先月はルーメン微生物が炭水化物を発酵して揮発性脂肪酸(VFA)を作るところまでお話ししましたが、今月はその続きです。
SARAの原因
微生物によって作られた揮発性脂肪酸(VFA)は、ルーメンの表面の絨毛と言うひだから吸収されて、血液に乗り肝臓に運ばれます。その中のプロピオン酸がブドウ糖に再度合成されることにより、牛はエネルギーを得ることができます。ちなみに人の血糖値(ブドウ糖濃度)は100mg/dlですが牛は70mg/dl程度です。人間であれば倒れてしまうほどの低血糖です。牛はなぜ平気なのか?それはVFAを直接利用できるからです。これはケトーシスとも関連する話なので、いずれまたお話しします。
炭水化物の消化に戻しますが、ここで上の表を見て欲しいのですが、主にプロピオン酸を作ることができるルーメン微生物は赤枠で囲ったデンプン分解菌と可溶性繊維分解菌の二種類です。この二種類の菌がデンプンやデキストリン、糖などのいわゆる炭水化物を分解してプロピオン酸を作っています。これらの菌のおかげで牛はエネルギーを得ているわけです。しかし、デンプン分解菌中の中でStreptococcus bovis(緑線)はプロピオン酸を作らないという点に注目してください。この菌は他のデンプン分解菌と同じように炭水化物を発酵するのですが、プロピオン酸ではなく乳酸を作る(紫丸)という点が非常に問題です。この乳酸がルーメン内に蓄積することでSARAの原因となるのです。この続きはまた来月。
byとある獣医師