牛の漢方医学のハンドブック「牛書」とは?

牛の漢方医学書・『牛書』とは?
著作者は不明で、1744年、播州(現:兵庫県)在住の山本秀實という人物によって写し取られた牛書が、財団法人武田科学振興財団杏雨書屋によって保管されているので、やはり1720年に成立された「牛療治調法記」と同時期に牛書が発刊されたと考えられます。もとは中国本の牛医学書・「牛経大全」を手本としていましたが、伯楽たちの診療経験などを踏まえられ、実用書として形成されていったと言われています。

 牛書内に掲載されている病気の番付1~37では、各々の病気名・症状、そして治療と対処方法(漢方薬処方・鍼灸部分)が、牛のイラスト付きで事細かく記されており、特に治療針を打つ方法が記されている項では、牛とその内臓器官(肝臓は黒肝、小腸は百尋、脾臓は脾ノザウと記載)が描かれており、針を打つ部分(経穴)と針を打つ深さも解説されています。また漢方学らしく、第一に「見立て(診断・診察」を最重要視とし、鍼灸や漢方薬を牛に施す事によって牛が本来所持している強い治癒力を高め、疾患を克服するのを目的とする事も牛書から読み取れます。

 漢方薬処処方箋の詳細さにも驚きを覚えます。1番に記載されている病気は「牛の風邪(風ヒク牛之図)」ですが、その折の症状は、牛体を震わせ尻尾を足の間に挟み込み、時々しゃっくりをする、黄色い膜のようなものが口内にあり、手を当てて診てもそこに熱感が無い等々が細かく記された後、治療法として排毒剤を投与する事と、その生薬処方が記されています。それは「大人参・小人参・独活(共にウゴキ科、甘草(マメ科・カンゾウ)、前胡・紫胡(セリ科)、枳穀(キコク・ミカン科の果実を乾燥させた物)を用いる」と、漢方学に精通している人物が少ない現代人には馴染みの全くない生薬が登場してきます。また牛が風邪によって腹部が鼓張する場合や身体に冷感がある場合の生薬処方も、全て1番内に明記されています。

 以上の様に、1番・「牛の風邪」を1つ例に挙げてみても、これ程細かく症状・漢方薬処方が記されている事がお分かり頂けたと思います。江戸時代の獣医学を含める医学というのは、どうも迷信的であるイメージが付き纏いがちですが、それは間違いです。牛書を見る限り、当時の人々の医療知識の深さや技術の高さに感嘆させられます。

引用文献:酪農と歴史のお話し

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