数(THI)=0.8×DB(℃)+0.01×RH(%)×(DB(℃)-14.4)+46.4

で表されます。
THIによる評価は、ストレスなし:72未満、軽度のストレス:72~78、強いストレス:79~88、非常に強いストレス:89~98とされています。しかし、これは乳量が15.5kg台の牛により作成されたものであるため、Maderら(2006)は新基準として、ストレスなし:65未満、軽度のストレス:65~71、強いストレス:72~81、非常に強いストレス:82~92を提案しています。

これらのTHI評価基準と体感温度での評価を比較すると、体感温度の「注意」と旧基準の軽度のストレスがほぼ同じですが、新基準では気温が19℃とより低い段階から注意喚起がされていることがわかります。また、THIのほうが湿度が低くとも高く表示されることがわかります。

4)修正THI
温湿度指数を求めるときに風速と放射を考慮したものです。

修正THI=4.51+THI-1.992×風速(m/秒)+0.0068×放射

で表されます。放射は主に屋根面の温度により影響を受けます。酪農現場での放射計測は測定器が高価なため簡単には計測できないので、放射を0とし風速を計測して風速による効果が含まれたTHIとして検討します。評価指標はTHIの旧基準を用います。

2.現場での暑熱対策
現場で実施可能な暑熱対策としては、日射による影響を防ぐもの(日除け、屋根散水、屋根断熱など)と牛体から熱を奪う方法(送風、ミスト、散水、冷房など)があります。

1)日除け
東西方向の牛舎では、南側に牛床スペースがあると日射が牛舎内に入り暑熱環境を作り出すことになります(写真2)。また、寒冷地では冬期間日射を取り入れるため屋根に透明板を使っている例が多くあります。夏期はこの透明板から強い日射が差し込み牛舎内が暑熱となっていることが多くあります。
このため、日射を防ぐために庇ひさしを長くしたり、遮光ネットを庇から延ばして牛舎内に日射が入らないようにします。また、屋根の透明板の裏側に寒冷紗やアルミ蒸着シートなどの遮光資材を広げて日射をさえぎるとともに、換気を良好にして遮光資材で暖まった空気を排除します。
牛舎にパドックが併設されている場合には、パドックにも寒冷紗やアルミ蒸着シートなどを掛けて日除けすることで、舗装面温度の上昇を防ぎ、熱風が牛舎に入らないようにすることができます。

2)屋根散水、断熱、塗装
大型の牛舎では天井を張らないので、多くの場合屋根裏面が直接見えます。屋根面が日射で高温になると、放射熱で乳牛は暑熱を感じます。このため、屋根面を冷やすために散水したり、断熱をして屋根裏が高温になるのを防いだり、反射率の高い塗装することで屋根の温度上昇を抑えるようにします。

3)送風機
風による体感温度のところで示したように、1m/秒の風速で体感温度は6℃低下することから、乳牛に風を当てることは暑熱対策として極めて有効な手段です。牛舎周囲の風向に逆らわないようにして牛舎内に効果的に風をながします。トンネル換気も有効な手段ですが、縦断方向よりも横断方向に風をながした方が極めて効果が高くなります。特につなぎ飼い牛舎では、横断換気の方が乳牛に直接風を当てることが容易になるため効果が高くなります。

4)ミスト
送風機とセットでミストを噴霧すると気化冷却で乳牛の体温を低下させることができます。湿度が低いときには極めて高い効果がありますが、湿度が高いと気化冷却の効果が薄れるため、牛床を濡らす原因にもなるので注意が必要です。

5)牛体への散水
牛体に直接散水して冷却するとともに、送風をして牛体からの熱を奪うことができます。フリーストール牛舎の飼槽部分に散水ホースを設置して採食時に散水する「ソーカーシステム」が広く利用されています。乳牛が混み合う待機室でも、乳房まで濡れないように注意して散水します。
つなぎ飼い牛舎では、牛床まで濡れてしまう場合があるので注意が必要です。

6)冷房・除湿
気温が35℃以上の猛暑日などは、風を当てても効果が薄れるため、冷房や除湿も検討されていますが、コスト的に見合うかどうか十分な検討が必要です。
地中熱交換等の冷房では除湿されない場合が多く、空気温が下がっただけでは逆に相対湿度が高くなり、現在の体感温度やTHIから右上に移動するだけで、ほとんど効果がない場合があるので注意が必要です。

