北北海道を牛柄トラックで駆ける牛削蹄所。菅原道北削蹄所のオフィシャルサイトです。

とある獣医師の独り言45



12月になってしまいました。フットケアミーティングの準備を言い訳にこのコラムを一か月さぼってしまいました。申し訳ありません。今月からまた一か月に一度更新できるように頑張っていきますので、お付き合いお願いします。
さて今月からは削蹄所のホームページにふさわしく、SARA(亜急性ルーメンアシドーシス)が引き起こす蹄への悪影響についてお話しします。蹄の疾患は様々ありますが、どの蹄病にも多かれ少なかれSARAは影響を与えます。その理由として考えられることは、1、栄養失調になること。2、ルーメン微生物の死滅による血行障害が起こること。3、ルーメン微生物のバランスが崩れること。4、軟便(下痢)になることがあげられます。

◎蹄に対するSARAが及ぼす悪影響

1、栄養失調
正常な牛はルーメンに生命維持に必要なエネルギー(ブドウ糖)の約70%とたんぱく質の約50%を依存しています。蹄を構成している主成分はたんぱく質であり、蹄を生成するための細胞分裂に必要なエネルギーはブドウ糖であることから、SARAになればまともな蹄を形成できなくなり、蹄疾患へとつながります。 

2、ルーメン微生物の死滅による血行障害
SARAはルーメン内が酸性化することにより、酸に弱い菌が大量に死滅します。死亡する菌の中には大腸菌の仲間も存在するために、血液中にエンドトキシンと言われる毒素が流出します。この毒素の特徴は血管を詰まらせることで血液の流れを阻害します。血液が流れなくなれば、蹄でまともな角質が作られることはなくなり、蹄疾患へとつながります。

3、ルーメン微生物のバランスが崩れる事
ルーメン内で酸に弱い菌が死滅し続けると、酸に強い乳酸産生菌:ストレプトコッカスボビス(レンサ球菌の一種)が増えていきます。この菌は大腸菌の仲間とは違いエンドトキシンは産生しませんが、エキソトキシンという別な毒素を産生します。難しい話は置いておいて、この毒素は角質と真皮の結合を破壊します。破壊された部分は出血を起こすことで様々な蹄病を引き起こします。

4、軟便(下痢)を起こす
SARAは消化管内で腸管を刺激するために下痢を引き起こします。牛群全体が下痢をすれば牛床は糞でドロドロとなり、蹄は水を吸い柔らかくなります。柔らかくなった角質では牛は正しく体重を支えることができず、蹄病の発生を招きます。さらにSARAの牛の便からPDDの菌が検出されたという報告もあります。ですから、SARAはPDDの蔓延にも大いに影響します。
このようにSARAと蹄病は密接な関係があることはわかっていただけると思います。
今月は以上です。来月から蹄の構造と蹄病の発生原因のおさらいをしながらSARAとの関係を見ていきたいと思います。
今月もお付き合いありがとうございました。

by とある獣医師

2016-12-19 | Leave a Comment

第58回全国牛削蹄競技大会

平成28年11月10日(木)茨城県水戸市鯉淵学園農業栄養専門学校様で
第58回全国牛削蹄競技大会が開催されました。

競技大会の成績は以下のとおりです。

『総合順位』
最優秀賞
武藤 稔貴(福島県装削蹄師会)

優秀賞
小川 和孝(鳥取県削蹄師会)

第3位
高田 和弘(北海道牛削蹄師会)

『 部門賞』
判断競技 優賞
小川 和孝(鳥取県削蹄師会)

牛削蹄競技 優賞
武藤 稔貴(福島県装削蹄師会)











選手はじめ関係者の皆様、大変お疲れ様でした。
by RIMU

2016-12-5 | Leave a Comment

とある獣医師の独り言44



いつの間にか10月です。今年も残り3か月となってしまいました。地球温暖化の影響なのか異常気象なのかわかりませんが、ついこの前やっと暖かくなったと思ったらもう冬の便りが届きました。稚内で初雪が降ったそうです。平年より15日も早く去年よりも18日も早いそうです。温暖化なら寒いのくらいはゆっくり来てくれればいいのにと思ってしまうのは私だけでしょうか。

