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とある獣医師の独り言3

ルーメンアシドーシスはルーメンの細菌(グラム陽性菌)が大量に死ぬことによって、大腸菌の乳房炎の時のように毒素(エンドトキシン)を発生させることは先月お話しました。では今月はエンドトキシンがなぜ蹄病を起こすのかについてお話します。

このエンドトキシンがヒスタミンという炎症物質を体の中で作らせます。花粉症の方は聞き覚えがあると思いますあのアレルギーを引き起こす厄介な奴です。ちなみにサバを生で食べると食あたりを起こすのもヒスタミンのせいです。サバの体内のヒスチジンが細菌の影響でヒスタミンに代わり食中毒になります。魚が痛む前に血抜きをして内臓を除去できれば刺身で食べられますが、個人的には〆サバも有りだと思いますが・・・。

話が横道にそれましたがこのヒスタミンは血液に乗って全身すべてに末端にまでいきわたります。蹄も例外ではなくヒスタミンの影響を受け蹄の角質を作る蹄真皮に炎症を引き起こします。(蹄の構造と名称は図1を参照してください)そのせいで蹄真皮の血流が悪くなり、浮腫が起こります。これが蹄葉炎です。急性の蹄葉炎では膨れ上がった蹄真皮は固い蹄鞘(ていしょう・蹄壁と蹄底の角質)の中では膨れることもできず激痛をもたらします。

図1 蹄の構造 フットケアガイドより引用



ルーメンアシドーシスによる慢性の蹄葉炎ではそれほど激しい症状は見られない代わりに、蹄底潰瘍や白線病などの蹄病となって現れます。蹄の角質は蹄縁、蹄冠、蹄葉、蹄底の4つの異なる蹄真皮から作られ、それらが合わさって全体の蹄が形成されます(図2)。血流の悪化は角質の形成とそれぞれの角質の結合に障害を起こし様々な蹄の病気を引き起こします。ルーメンアシドーシスに起因する代表的な蹄病である蹄底潰瘍と白線病について発生原因を簡単に説明します。

図 2 真皮の分布(斜め下から見た図)蹄縁(P)、蹄冠(C)、蹄葉(L)、蹄底(S)の真皮から、それぞれ別の角質が生成され、それが張り合わされて全体の蹄角質が形成されている。(テレビドクターより引用)



まずは蹄底潰瘍についてですが、蹄骨は蹄真皮と結合組織で吊り下げられた状態で固定されています。また蹄骨の後半と蹄真皮の間は蹄球枕(ていきゅうちん)というクッションで満たされ、衝撃の吸収をしています。蹄葉炎ではこれらの組織がもろくなり、さらに蹄骨はアーチ型をしているため体重が後ろ側の蹄骨にかかり沈下を起こして、蹄真皮が圧迫を受けて蹄底潰瘍が発生します。(図3)

図 3蹄底潰瘍のでき方 フットケアガイドより引用



白線病の原因は、蹄の形状にあります。蹄は升とは違い底からのねじれるような荷重には弱い形状になっており、さらに蹄葉炎による血行障害があれば白線の結合が弱くなり白線病が起こります。(図4)

図 4 白線病のモデル テレビドクターより引用



最終的に慢性蹄葉炎は放っておくと起立不能になり廃用になる可能性の高い病気です。それは姿勢異常により蹄が変形していくためです。蹄の構造上蹄尖部では蹄骨と蹄鞘の間が狭く、蹄真皮は蹄骨に挟まれて締め付けられます。そのため蹄葉炎による充血、浮腫は痛みや不快感を生じさせ、牛はかかとの方に体重をのせ写真1のような姿勢をとるようになります。

写真 1 フットケアガイドより引用



そうすると最終的には蹄は変形し写真2のようになります。このような姿勢や蹄では起立が困難となり、褥創(じょくそう)ができ、肢が腫れ最終的には立てなくなるでしょう。

牛は痛みには非常にがまん強い生き物です。痛みを見せること=肉食獣に襲われることにつながるからです。痛がっていた翌日には痛がる様子がなくなっていたっていうことはよく聞く話です。しかしそれは水面下で炎症が進行しているのかもしれません。蹄病は早期発見、早期治療が大原則です。少しの異常でも見逃さないことが肝要です。

写真 2 フットケアガイドより引用


さて三回にわたってルーメンアシドーシスの話をしてきましたが、ルーメンアシドーシスの危険性について理解していただけたでしょうか?今回でルーメンアシドーシスの話は一旦終了です。次回はアシドーシス繋がりで子牛の下痢についてお話したいと思います。

by とある獣医師

4 Responses to “とある獣医師の独り言3”

  1. 黒ジャケの男

    とある獣医師さん、こんにちは!