7)牛舎周囲の緑化
牛舎周囲を緑化することでも、牛舎内の温度低下が期待できます。作業動線や敷地の広さにも影響を受けますが、舗装面はできるだけ抑えて、緑地を増やすことで景観も良くなります。

3.現場での注意点
1)温湿度計を設置して現状を知る
牛舎内がどれだけの暑熱環境にあるかを正確に知るためにデジタル温湿度計を設置します。
まずは現状を知らないと対策をとることができません。安価な温湿度計が多く出回っているので、できるだけ表示が大きなものを直射日光が当たらない場所に設置し、日々点検します。
乳牛が暑熱を感ずるのは湿度70%では気温22℃くらいからなので、人間にとっては快適であっても牛舎内は暑熱環境にあることになります。乳牛からは大量の熱と水蒸気が発生しているので、気温が20℃くらいでも牛舎内は気温・湿度ともに高くなって暑熱になっている場合があります。特に、搾乳時の待機室は乳牛が密集するため暑熱になりやすいので注意が必要です。

2)インバータの作動温度をチェックする
牛舎内の気温は日中高く夜間は低くなり、湿度は夜間から明け方高く日中は低くなります。このため、インバータの強弱の作動温度が高い場合、気温が低くなっても湿度の高い夜間に、送風が必要なのに送風が弱く乳牛を十分に冷却できない場合があります。体感温度をチェックしながら、夜間であっても風量が落ちないようにしたり、散水をするなどしてしっかりと暑熱対策をする必要があります。

3)暑熱期以外の暑熱対策
人間でも身体が馴れていないときの暑さは非常にこたえるし、暑熱期が終了した秋でも残暑が続くとこれまたこたえるものです。乳牛も同じであることから、こうした期間でも細心の注意を払って乳牛の健康管理に心掛けて欲しいと思います。

引用文献:酪農ジャーナル電子版酪農PLUS

2021-6-24 | コメントは受け付けていません。

牛の漢方医学のハンドブック「牛書」とは?

牛の漢方医学書・『牛書』とは?
著作者は不明で、1744年、播州(現:兵庫県)在住の山本秀實という人物によって写し取られた牛書が、財団法人武田科学振興財団杏雨書屋によって保管されているので、やはり1720年に成立された「牛療治調法記」と同時期に牛書が発刊されたと考えられます。もとは中国本の牛医学書・「牛経大全」を手本としていましたが、伯楽たちの診療経験などを踏まえられ、実用書として形成されていったと言われています。

 牛書内に掲載されている病気の番付1~37では、各々の病気名・症状、そして治療と対処方法(漢方薬処方・鍼灸部分)が、牛のイラスト付きで事細かく記されており、特に治療針を打つ方法が記されている項では、牛とその内臓器官(肝臓は黒肝、小腸は百尋、脾臓は脾ノザウと記載)が描かれており、針を打つ部分(経穴)と針を打つ深さも解説されています。また漢方学らしく、第一に「見立て(診断・診察」を最重要視とし、鍼灸や漢方薬を牛に施す事によって牛が本来所持している強い治癒力を高め、疾患を克服するのを目的とする事も牛書から読み取れます。

 漢方薬処処方箋の詳細さにも驚きを覚えます。1番に記載されている病気は「牛の風邪(風ヒク牛之図)」ですが、その折の症状は、牛体を震わせ尻尾を足の間に挟み込み、時々しゃっくりをする、黄色い膜のようなものが口内にあり、手を当てて診てもそこに熱感が無い等々が細かく記された後、治療法として排毒剤を投与する事と、その生薬処方が記されています。それは「大人参・小人参・独活(共にウゴキ科、甘草(マメ科・カンゾウ)、前胡・紫胡(セリ科)、枳穀(キコク・ミカン科の果実を乾燥させた物)を用いる」と、漢方学に精通している人物が少ない現代人には馴染みの全くない生薬が登場してきます。また牛が風邪によって腹部が鼓張する場合や身体に冷感がある場合の生薬処方も、全て1番内に明記されています。