本題です。今月はSARAが原因で起こる病気、第四胃変位です。

◎第四胃変位
第四胃変位(DAと略します)は第四胃が正常な位置(おなかの真下 へその少し前位)から右側もしくは左側へ移動してしまうことで、消化に影響をきたす病気です。発見が遅れると四胃が捻じれ、死亡することもあります。酪農家なら誰しも一度は経験する、乳牛の職業病ともいえる病気です。
DAは第四胃の弛緩(しかん 収縮できずに緩むこと)と四胃運動の抑制により四胃内にガスがたまることが直接の原因とされています。その四胃の弛緩や運動抑制の原因は様々あり、乳熱による低カルシウムや子宮炎も原因の一つと言われていますが、いまだにはっきりと解明はされていません。その中でSARA(亜急性ルーメンアシドーシス)も重要な発生原因の一つとされています。

1、VFAや乳酸による影響
SARAの条件下ではVFA(揮発性脂肪酸、プロピオン酸や酢酸)や乳酸が大量に発生します。これら酸性物質を希釈するためにルーメン内には大量の水が入り込むことで、ルーメンの内容物は水っぽくなります。さらに元々SARA下ではセンイが不足している(ルーメンマットが出来ない)こともこの状態に拍車をかけます。この水分過多となったルーメン内容物はルーメン内でとどまることができないため、高濃度のVFA、乳酸を含んだ状態で四胃に流れ込みます。これらの酸が四胃の運動を抑制することでDA発症の原因になります。

2、エンドトキシンの影響
SARA下ではルーメン微生物が死滅することでエンドトキシンが産生されるということはお話ししてきましたが、このエンドトキシンも腸管すべての運動を抑制する作用があるため、四胃にも作用しDAの発生原因になります。子宮炎原因菌は大腸菌であることが多いため、子宮炎とDAを併発していることがよく見られるのはこのせいかもしれません。
 
四胃にガスがたまったからと言ってすべてがDAを発生するわけではありません。発症するにはガスが張ってほかの臓器より軽くなった四胃が入り込むスペースがお腹の中にあるかどうかで決まります。ですから、出産によってお腹に隙間ができる分娩後や、食欲不振に陥ってルーメンが小さくなる事で隙間できるケトーシスや乳房炎はDAの発症に注意が必要です。

今月は以上です。お付き合いありがとうございました。

byとある獣医師

2016-11-1 | Leave a Comment

とある獣医師の独り言43

九月になりました。暑い夏も台風と長雨で一気に秋の空気に変わってしまいました。ここからは一気に日が短くなり、寒くなる一方でなんだか寂しい感じになるのであまり好きな季節ではありません。実りの秋なので食べ物がおいしくなるのは良いですけどね。釣りにもいい時期になりますし。
本題です。今月もSARA(亜急性ルーメンアシドーシス)によってルーメン微生物が死亡することで引き起こされる病気の続きです。

◎繁殖障害
今までこのコラムではSARAになると、エネルギー不足とタンパク不足により栄養失調となることは何度もお話ししてきました。栄養失調の状態になると牛はまず先に自分の生命維持のためにエネルギーを使います。そして生命維持に使って残ったエネルギーを自分の子供のための牛乳を作る泌乳のエネルギーとして、それでもエネルギーが残っていて初めて子孫を残すために繁殖(発情)へとエネルギーを回すそうです。ですからSARAの状況下では繁殖障害になるのは当たり前と言ってしまえばそうなのですが、ルーメン微生物の死滅によるエンドトキシンによってさらに繁殖に悪影響を与えます。今回はそのお話しです。エンドトキシンは血液に取り込まれることによって様々な臓器に行くことはお話ししましたが、卵巣も例外ではありません。

写真1 牛の卵巣 下の写真には4個の卵胞がある

1、卵胞機能への影響
 卵巣の中には複数の卵胞があり卵胞液と一つの卵子が入っています。その卵胞液が発情や受胎に重要なホルモン、エストロジェンとプロジェステロンを分泌します。卵巣に到達したエンドトキシンはこれらのホルモンのバランスを崩すことよって発情を起こさないように働きます(鈍性発情あるいは無発情)。
2、卵子への影響
 卵子は卵胞の中で成熟することにより排卵し、授精によって子宮内で精子と結合することにより受精卵となります。しかし、卵巣内に入り込んだエンドトキシンは卵子を授精できるように成熟させるのを阻害します。つまりはエンドトキシンがあると卵子は成熟できなくなり、排卵できるような卵子に成熟できなくなるのです(卵子の発育障害)。
さらに受精卵は子宮から栄養を得るための栄養膜と呼ばれるものを伸ばすことで子宮に着床し核分裂を繰り返し胎児へと成長していきますが、ところがエンドトキシンは栄養膜を作るのを阻害することで着床にも悪影響を与えます(受精卵の着床障害)。

