今回はアシドーシス繋がりで子牛のアシドーシスについてお話します。
親牛のアシドーシスは炭水化物の一胃での異常発酵および唾液による中和不全によっておこることは前回までに説明しましたが、哺乳している子牛には炭水化物は給与されていないのになぜアシドーシスになのでしょうか?
その発生要因は大きく二つに分けられます。一つは一胃にミルクが流れ込みミルクが異常発酵し乳酸が産生されるケースと、ミルクの消化吸収の過程が通常通り行われず腸管でミルクが異常発酵をおこすケースです。
まず始めに正常なミルクの消化吸収のされ方について簡単に説明します。親牛と違い子牛は食道と三胃の間に第二胃溝(食道溝)という溝が走っており、乳首でミルクを飲むことによりこの溝が閉じてストローの形となり、ミルクは第一胃・第二胃、三胃を素通りして四胃に到達します。(第二胃溝反射といいます)そこで四胃から分泌される消化酵素(レンニンまたはキモシンとも言います。)により凝乳しカードというミルクの塊とホエーという水分に分解されます。
牛乳からチーズが作られる過程と一緒ですね。分離されたホエーは初乳の時には特に重要で子牛の感染防御に欠かせない免疫グロブリンが大量に含まれています。そのグロブリンは四胃から速やかに流れ小腸で吸収され血流に乗り全身に行きわたります。このことにより細菌、ウイルスなどからの感染に対して無防備な生まれたての子牛を防御します。一方、塊となったミルクの栄養成分であるカードは固体になることにより液体のままのミルクよりもゆっくりと時間をかけることにより、異常発酵を受けずに吸収されていきます。これが正常なミルクの消化吸収の過程です。
ではなぜ一胃に流れるのでしょうか?いくつか原因があります。
① 食道カテーテルでの哺乳
子牛自らがミルクを飲まなかった場合にカテーテルを直接食道に入れて飲ませることがあると思います。しかしこれは第二胃溝反射が起こらないため一胃に流入しやすくなってしまいます。
② ミルクの温度・濃度
ミルクでは第二胃溝は起こりますが水では起こりません。この理由は何でしょうか?それは温度と濃度です。つまり加温不足のミルクや濃度が薄いミルクだった場合には一胃に流入する可能性が高くなります。
③ 哺乳の量
一度に大量のミルクを与えた場合には四胃から逆流が起こり一胃に流入することも有ります。体格の小さな牛は四胃も小さいため、牛の大きさに合わせた適度な量を数回に分けて給与する必要があります。
④ バケツでの哺乳
第二胃溝反射の基本は乳首で飲むことでありバケツで飲んだ場合にも反射が起こり辛くなるため一胃に流入する可能性があります。一方、凝乳しない原因も一胃への流入と同様にバケツによる哺乳や、ミルクの温度、濃度の間違い、一度に多量のミルクを与えるなどが考えられます。
どちらのケースでもアシドーシスとなった子牛は親牛のルーメンアシドーシスと同様に腸管へ水が流入することにより下痢をし、最初は非感染性の下痢であっても長期にわたることにより腸管の粘膜が荒れ、そこにウイルスや細菌・原虫などが住み着き感染性の下痢へと変化します。また栄養の吸収不足による抵抗力の低下が病状の悪化に拍車をかけます。
これが哺乳時期のアシドーシスに起因する下痢症のおおまかな発生原因です。意外と人間側の要因が多いと思いませんか?さらには哺乳器具の消毒や洗浄が不完全な場合は細菌が増殖してさらに悪化させます。飼われている環境については言うまでも有りません。
本来牛は非常に丈夫な生き物です。しかし人間が正しい知識を持たず間違った飼い方をすると簡単に病気になってしまうということを理解していただけるとありがたいです。
by とある獣医師
フォト素材:blue eyes photographies