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牛乳摂取はコレステロールの低下に関係し、冠動脈疾患リスクを 低減する ~英国で行われた遺伝疫学研究から~

牛乳乳製品の摂取と心血管代謝疾患との関連については多くの研究が行われてきており、牛乳摂取はこれらの疾患のリスクを高めるとして、低脂肪乳の摂取が推奨されてきました。しかし、最近行われた大規模なコホート研究やメタ解析の結果では、むしろ循環器系疾患のリスクを下げることが報告されています。
今回は、英国のレディング大学などが約 200 万人のデータをもとに行った研究で、International Journalof Obesity に掲載された論文「1,904,220 人を対象とする 2 標本メンデルランダム化解析を活用した牛乳摂取と心血管代謝疾患との因果関係研究」1)について解説します。この研究では、「メンデルランダム化解析」という新しい疫学的解析手法を用いて、乳糖分解酵素(ラクターゼ)遺伝子変異(乳糖不耐に関係)に基づく牛乳摂取の遺伝的アプローチを行い、「より高い牛乳摂取量に関連した遺伝的変異を持つ参加者は、わずかに高い BMI、体脂肪を持っていたが、善玉(HDL)コレステロールと悪玉(LDL)コレステロールのレベルは低いことがわかり、冠動脈疾患のリスクも有意に低いことがわかった。」としています。
すなわち、脂質コントロールが必要な疾病においても、牛乳摂取を控える必要はなく、むしろ摂取するほうがリスクは低下するという興味深い報告です。

牛乳摂取と疾患リスクの因果関係とは
 現在、肥満、高血圧、脂質異常症、高血糖症は、心血管代謝疾患の大きな原因となっており、世界的にみると高い罹患率と死亡率をもたらしています2-4)。そのため、これらの生活習慣病予防のためには食生活の改善が課題です。心血管代謝疾患の主要な決定要因には、食習慣のなかでも高脂肪食があります。脂質異常症や虚血性心疾患の重症化予防のためには総脂肪量、とくに飽和脂肪やコレステロール摂取を制限す
るよう推奨されています。
 牛乳の摂取は動脈硬化の原因になるという研究報告が過去にはありましたが、牛乳乳製品の摂取によって循環器系疾患のリスクが低減することが、9件の研究(N = 57,256)データのメタ解析によって報告されています5)。ランダム化比較試験(RCT)で得られた知見は必ずしも一貫していませんが、これらの研究では、有益であれ有害であれ、牛乳摂取が明らかな原因とする因果関係を示す証拠は得られていませんでした。

近年注目されているメンデルランダム化解析
食事や運動、アルコール摂取と疾患リスクとの関連については多くの交絡因子(調べようとする因子以外の病気の発生に影響を与える因子)があり、また長期の追跡時間が必要です。
そのため従来の観察研究で報告されたこれらの関連は、RCT(ランダム化比較試験)では結果が一致しないことがよくみられました。観察研究ではビタミンEの摂取が冠動脈疾患のリスク低下に寄与していることを示唆していましたが、RCTでは同様の結果には至らなかった例があります。
観察研究は、交絡因子や選択バイアス(対象者を選定する際に生じるバイアス)など、結果に影響する要因が含まれる場合があるので、因果関係について推論するには十分なものでは
ないということが言われてきました。
 今回の研究で用いられた解析手法は、遺伝疫学の分野で近年注目されているメンデルランダム化解析です。これは、ゲノム情報で予測した形質(髪の色など外に現れる性質や形)と疾病リスクとの関連を推計することにより、従来の観察研究で問題となる交絡因子に対処しようとする方法です。メンデルランダム化解析では、一塩基多型などの遺伝子多型(形質の違いに影響を与えるとされるゲノム情報の違い)がランダムに分配されるというメンデルの法則を利用して、牛乳の摂取量ではなく、ゲノム情報で予測される牛乳摂取量を用いて、心血管代謝疾患リスクを比較します。ゲノム情報で予測された牛乳摂取量の高い集団と低い集団の間では、背景因子が均等になることが期待されることから、従来の観察研究に比べ交絡因子の影響を受けにくく、観察研究に用いるデータであっても因果推論(causalinference)を可能にする手法です。

