とある獣医師の独り言6

それでは今月は先月説明した蹄の名称に引き続きもう少し掘り下げて、蹄の形成の仕方やそれぞれの部位がどのような機能をしているかについて説明していきたいと思います。

まずは蹄の外側の固い部分、蹄鞘(ていしょう)および白線について説明します。先月も書きましたが、蹄鞘は蹄縁角皮・蹄壁・蹄底・蹄踵からなっています。それでは、それぞれがどこで作られるのか説明しましょう。

蹄縁角皮
 蹄縁角皮は蹄壁と皮膚を分けている部分であり、蹄鞘の前面に水分を与えることにより蹄の柔軟性を保っています。蹄縁角皮は老化や乾燥で機能が低下します。これによって蹄壁にひびが入る裂蹄が起こることがあります。

蹄壁
 蹄壁は蹄冠のすぐ下にある蹄真皮の中の真皮乳頭と言うところで形成されます。ここで聞いたことがある人もいるかと思いますが、ケラチンという物質を含んだ角質を作ります。ケラチンは髪の毛や爪、歯のエナメル質などに含まれる固い物質です。
真皮乳頭で作られたケラチンは一カ月に5ミリの速度でゆっくりと蹄の外面を伸びていきます。成牛の蹄の長さがおよそ75ミリですから、一度作られた蹄壁は15カ月も残り続けるということです。後ほど蹄病のところでもお話しますが、牛が何らかの原因で栄養失調になると蹄壁に亀裂やくぼみが入ることが良くありますが、それが蹄冠から何ミリのところにあるのかを測れば、不調だった時期が推測できます。

 また蹄壁は蹄骨と強力に接着していなければならない反面、歩行によるいろいろな衝撃を吸収するためにそれなりの可動性を持っていなくてはなりません。そこで蹄葉といわれる構造が必要になります。魚の鰓(えら)のような構造(写真1のA)が蹄葉です。重ねた波板がスライドするのをイメージしてもらえれば分かりやすいかもしれません(図2)。入り組んで密着しているため左右にずれることが無く、それでいて上下に稼働する感じです。ここに炎症がおきて腫れることにより起きるのが蹄葉炎です。腫れによって波板が上下に稼働しなり歩くたびに激痛を引き起こします。



蹄底
 蹄底の角質は蹄底の真皮乳頭から蹄壁と同じようにケラチンを含んだ角質を作ります。蹄底の角質は蹄壁とは違い真下に伸びます。蹄底には蹄葉がなく蹄壁の角質と蹄底の角質の結合部は白線(図3の赤線)となります。白線は結合している部分の為、ケラチン化が不完全でありしばしば解離しそこに異物が侵入することにより白線病が起こります。

蹄踵
 蹄踵は蹄縁角皮の続きでやわらかい角質によって覆われた部分であり、柔軟性があるので圧迫されると形態が変わります。このことが蹄鞘の固い部分との間にひずみを生じ白線病の発生原因に繋がります。したがって蹄踵の固さの違いにより図3の番号順に白線病が発生しやすくなってしまいます。(1→4の順番に蹄底の固さが増すため。)

蹄の内部構造についてのお話は来月に回します。またお付き合いをお願いします。

by とある獣医師