もちろんエンドトキシンSARAの時だけ出るものではありません。大腸菌性の乳房炎や産褥性の子宮炎の場合にはSARAの場合よりも多くのエンドトキシンが産生されます。エンドトキシンの量が多ければ多いほど繁殖に悪影響を与えるのは間違えありません。みなさんも経験があるかと思いますが、乳房炎や子宮蓄膿症に罹った牛はその後受胎が悪いのはこの影響もあるようです。エンドトキシンは怖いですね。
今月は以上です。お付き合いありがとうございました。


byとある獣医師

2016-9-25 | Leave a Comment

第23回北海道ブロック牛削蹄競技大会レポート

平成28年9月5日・6日の2日間にわたり帯広市 帯広畜産大学で開催された、第23回北海道ブロック牛削蹄競技大会。
フォトで大会の様子をお伝えします。





大会1日目は削蹄判断研修です。






削蹄研修を終えた後、交流会が行われました。










2日目は牛削蹄競技大会開催です。






































講習会が行われました。


いよいよ結果発表です。






単独保定の部
優勝 北見市 小林 優斗


枠場保定の部
優勝 士別市 渡辺 祐太


単独保定の部(写真左から)
優 勝 小林 優斗 (北見市)
準優勝 新 知幸(江別市)
3 位 高田 和弘(北見市)
4 位 渡部 晃大(七飯町)



最後に各部門優勝者の記念撮影です。
本当におめでとうございます!

by RIMU

2016-9-15 | Leave a Comment

御神輿の担ぎ手として参加しました!

9月3日に行われた美深神社例大祭。
今年も縁がありまして、当社全スタッフが御神輿を担がせていただきました。
その様子をレポートします。













無事に練り歩くことができました。
そしてとても楽しく参加させていただきました。

by Rimu

2016-9-12 | Leave a Comment

道北田島会&懇親会in名寄

平成28年8月13日(土)名寄市「なよろ健康の森」にて道北田島会を開催させていただきました♪
今年は、田島先生の奥様も御招きしパークゴルフ大会を開催しました。
一部ではございますが、ご紹介させていただきます。



田島先生の奥様


兵庫からお越しくださった当社、松原のお母様










宗谷地区NOSAI中部支所 塚田先生にもご参加いただきました。


結果発表です。
今回、3チームに分れパークゴルフを開催しました。
入賞者には豪華景品を用意しました。
優勝
当社、萩野、渡辺、田島先生の奥様でした。






田島先生からの超豪華景品♪




綿あめ職人の亮ちん




親睦会会長の締めの挨拶




byRIMU

2016-8-31 | Leave a Comment

とある獣医師の独り言42


8月です。ここ道北のオホーツク海側にしては異常な蒸し暑さが続いています。今年は暑い夏になるとアメリカ航空宇宙局(NASA)が発表したそうです。数年続いていたエルニーニョ現象が終息してラニーニャ現象が起きているそうです。ペルー沖の海水温が上がるのがエルニーニョ、下がるのがラニーニャだそうですが、ペルー沖の温度がなぜ日本に影響するのかは私には理解できませんが、暑い夏は個人的には大歓迎です。牛さんにはちょっと過酷かもし得ませんが、宗谷の暑さはそんなには長くは続かないはず。少しの間だけ我慢していただきましょう。それでは本題です。
数回にわたりSARA(亜急性ルーメンアシドーシス)が起こす病気について書いてきました。前回まではSARAが直接起こす病気についてお話ししましたが、他にもルーメン微生物が死滅することで発生しやすくなる病気もあります。今月からはそちらをお話ししていきます。