 以上の様に、1番・「牛の風邪」を1つ例に挙げてみても、これ程細かく症状・漢方薬処方が記されている事がお分かり頂けたと思います。江戸時代の獣医学を含める医学というのは、どうも迷信的であるイメージが付き纏いがちですが、それは間違いです。牛書を見る限り、当時の人々の医療知識の深さや技術の高さに感嘆させられます。

引用文献:酪農と歴史のお話し

2021-5-28 | Leave a Comment

日本における肉用牛の経緯

牛肉食禁止の古代日本
日本に牛が伝来した時期は、弥生時代初期(紀元前10世紀頃)と大和朝廷時代(西暦6世紀頃)という諸説が研究者の方々の間で諸説があり、伝来時期は未だ釈然としないですが、兎に角にも古代には既に、朝鮮半島を経て牛が日本に伝来したという事は確実のようです。

牛(馬も含める)を日本に持ち込んだ人々は、当時最新の文化や技術を保持していた中国・朝鮮の亡国王朝の生存者たち(渡来人)であると言うわれています。大陸の最新知識を所持していた渡来人は、その後の日本文化や思想の発展に大きく貢献したサロン人であり、日本の古代畜産技術も飛躍的に発展したと言われています。天皇家に初めて牛乳の利用法や搾乳法を伝えた孫智聡・善那親子もそのサロンの人です。

中国人や朝鮮人は古代より牛肉や乳製品を食する事には抵抗が無い人々であったので、渡来人も牛肉を食していたと思われるのですが、牛を食用として飼育していたという記録は見つかっていません。牛は農耕や運搬労力として重宝されていたので、肉を食べれた人は上流階級の極僅かである上、食べる機会も極めて少なかったと思われます。牛肉を食す代わりに、狩猟で野鳥な鹿を狩って、それらの肉を食用としていた記録や歌が残っています

日本の食肉史を語る際、仏教という思想は無視できない存在です。仏教が伝来したのは6世紀中頃ですが、朝廷は日本を仏教思想のもと、1つに統合する事を目指して仏教の布教に勤めました。聖徳太子の法隆寺建立がその中心的存在です。

更に仏教の思想を日本国内に徹底させるため676年、天武天皇は詔(ミコトノリ・天皇の命令)として、馬・牛・犬・鶏・猿といった動物を殺す事を禁止する『殺生禁断令』を出します。これが日本史上初の肉食禁止令となり、その後も12世紀頃まで各天皇により繰り返して、食肉禁止令が発布されました。

上記の肉食禁止令は、日本の畜産の在り方を大きく変えた転換点になりました。英国をはじめとする西洋・米・豪などの各国が有史以来、良質な牛肉を多く得るための畜産技術や品種の向上が図られ発展しましたが、古代の日本は殺生禁断令によって、牛肉を公に食する事を禁じられたので、良質な牛肉を得るための日本の畜産力は頭打ちになってしまいました。

平安時代になっても、牛肉が貴族(当時の為政者)の間で公に食される事はありませんでした。彼らが仏教(食肉禁止令)への帰依が強い事もありましたが、彼らの象徴的な乗り物・牛車を使っていたのも、牛肉を食べなかった理由になっています。
貴族の権力が廃れ、替りに武士が権力者となった時代になっても、やはり牛肉を大々的に食べる事はしませんでした。但し貴族の様に仏教的思想が起因ではなく、武士の根幹である農地(領地)を耕す貴重な労力や鎧を製造する際の皮材料を亡くさないための合理的思考があったからです。

動乱の戦国時代では、キリスト教など西洋文化が初めて国内に導入された時期であり、その中には牛肉を食する文化も入っていました。キリスト教宣教師が牛飯を調理し国内信者に振る舞った事や、戦などで負傷して使役として利用不可能となった牛馬を屠畜して、それらの肉を焼いて食している事(すき焼きの元祖)や、熱心なキリスト教徒であったインテリ戦国武将・高山右近(1552~1615)が同じインテリ仲間である大名達と、牛肉料理を食べた記録が残っており、一部の日本人(武家)の間に牛肉が食されていた事を示しています。しかし食肉禁止令が形骸化したとは言え、牛肉を食べる事は一般的にはやはり禁じ手であった側面もあり、豊臣秀吉は、宣教師・コエリョが牛を売買して食べた事について難癖を付けた記録も残っています。

