私は道北のとある町で獣医師をしているものです。
菅原削蹄師からコラムの依頼があり、僭越ながらお受けすることになりました。
よろしくお願いします。
突然ですが皆さんルーメンアシドーシスってご存知ですか?
『そんなのは当然だ』とおっしゃる方もいらっしゃると思いますが少しお付き合いください。
ルーメンアシドーシスは一般的に粗飼料に対して配合飼料(特にコーンなどの炭水化物飼料)が多いと発症すると言われています。
はたしてそれだけでしょうか?
現在は完ぺきに飼料設計されているTMRを給餌している農家さんも多いことと思います。
また分離給与を行っている農家さんでは飼料分析にはきちんと出しているし、飼料の給与順もきちんと守っている人が多いとか思います。しかし削蹄師に『蹄葉炎が多いですね』って言われたことはありませんか?本来はそのような飼養環境ではルーメンアシドーシスは起こりづらいはずです。ではなぜ起こるのでしょうか。
答えは単純です。飼料設計プログラムなどの機械が飼料を食べる牛ではないからです。
では牛の体では何が起きているのでしょう。牛の体で唯一アシドーシスを補正できるものは唾液です。
唾液を出すため必要なこと、それは反芻です。
牛の反芻を起こさせるには粗線維がルーメンの粘膜を刺激することが必要です。
分かりやすく言えば線維分の少ない高水分のサイレージだけでは線維質が足りず、消化スピードが速すぎるためルーメンの粘膜への刺激が足りません。結果として反芻が起こりにくくなります。このことにより唾液によるルーメンの酸性の中和が行われずアシドーシスになるというわけです。
ルーメンアシドーシスの症状としては軟便、腹を巻く(特にけん部の凹み)、削瘦などいろいろあります。
しかしもっと早くに表れる症状があります。実はアシドーシスはお腹が痛いそうです。しかもチクチクとした痛みらしく牛はとてもイライラするそうです。ですから『なんだか最近牛群が軟便で落ち着かないなぁ』と思ったらルーメンアシドーシスを疑ってみる必要もあるのではないでしょうか。
最後にルーメンアシドーシスの対処方ですがまずは粗線維の給与です。
TMR給与であれば乾草を混ぜるのが一番ですが、それが不可能であれば乾草を飼槽に置いておくだけでも十分です。
また分離給与であれば給与の合間(飼槽が空の時間)に乾草を給餌するのが良い方法かと思います。
牛は自分のお腹の調子を整えるために異常があれば自ら食べるはずです。できれば乾草は良質なものを選びましょう。
ぜひお試しあれ。
次回はルーメンアシドーシスの時、牛の体で何が起こるのかについてお話したいと思います。
by とある獣医師
写真素材: Photo by (c)Tomo.Yun