◎乳房炎
皆さんもご存じだとは思いますが、乳房炎は通常は乳頭口から細菌が侵入することにより乳房内で細菌が増殖し、乳房に炎症を起こす病気ですが、SARAの場合には別の要因で乳房炎が起こります。SARAによって過剰に作られた乳酸で酸性化したルーメン内では多数の微生物が死滅していきます。その死滅する微生物の中には大腸菌の仲間もたくさんいます。この大腸菌の仲間が持っている毒素をエンドトキシンと言います。死ぬ(エンド)と出る毒(トキシン)なのでエンドトキシンと呼ばれています。酪農家の方なら大腸菌の乳房炎は少なくとも一度は経験しているでしょうから、その毒素の強さはご存知でしょう。そのエンドトキシンはルーメンを出て、腸から吸収され血液に乗ります。エンドトキシンの毒性は末梢の血管に血栓(血の塊)を作ることによって血液を遮断することにあります。血液を遮断された臓器は栄養を得ることができなくなり、正常な働きをすることができなくなり部分的に壊死(えし)します。もちろんエンドトキシンは血液に乗り全身にめぐるので様々な臓器に影響を与えますが、乳房炎に関与する臓器は乳房と肝臓になります。

1.乳房への影響
エンドトキシンは乳房へ流れ、牛乳を作る乳腺細胞を破壊することで、牛乳中の体細胞の上昇を起こします。壊死した乳腺細胞では正常な牛乳を作ることができないため、体細胞が上昇してしまうのです。もし細菌検査をしても細菌が検出されないような場合は、SARAによる乳房炎の可能性があります。

2.肝臓への影響
もう一つはエンドトキシンが肝臓の細胞を破壊することで免疫機能が低下するために乳房の細菌感染を防御できなくなる場合です。肝膿瘍のところでもお話ししましたが、肝臓には大きく3つの役割があります。一つは代謝(摂取した栄養を体で利用できるようにする)、二つ目は胆汁(脂肪やたんぱく質の消化に関わる消化液)の排出、そして三つめは解毒になります。ウイルスや細菌の毒素、体内でできたアンモニアや摂取した毒物を無毒化することを解毒と言いますが、その役割を担っているのが肝臓です。また様々な免疫に関わるたんぱく質を作っているのも肝臓ですから肝機能が低下すると侵入してきたバイ菌に抵抗することができなくなり、乳房炎のリスクが高まります。もちろん乳房炎だけではなくあらゆる感染症に弱くなるため、肺炎に罹る牛も増えます。
さらに肝臓へのエンドトキシンの流入は肝臓の他の役割でもある代謝の低下や胆汁の排出の低下も招き、最終的には牛は栄養失調に陥ることでさらに病状は悪化していきます。

SARAの状態はルーメンで常にエンドトキシンがつくられ、それが体に吸収され続けるということですから、慢性の大腸菌性入乳房炎が起きているのと同じ状況です。絶対に避けるべき飼養管理だと思います。今月は以上です。
お付き合いありがとうございました。

byとある獣医師

2016-8-8 | Leave a Comment

第19回護蹄研究会 & 千葉県での削蹄

6月25日~26日(日)東京大学農学部にて
2016年度第19回護蹄研究会シンポジウムに参加してきました。


左、武田削蹄師   右、塚田獣医師と

2016.06.27~成田空港近くの牧場で上田指導級のお手伝いさせて頂きました。

現場終了後、成田山に


お世話になりました。
photo by sugaWara

2016-7-19 | 1 Comment

とある獣医師の独り言41

今年も半分が終わってしまいましたね。歳を取ると一年が過ぎるのが年々早くなる気がしませんか?老いも若きも一年は同じ365日に変わりはないはずなのに不思議ですね。以前にその原因は一日の過ごすときの脳の働きに原因があると聞いたことがあります。小さいころは見るもの聞くもの全てが新鮮で覚えることがたくさんあるため、記憶の整理に時間がかかり長く感じてしまうそうです。反対に歳を取ると、一日の行動の中で新しいことを覚えることも少なくなり、今まで長い時間かけて覚えた感覚だけで日々を過ごしていけるようになります。そうすると頭は記憶の整理が必要なくなり、時間が短くなったような錯覚に陥ると言われています。毎日記憶に新しい出来事があれば時間が長く感じられるようになるんですかね。日々を漫然と過ごさないようにしたいものです。では本題です。今月もSARAで起きる病気についてお話しします。