江戸時代でも、幕府は庶民に牛肉を食する事を建前上禁止しており、特に農民が所有している農耕牛を屠殺する事を固く禁じていました。江戸市民の間でも兎や猪などを食べさせる肉屋(通称:ももじ屋)はありましたが、牛肉は提供されていなかった様です。これ程、庶民に牛肉を食べる事を禁じていた肝心の江戸幕府上層部(将軍・御三家)は、彦根藩が飼育していた近江牛(赤斑牛)の肉味噌漬けを毎年献上させて、食べていたのです。特に幕末の水戸藩主で牛乳好きであった徳川斉昭は、この近江牛味噌漬けが大好物であったと伝わっています。

広く本格的に庶民の間で牛肉を食されるようになったのは、明治時代になってからです。逆に明治政府が、積極的に牛肉や豚肉を食べる事を庶民に奨励し、1万円札で有名な福澤諭吉も牛肉奨励パンフレット『肉食之説』を執筆し、牛肉のススメを行っています。しかし、当時未だ庶民の間で、牛肉を食べる事にかなりの抵抗を示し、様々な揉め事がありましたが、特に明治天皇が牛肉を食された直後の明治5年2月に、御岳行者集団が皇居に乱入、牛肉反対デモを起こすという事件もありました。最も当時の屠殺技術が未熟であった為に血抜きが上手く出来ておらず、血生臭い牛肉料理で庶民の間で不評であったようです。

牛肉が庶民の間にも好き好んで受け入れられる様になったのは、1904年のロシア帝国と勃発した日露戦争の時に、乾燥牛肉や缶詰が考案され、軍隊の食糧となりました。これが徴兵された士卒の間で大好評、戦争終了後の復員した庶民で、牛肉は忘れられない恋しい味となって、牛肉の普及に拍車をかける一事になりました。
大正にはハム製造が開始され、関東大震災後はコンビーフンが大量に輸入され普及し、その後も洋食産業が日本国内に拡散し、大正末期~昭和初期になると、日本人の牛肉に対する嫌悪感や忌避感は殆ど無くなり、寧ろ庶民の間では普段食べる事が出来ない超高級料理となりました。

牛肉と日本人の歴史も長く深いのです。

引用文献:酪農と歴史のお話し

2021-5-14 | Leave a Comment

牛関連の慣用句・ことわざ

人類が地上に誕生し、彼らが狩猟生活を経て、牛や馬・羊などの動物を家畜化に成功して以来、牛や馬は人類と共に生きてきました。更に時代が下り、人々は一つの土地に定住する事を覚え、互いに集って村や街を造り、更には社会・国・文化、そして文明を創り上げてきました。この様に、どんなに人類の文明が発達しても牛や馬などの家畜動物は、いつでも食料・衣料・労力といった物量面でも、我々人間が生きてゆくために大きな力となってくれていますが、それだけではなく、我々が生きる上で、時には素敵な指針、あるいは心の支えとなる慣用句や諺(ことわざ)といった『精神の拠り所』面でも、牛と馬は何らかの形で登場し、我々の大きな力になってくれています。この心の拠り所もまた人が生きてゆく上では、とても大切な物であり、古今東西、家畜動物は物心両面で我々を支えてくれているのであります。

今記事では、我々に『心の拠り所』の1つとして、古代より様々な力を与えてくれている『慣用句・諺』、しかも『牛・馬から誕生した慣用句・諺』の一部を紹介させて頂きたいと思います。ある種の雑学や語源録の様な記事になる公算も大きいので、ご興味のある方は是非、お読み下さいませ。先ずは「牛から生まれた慣用句・諺」から紹介させて頂きます。

①牛に引かれて善光寺参り(慣用句)
自分の意思や考えからではなく他人の誘いで、思いがけない良い結果になったり、良き方面に導かれたりする意味。

日本では、牛に纏わるこの慣用句は一番知られているのではないでしょうか。解説させて頂くと、この慣用句の出典は不明ですが、江戸時代中期の国内旅行ブーム期の人気スポットの1つであった善光寺参りが有名になっていた折に、広まった慣用句だと言われています。
 