ラクターゼ遺伝子変異に着目
この論文の筆頭著者であるカラニ教授らは、牛乳の消化に関わる酵素であり、乳糖(ラクトース)の消化を担うラクターゼ酵素のラクターゼ遺伝子に着目しました。ラクターゼ遺伝子の上流に位置する一塩基多型(SNP)rs4988235 が、ヒト集団において、酵素の転写に影響を与え、ラクターゼ活性を抑えることが明らかとなっています(乳糖不耐となりうる遺伝形質)。また、この一塩基多型(SNP)の T アレル(対立遺伝子)はラクターゼ持続性と関連しており、転写因子と結合してラクターゼ遺伝子のプロモーター活性を高めることが知られています(乳糖不耐とはならない遺伝形質)。このように、一塩基多型(SNP)が乳糖の消化に影響を与えることから、一塩基多型は、牛乳摂取と疾患との関係を検討するメンデルランダム化解析において牛乳摂取量の代用として用いられてきました 6-8)。すなわち、ラクターゼ遺伝子変異の T アレルを持つ集団を牛乳摂取が高い集団、その他の変異を持つ集団を牛乳摂取が低い集団として比較することで、交絡因子を考慮しなくても牛乳摂取量と様々なアウトカム(疾患リスクなど)との因果関係の推論が可能になりました。
 最近の乳製品に関するメンデルランダム化(MR)研究は、乳製品の摂取量が多いとBMI が高いという因果関係を明らかにしていますが、循環器系疾患(CVD)との因果関係は示していませんでした9 ) 。そこで、この研究では、肥満、血圧、慢性炎症、脂質、糖代謝のマーカーも含めて、牛乳摂取と循環器系疾患、2型糖尿病,心血管代謝疾患の危険因子との因果関係を包括的に調べました。今回のメンデルランダム化解析は、3つの大型集団研究に参加した417,236人のデータをメタ解析して、さらに複数のコンソーシアム研究のメタ解析から得られた統計データを含めて検討しています。

牛乳摂取量が多いとコレステロールが低い
 1,904,220 人の大規模なメタ解析の結果、牛乳の高い摂取量を示すラクターゼ一塩基多型(SNP)rs4988235 の T アレル(乳糖不耐にならない遺伝形質)の集団は、BMI の高さや総コレステロール、LDL コレステロール値の低さなどの循環器系疾患の危険因子と有意に関連することが明らかになりました。さらに、メンデルランダム化解析(MR)を用いて相関推定値を算出した結果、牛乳摂取量が多いと BMI が高くなり、LDLコレステロール、総コレステロール、HDL コレステロールが低くなるという因果関係が確認できました。現在、牛乳摂取と循環器系疾患リスクとの関連が議論されていることを考えると、このメンデルランダム化解析の結果は公衆衛生上、重要な意味を持つと思われます。

乳糖やカルシウムがコレステロール値の低下に関与
牛乳の摂取量が多いとコレステロール値が下がる理由について、牛乳に含まれるカルシウムと乳糖は、脂質代謝に影響を及ぼすことが知られています。食事で摂取した乳糖がカルシウムの吸収を促進することで血中脂質に影響を与えるほか、ヒトでは乳糖を大量に摂取するとコレステロール値が低下します 10)。次に、食事からカルシウムを摂取すると胆汁酸の排泄を増加させ、肝臓のコレステロールから胆汁酸を再生させるので、最終的にはコレステロール濃度の低下につながる可能性があります。最後に、腸内細菌による難消化性でんぷん(RS)の発酵の結果であるとも考えられています。これらの RS はコレステロールの合成を変化させ、腸肝循環を阻害することで、コレステロール値を低下させることができるからです。

脂質コントロールが必要でも牛乳摂取する方が冠動脈疾患のリスクが低下
さらに、カラニ教授は「より高い牛乳摂取量に関連した遺伝的変異を持つ参加者はわずかに高い BMI、体脂肪を持っていたが、HDL コレステロールと LDL コレステロールのレベルは低く、冠動脈疾患のリスクも有意に低いことがわかった。これらはすべて、心血管代謝疾患の予防に牛乳の摂取量を減らす必要がない可能性があることを示唆している」と語っています。今回の遺伝疫学研究で、脂質コントロールが必要な疾病においても、牛乳摂取を控える必要はなく、むしろ摂取するほうがリスクは低下するという因果関係があることが明らかになりました。このことは、脂質摂取の質から考えると、大変重要な意味をもち、さらに研究が進めば、牛乳はn3 系脂肪酸が含まれる魚油や亜麻仁油等のように積極的に摂取するべき食品と言われる日もそう遠くはないかもしれません。今後の大規模な介入研究をはじめとしたさらなる研究が期待されます。

引用文献:一般社団法人Jミルク

2022-7-22 Category コラム, 牛コラム

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