◎JHS(Jejunal Hemorrhage Syndrome ジェーエイチエス)
日本名では出血性腸症候群と呼ばれています。HBS(Hemorragic Bowel Syndrome エイチビーエス)と略されることもあります。このJHSは何らかの原因で小腸から出血を起こし、そこから出た血液と腸内の消化物が混ざることで血液凝固物(写真1)を作りそれが腸に詰まる(腸閉塞を起こす)ことで発症する病気です。症状としては非常に急性な経過をたどり、治療が行われないと85%の牛が36時間以内に死亡すると言われています。発症した牛が見せる症状は①突然の乳量の減少・停止 ②著しい目の凹み(眼球陥凹) ③腹部の膨満(消化物の通過障害による) ④激しい腹痛(疝痛) ⑤タール様便(写真2) ⑥脱力、場合によっては起立不能(写真3) があげられます。
JHSの原因は大きく分けて二つあるとされています。
まず一つは飼料に生えるカビです。粗飼料が何らかの原因(水分過多、鎮圧不足など)でカビることにより、マイコトキシンと言われる毒素が発生し、それを牛が摂取することにより小腸の粘膜に出血を起こしJHSが発症します。
そして、もう一つの原因が腸内細菌の一つクロストリジウム属の異常増殖です。クロストリジウム属の細菌は腸内で増えることにより小腸の腸壁を攻撃する毒素を産生し、腸管の粘膜より出血を起こしJHSを発症します。この異常増殖の背景にSARA(亜急性ルーメンアシドーシス)があります。SARAは何度もお話ししていますが、センイ不足とデンプン質過剰で起こります。SARA時のルーメン内容物はもちろんルーメン内にとどまるわけではなく、四胃を経て小腸へと流れ出ていきます。この酸性度の高い内容物が小腸の壁を傷つけ、センイの少なさが小腸内の乳酸菌を減らしクロストリジウム属といういわゆる悪玉菌の異常増殖を招くことによって小腸粘膜の出血を起こすのです。野菜を取らないと大腸がんの危険が増す人間と同様に、JHSにもルーメンでは消化されないセンイが重要ということです。
 JHSの治療法に教科書上は手術と書いてありますが、私の経験上手術で助かったのは一頭もいません。また、早期に発見し内科療法で一度は回復しても数日後再発し死亡する場合も何件かありました。やはり発症させないような飼養管理が重要です。
 今月は以上です。ありがとうございました。
 
今月の写真もテレビドクター3から引用させていただきました。

byとある獣医師


2016-7-11 | Leave a Comment

とある獣医師の独り言40

早いものでもう6月です。関東では梅雨入りしたそうです。昔は北海道には梅雨がないなんて言われていましたが、最近は蝦夷梅雨と言われ長雨がよく見られます。ここ数年宗谷では6月に天気が続いた記憶がありません。今年こそは晴天が続いてほしいものですね。
今月はCVCTについてお話しします。聞きなれないと思いますが、スプラッター映画のような出血を起こす病気です。


◎CVCT(Caudal vena caval thrombosis、シーブイシーティ)
日本名は後大静脈血栓症です。簡単に言えば後大静脈(心臓に戻る直前の一番太い静脈)にできた血栓(けっせん)が血液に乗り肺の毛細血管に詰まって破裂することにより、大量出血する病気です。
上の写真がCVCTを発症している写真です。なかなか強烈な写真ですよね。(この写真はテレビ・ドクター3から引用させていただきました。)左の写真は出血が少量なのでまだ生きていますが、右の写真は出血多量で死亡しています。CVCTの原因は諸説ありますが、SARAが要因だとも言われています。

 