信濃国(現・長野県)にある善光寺近くの小県(真田氏の本拠地で有名)という土地に住みながら、全く信仰心が無い老婆が、ある日家の外に干していた布を、どこからか現れた牛1頭(実は観音菩薩様の化身、現在の布引観音)が、その角に布を引掛けて走り去ってしまいました。これを見て怒った老婆は、牛を必死に追っかけて行きますが、牛の逃げ足がとても速く、捕まえる事はできません。そうする内に、遂には善光寺の金堂前まで来てしまい、その直後、仏様の教えを受け、これを契機に老婆は深い菩提の心(信仰心)を持つようになったというのが、この慣用句の意味になっています。因みに、牛が持ち逃げした布は、老婆の近くの家の観音堂で後日見つかったそうです。これが現在、長野県小諸市にある布引観音になります。

生きていると親しい友人や目上の方々から、自分の興味の無いスポーツや美術鑑賞など文化行事の付き合いに誘われる事が多くあると思いますが、それでも自ら進んで、誘いを受け行ってみては如何でしょうか。それで新たな趣味や考え方に出会えるかもしれません。それは取りも直さず、自分の器の幅が少し大きくなった。という事を示している結果ですから。

②牛も千里、馬も千里(諺)
早くても遅くても、また上手でも下手でも、行き着く結果は同じだから慌てるな。という意味になります。

類以の四字熟語では『大器晩成』に当たりますかね。とにかくにも、筆者の平凡人には何とも励みになる諺であります!

③ 角を矯(た)めて牛を殺す(諺)
小さな欠点を直そうとして、かえって全体をだめにしてしまう意味になります。

牛の曲がっている角をまっすぐに直そうとして、却って牛を死なせてしまい、肝心な根本を駄目にしてしまう事から上記の意味になっています。欠点は少ない事に越した事はないかもしれませんが、考えてみればその欠点が自分の長所になる場合があるかもしれません。だからと言って欠点を過度に尊重したり、増長するのは、やはり良くありません。自分の欠点を程良く愛でる事が出来る余裕の心を持ちたいものであります。また他人の小さな欠点に対しても一々目くじらを立てて論わず、笑って見過ごしてあげたり、優しく諭せる様な広い心を持ってゆきたいものであります。

④牛耳る(慣用句)
団体や組織を支配し、思いのままに動かす意味になります。
 
この慣用句も皆様、よくニュースなどでお聞きになられたり、小説などで読んだ事があると思います。本来は「牛耳を執る」と言われていたのが、短縮され『牛耳る』となりました。出典は、中国の歴史書「春秋左氏伝」内の魯国王の哀公17年の故事に因んでいます。即ちその故事とは中国春秋戦国時代に、諸侯が同盟を結ぶ際に、盟主が牛の耳を裂いて、皆がその血をすすり合って、組織に忠誠を誓い合いましたが、その儀式を執り行う盟主を『牛耳を執る』というようになり、それが転じて、組織を思いのままに動かす意味に転じました。(参照:語源由来辞典)
因みに何故牛の耳なのかと言うと、古代中国では、牛は神事や儀式に奉げる大事な生贄であったので、同盟の儀式でも牛が利用されていたと考えられます。

⑤鶏口となるも牛後となるなかれ(諺)
大きな組織の末端で働くよりは、小さな組織の長として働いた方が良い。という意味でつかわれます。類義の諺で「鯛の尾よりも鰯の頭」があります。

これは牛が悪い例に使われている諺ですが、この諺内では牛も立派なキャストですので、紹介させて頂きました。出典は、中国史上最高の歴史書・史記の蘇秦伝からになります。蘇秦という人物は現代風に例えるならば、名外交官であり、後に六国の宰相になった傑物ですが、その蘇秦がある国王に外交方針を助言した際に、「鶏口となるも・・・」という諺を使っています

確かに大企業に働いているのも本当に良い事であるとも思いますが、その分、入社や勤務(競争)や(社員が多いが故に)人間関係も大変だと思います。零細企業で働く方で、将来が不安を抱いている方は、この諺を思い浮かべて日々のお勤めをされては如何でしょうか。将来、何か展望が開けてくるかもしれません。

以上、今回は牛から誕生した慣用句・諺の一部を紹介させて頂きました。この拙稿をお読みになり、古くから伝っている人類の宝庫の1つ「慣用句や故事成語(諺)」に少しでもご興味をお持ち頂ければ嬉しく思います。

引用文献:酪農と歴史のお話し

2021-5-3 | コメントは受け付けていません。

牛にも鍼灸治療がある!