    質問です。

    馬(特に競争馬)では、良く蹄鉄をみかけるのですが、

    何故、牛では多く広まらないのでしょう?

    最近、蹄病が多発している中、牛でもあっても良いのでは???

    以下、wikiから一部引用です。「蹄鉄」の検索結果です。

    栄養価の低い餌野生環境で食べられている草や雑草、低木はベータカロチンのような、高い栄養価を持っている。耕作によって育てられた餌にはそれらのカロチンは含まれる割合が低く、馬に十分な栄養が与えられているとは言い難い。また、野生動物は多様な餌資源の中から自らの生理要求にしたがって必要とされる栄養素の多い食物を複雑に選択して摂食しているが、家畜動物は、人間の都合で与えられる多様性の低い食物を受容せざるを得ない。蹄は十分な栄養が与えられているときには、人の爪よりもずっと堅く、頑丈な角質組織として発達する。さらに、家畜の馬は穀類やムラサキウマゴヤシ、牧草といったタンパク質に富んだ濃縮飼料を与えられることもあり、そういったものは蹄葉炎(ていようえん)を引き起こすといわれている。蹄葉炎とは蹄骨を支える蹄壁の葉状層が炎症を起こす病気である。たとえ蹄葉炎を引き起こさなくとも、角質組織と蹄骨との結合は弱くなり、この不自然な食体系は馬の足を弱める一因となる。穀粒、豆類、あるいは青草を多く含んだ牧草は亜臨床の蹄葉炎を引き起こす。蹄鉄は蹄壁を支え、弱く薄い板からなる蹄壁の解離を防ぐことが出来る。



  2. とある獣医師

    黒ジャケの男さんいつもコラムを読んでいただきありがとうございます。
    さっそくですが、牛に蹄鉄が広まらない一番の理由は蹄壁の厚さにあります。馬の蹄壁は厚く釘を使って蹄鉄を固定できますが、牛のそれは薄いため釘で固定できない点にあります。他に馬の蹄は一つですが牛は蹄が二つあるため、蹄鉄を作るのが難しいというのも有ります。さらに寝起きのたびに牛舎や乳頭を痛めそうですよね。

    馬も牛も本来は草のみを食べて土の上を走りまわるだけならそんなに蹄の保護は必要ありません。馬は人を乗せたり荷物をひいたりするため、牛は牛乳をたくさん絞りたいために無理がかかるのです。人間のエゴで無理をさせているわけですから、大切にしてあげてください。



  3. 黒ジャケの男

    なるほど(*_*)とある獣医師さん、返信ありがとうございます\(^o^)/

    蹄の構造の違いが、出来る出来ないの原因の一因となっているんですね。

    変な質問してしまい、申し訳ございません。

    私も、とある獣医師さんの、乾草でアシドーシスを緩和させる意見に賛同します。

    人間が、牛から乳や、肉を搾取するために本来口にする事はないであろう穀物などの高エネルギー食を食べさせられ、寿命を削る事を少しでも緩和させる事が出来るなら、自分はそちらを選んであげたいと思います。

    たまに、蹴られて手をあげてしまうことはあるけど、大切に育ててあげたいですね。

    いつも、ためになるコラム本当にありがとうございます\(^o^)/

    次回も楽しみに読ませて頂きます!



  4. とある獣医師

    変な質問なんてとんでもない。質問があるって事は読んでもらってるてことだから、うれしい限りです。

    牛の体を作るタンパク質のほとんどは一胃内の細菌の菌体タンパクです。一胃がアシドーシスになって、細菌が死滅すれば当然タンパク不足になります。

    しつこいようですが、ルーメンアシドーシスは絶対悪です。

    蹴られて手を上げることより、ルーメンアシドーシスにすることの方がかわいそうですよ。



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