とある獣医師の独り言12

今回は蹄底潰瘍の治療についてお話しします。蹄底潰瘍の治療には先月も少しお話しましたが、患部のみを除去しても蹄骨による蹄真皮の圧迫の原因を除去しなくては治りません。

一昔前は蹄底潰瘍の治療は馬の治療を応用し、『患部に穴を開け排膿させる』という方法が一般的でした。この方法は確かに蹄壁で体重を支えている馬には有効です。(馬は排膿させるだけで治ることが多く、蹄壁は削ってはいけないそうです。)一方、牛は排膿させるだけや、潰瘍の部分をすり鉢状にくり抜くだけでは治りません。その理由は牛の体重は蹄壁で支えるのではなく蹄底全体で支えているからです。


【写真1 肉芽の突出】


【図1 蹄球枕の位置】

蹄底潰瘍の治療経過で(写真1)の矢印のように肉芽が飛び出てくるのを見たことはありませんか?飛び出す原因は牛の蹄の構造にあります。このコラムの3話でもお話しましたが、牛の蹄は蹄底の後2/3の部分には蹄球枕というクッション装置があります(図1)。

蹄底潰瘍によって形成された浮いた角質のみをすり鉢状に削ると、蹄球は部分的に残ります。するとその残った蹄球部に体重が掛かり蹄真皮内部の蹄球枕は圧縮され、その圧力は一番薄い病変部の穴から肉芽となり飛び出してくるのです。この肉芽が飛び出した状態では傷はいつまでも治りません。


【図2 ヒールレステクニック】

そこで蹄球に負重がかからない処置=ヒールレス(かかとを無くす)テクニック(図2)が必要となるわけです。



【図3 ヒールレスの削切部位】

それでは蹄底潰瘍に対するヒールレスについて簡単に説明していきましょう。まずは潰瘍によって形成された坑道(浮いている角質)をすべて削切します。そして軸側蹄壁の始まる部分から先の1/3を残して蹄球は削ります。(図3参照)その後傷をよく洗浄し、感染させないように被覆材で覆い、包帯を巻きます。

これらの処置によって蹄球が免重できるうえにさらに蹄骨の先端の方へ負重が移動するため蹄骨の後端による蹄真皮の圧迫も緩和され潰瘍の治癒の促進にもなります。

ただし、何らかの原因(遺伝による球節の沈下、ルーメンアシドーシスによる屈腱の伸び、長期にわたる削蹄の不備による蹄の変形など)で蹄球部の角質が異常に薄くヒールレスにできない場合には反対側の蹄に蹄ブロック(下駄)をつけて罹患蹄を浮かせて、患部を免重するようにする方法も非常に有効です。

ここで注意しなくてはいけない点は、蹄ブロックを長期にわたり装着したままだと、装着した側の蹄に荷重がかかり蹄底潰瘍になるケースが多くみられるため、治療が終了してから1~2週後にはブロックを除去するべきだとおもいます。

このように蹄底潰瘍の治療には蹄球部の免重が一番重要というわけです。
次回は趾間の蹄病についてお話します。

(図2)は牛の跛行マニュアルから、ほかは牛のフットケアガイドか引用させていただきました。

by とある獣医師