鍼灸治療とは?

「漢方医学」と聞いて、(漢方医学の素人の)筆者が真っ先に思い浮かべるのが、「漢方薬」ですが、その次を挙げるのなら、今記事の表題である「鍼灸(しんきゅう)治療」でしょうか。鍼灸治療は、古代中国(紀元前春秋期)には既に誕生しており、以来、中国や日本を含めるアジア諸国内では、生薬を用いる「生薬医療」と双璧を成す、漢方医学となってきました。

 この読み方が難しい療法を見る度に、筆者は、池波正太郎氏の代表作の1つである「仕掛人・藤枝梅安」を思い浮かべてしまうのですが、本作の主人公である梅安は、裏社会では凄腕の仕掛人(暗殺者)として暗躍していますが、彼の本業(表社会の顔)は、優れた鍼灸(漢方)医であり、病気で苦しむ人々を鍼治療で救っている描写がよく出てきます。



 特殊の鍼を使って、人体に多数存在する経穴(ツボ)に刺し、刺激する事によって体調を整え、またある時は、経穴上にある皮膚に灸を据える事によって、体内の血行を良くなり、人間が本来持っている治癒力を高めるのが「鍼灸治療」の本質です。

 先述の如く、紀元前の古代中国で誕生したこの治療法は、日本でも室町期から発展し始め、現在でも様々な紆余曲折を経て、「鍼灸業」として小規模ながら生き続けており、治療の一助になっています。そして、この治療法は、牛の飼育世界でも無縁では無く、昔より生薬治療と並んで、牛馬の治療に役立ってきており、現在の乳牛治療の一環として、鍼灸治療(特に灸)を取り入れている獣医師もいます。(筆者の旧職場担当の獣医さんが灸治療の推薦者でした)

 これよりは、牛の古典書「牛書」に載っている、牛に対しての鍼灸治療を探ってゆきたいと思います。

牛の鍼灸治療

現在でも犬などのペット動物を中心とする獣医業界でも鍼灸治療(動物鍼灸学)を採用している話題を、時折見聞きしますが、古文書『牛書』に掲載されている牛の病気や怪我に対する治療法にも、生薬を投与する漢方薬療法が主だっていますが、中には鍼と灸を利用した物理的療法も紹介されています。

 第2番『熱越(高熱)』の冒頭には、『悪い血が内臓に入ると牛は死亡するので、針を用いてゆっくり瀉血(しゃけつ)する。(原文:ハジメニ針シテ血少ツ々スク。ワノ血ザウエヲチコロス)』と、生薬投与する前に、先ず鍼(針)治療を行うことを教えているのを皮切りに、第11番の『早越(腰や脛が萎える神経系疾患)』・第15番の『肝の腫れ(内臓付近の腫れ)』に対しても、鍼での瀉血治療を最初に薦めています。次の16番にも『風ばれ・火ばれ(怪我による共に膿腫れ)』様な外傷に対しても、鍼で膿水を抜き取る処方も記されています。また病気を診断する方法として、第7番『立の診断』内で、時々しゃっくりをする牛の鼻の下を鍼で軽く穿刺して、牛の発熱具合を診るという、何とも面妖な紹介もされています。
 以上は、牛書内に掲載されている鍼を使っての牛の疾患の治療(診断)でした。当時は、牛に対しても鍼治療が頻繁に行われていた事が、本書から読み取れます。刺す箇所(ツボ)さえ心得ていれば、牛でも鍼1本でお手軽に治療できるという事でしょうが、その反面、鍼を打つ箇所や深浅を間違うと、治療ミスで、牛に慢性的後遺症など大変事なるというリスクもあります。その事を、第14番『針違い(針血開)』にも十二分に注意せよと強調されています(原文:針立チガイ、ノチハナガクワズラフモノナリ)。



 鍼治療は、確かに効果的な医療の1つだと思いますが、やはり動物(人間)に鍼を刺すという危険な治療法ですので、牛書が言う通り、中途半端な知識や技術の持ち主が実施したら健康に関わる大問題になります。そこで難しい知識を要する鍼治療に対して、現在の乳牛の治療に行われているのが、『灸治療』です。筆者も乳牛に対して鍼治療は行った事はありませんが、灸(温灸)治療は担当獣医師から教示してもらい、実施したことが多々あります。灸を据える箇所を知り、乾燥した艾(もぐさ)と火種があれば、治療可能ですので、手頃と言えば手頃な方法です。

 『牛書』にも勿論、灸治療の項がありまして、第17番『胃帰り』という胃病(食欲不振・反芻障害)の際には、『百会(ひゃくえ、別名:百経)に灸を据え治療をしたら、牛の食欲は戻る』と書いてあります。人間の場合、百会という経穴(ツボ)は脳天にありますが、牛と馬の場合は、脊梁(背骨)の尻から少し前の高い所に位置しており、ここを灸で温めると、体内の血行が良くなり、内臓の働きも活性化されるという事です。



 先述のように、筆者も第17番「胃帰り」の様な胃病(食欲不振・ケトン病)や産後の体調不良になった乳牛に対して、灸治療を行った事がありますが、やはり百会には必ずお灸を据えていましたが、他の経穴である、脊梁の中心・両尻の窪み部分・3番目と4番目の肋骨の間にも、病状に応じて灸を据えていました。

 筆者が乳牛に施した灸治療は、艾を直接、牛の経穴上に置くという、いわゆる『透熱灸』ではなく、牛の皮膚と艾の間に、味噌を分厚く塗り、灸を行うという『隔物灸(温灸の一種)』のみでした。そうする事によって、牛に熱過ぎる不快感や火傷を与えることなく、灸治療を行えます。(ただ終盤になると、さすがに熱く感じるようで、尻尾を振り廻して、百会や尻のお灸を落そうとしたりしますが)
 
 上記の様な体調不良の乳牛に対しても、灸治療を平均1日2回を数日行うと、やはり食欲が戻ってまいります。決して気休めではないみたいです。

引用文献:酪農と歴史のお話し

2021-4-23 | コメントは受け付けていません。

免疫機能を活性化する

牛乳・乳製品には免疫に関与する栄養素が豊富
2020年3月、イギリス栄養士会は、食事によって免疫システムをブースト(上乗せ)することはできないとする声明を発表し、その上で免疫能の正常な機能に関与する栄養素はたくさんあり、免疫機能をサポートするバランスよい食事の維持を推奨しました。日本栄養士会も同様に、いろいろな食品から免疫に関与するすべての成分を摂取するのが、科学的根拠に基づく方法とする声明を発表しました。免疫細胞の新陳代謝に必要なたんぱく質をはじめ、牛乳・乳製品はそれらの栄養素を網羅的に含み、免疫調節活性のチカラになります。

免疫の司令塔の腸内環境を整える乳酸菌
乳酸菌を含むヨーグルトは、免疫細胞の6~7割が密集する腸内環境を整えることで知られています。乳酸菌やビフィズス菌などのプロバイオティクスによる、免疫活性や感染症予防のエビデンス(科学的根拠)はまだ十分に蓄積されていませんが、日本の感染症診療ガイドラインでプロバイオティクスを利用した製剤の有用性について言及されるなど、医学的にも少しずつ評価が高まっています。

ラクトフェリンに炎症制御機能
ヒトの母乳に多く含まれ、牛乳のホエーたんぱく質にも含まれるラクトフェリン。腸内細菌学会ホームページでは、その生理機能としてビフィズス菌増殖作用、抗菌作用、免疫調節作用などが紹介されています。最近の日本の研究で、ラクトフェリンが感染症などに伴う炎症を制御する仕組みも解明されました。

引用文献:ミルクランド北海道

2021-3-2 | コメントは受け付けていません。

ホルスタイン共進会とは?

1.共進会とは

「共進会」とは物の優劣を競う会のことを指します。そのためホルスタイン共進会とはホルスタイン種の優劣を競う大会ということになります。ホルスタイン共進会は、乳用牛の資質の向上と改良増殖を行い、酪農の安定的発展を目的に実施されているものです。つまり泌乳量が多く、長命連産が可能な牛を選抜し、その血統を受け継ぐ牛を生産することで酪農経営の安定に寄与することを目的として実施されています。

なお、共進会で優劣をつける際には、一般社団法人日本ホルスタイン登録協会が定めた「ホルスタイン種雌牛審査標準」という審査基準に基づき牛の容姿や骨格、乳房のバランスなど様々な項目に対して審査が行われます。

また、審査は月齢別、経産・未経産の別に分けて実施され、審査員が一人で行います。



2.共進会用語の解説

共進会では専門的な用語が用いられますので、以下にその解説を行います。

グランドチャンピオン…各部別のチャンピオンの中で最も優れた牛のこと(総合優勝)

リザーブグランドチャンピオン…各部別のチャンピオンの中で2番目に優れた牛のこと(総合準優勝)

チャンピオン…各部別に1位の牛のこと

リザーブ…各部別に2位の牛のこと

ベストアダー…最も優れた乳器の牛に送られる賞

ベストプロダクション…SCM換算乳量でトップのもの

ベストエーリア…地区別対抗戦で最も優れた地区に送られる賞

プレミアエキジビター…共進会で最も良い成績を収めた出品者に送られる賞

ベストリードマン…牛を引くのが最も上手な若者に送られる賞

ジュニア…未経産牛のこと

インターミディエイト…2歳、3歳の経産牛のこと

シニア…4歳以上の経産牛のこと

Jサイア…国内後代検定のこと

引用文献:酪農ジャーナル電子版酪農PLUS

by Rimu

2021-2-18 | コメントは受け付けていません。

乳牛の基本情報 ~歯~

牛は産まれてから2週間ほどで乳歯が生え揃い、生後5~6カ月ごろから4歳ごろまで段階的に永久歯に生え変わります。

歯は切歯、犬歯、前臼歯および後臼歯の4種類に分けられ、乳歯から生え変わった永久歯は総数が32本になります。乳歯の時には後臼歯がなく、総数は20本です(下記の牛の歯式を参照してください)。永久歯の本数は人と同じですが、歯列は大きく異なります。



牛の歯式*

切歯 犬歯 前臼歯 後臼歯
上顎 0 0 3 3
下顎 4 0 3 3


人の歯式*

切歯 犬歯 小臼歯 大臼歯
上顎 2 1 2 3
下顎 2 1 2 3


*歯は左右対称に生えるので、歯式は片側の歯の本数を示します。



反芻動物の上顎には切歯と犬歯がなく、その部分には歯肉が硬くなった歯床板があります。下顎の切歯と上顎の歯床板はそれぞれ包丁とまな板の役割をしており、舌で巻き取った草を歯床板に当てて切歯で切り、口腔内に取り込みます。実際には、ヤギやヒツジはこのように採食をしますが、牛の場合は舌を使って引きちぎってしまうことがほとんどです。そのため、ヤギやヒツジが食べた後の草は揃った高さになりますが、牛が食べた後の草は高さが不揃いでギザギザになります。

下顎には本来犬歯が1本ありますが、肉食動物や雑食動物の様に鋭く尖った形ではなく、切歯に隣接して並び、切歯に近い形をしています。また、肉を切り裂いたりする犬歯本来の役割を持っていないことから、切歯の中の1本として扱われるのが一般的です。

臼歯は上顎と下顎で噛み合う形状になっており、繊維質の多い牧草など硬い飼料をすりつぶすのに適しています。

犬歯と第1臼歯の間には歯がない部分があり、槽間縁そうかんえんといいます。そこから口腔の検査を行うことができます。


引用文献、写真引用: 酪農ジャーナル電子版酪農PLUS

2021-2-7 | コメントは受け付けていません。

2024 菅原道北削蹄所|北北海道を幅広くエリアカバーする牛削蹄所です . | Blue Weed by Blog Oh! Blog