 まずは血液の流れをおさらいしてみましょう。(心臓の構造を参照してください)。牛の心臓の図がネット上になかったので、人の心臓の図を拝借して説明します(ちなみに牛も人も心臓の構造にほとんど違いがありません。牛で言う後大静脈は人では下大静脈になります。)全身から集まった血液は前・後大静脈を経由して右心房から心臓に入り、右心室で拍出されて肺動脈を経て肺へ送られます。肺でガス交換(二酸化炭素と酸素を交換)をした後、肺静脈を経由し左心房から再度心臓へ入り、左心室で拍出されて全身へ回るという経路を取ります。思い出しましたか?これは中学の二年生で習うそうです。
CVCTは血栓が肺に詰まると言いましたが、血栓は何でできるのでしょうか? CVCTの血栓は細菌性血栓と言われています。つまりは膿瘍とほぼ一緒です。後大静脈に膿瘍ができるということは全身が細菌に侵される、つまり敗血症(はいけつしょう)になっていなくてはなりません。先月SARAはルーメンの絨毛をはがすことで血液に微生物を漏らし肝臓に化膿巣をつくるとお話ししましたが、肝膿瘍で収まらなければ細菌は全身をめぐり敗血症を起こすのです。

では、なぜ後大静脈に血栓ができるのでしょうか?それは血液の流れの速さに原因があります。左心室から拍出された血液は各臓器を回り最終的に後大静脈に戻ってきます。ですから一番血液の流れが遅いため血栓ができやすくなってしまうのです。
一度できた血栓はさらに血流を阻害するためだんだん大きくなります。そして大きくなった血栓は一部が剥がれ血流に乗り心臓へ向かいます。心臓へ入った血栓は右心室で拍出され肺動脈へ入り、肺の末梢の血管を詰まらせます。詰まった血管は血液が流れなくなり、後ろから拍出されてくる血液によりどんどんと膨らみ、そこには動脈瘤が出来上がります。その動脈瘤がいつしか圧力に耐えられなり破裂し、その血液が気管を通り鼻や口から噴出することでCVCTが発症するのです。
もちろん敗血症の原因はSARAだけではないので、CVCT=SARAではありません。CVCTの原因としてほかによく見られるのが、寝起きが悪く全身性の褥瘡(じょくそう)や化膿性の関節炎を持っている牛です。著しく痩せているような慢性的な炎症を抱えている牛は要注意と言えるかもしれませんね。
今月は以上です。来月もまたよろしくお願いします。

byとある獣医師

2016-6-16 | Leave a Comment

とある獣医師の独り言39

5月ですが寒い、とにかく寒いです。ここ数年、春が来るのが遅い気がしませんか?北海道ではゴールデンウイークに雪が降るのは珍しいことではないのかも知れませんが、それにしても寒すぎです。道南では桜の開花情報も聞こえてきましたが、こっちではいつ咲くものやら…。道北の桜の標準木はソメイヨシノではなく寒さに強いエゾヤマザクラだそうですが、宗谷では桜が咲かなかった年もあるそうです。今年はそんなことがないように祈るばかりです。では、本題です。
今月もSARA(亜急性ルーメンアシドーシス)が起こす病気を具体的に説明していきます。

◎肝膿瘍














上の写真は屠場に搬入された牛の肝臓の写真です。白く玉状に写っているのはすべて膿です。あまり気持ちのいい写真ではないですね。下の健康な肝臓と比べると異常は一目瞭然です。では膿とは何でしょうか。それは細菌と白血球の死がいの塊です。つまり肝臓で白血球と細菌が戦った証が肝膿瘍になるわけです。なぜこのようになるかをお話ししていきます。SARAになるとVFA(揮発性脂肪酸)を吸収するルーメンの絨毛は酸で焼けてくっついていきます。くっついた絨毛は機能しなくなり、やがてはがれ落ちてそこに傷ができます。ルーメンの中には発酵に有益な菌のみがいるわけではなく、フソバクテリウムなどの化膿菌の仲間も多数生息しており、それらがルーメンにできた傷から血流に乗ります。以前に牛の消化のところでお話しした通り、ルーメンから吸収されたVFAは血流に乗り最初に肝臓に入りブドウ糖に合成されるわけですから、傷から吸収された化膿菌も当然肝臓に一番先に入ります。そこで膿が形成されるわけです。肝臓の役割はブドウ糖の合成のほかに、消化を助ける(胆汁の合成)や、解毒、栄養の貯蔵など様々あり、生体の中で非常に重要な臓器です。それが写真のようになってしまっては肝機能の低下は避けられません。また、肝臓は生体防御にも大きく関わっており、肝機能が低下すれば細菌の感染にも抵抗できなくなり、肺炎や乳房炎などの感染症に罹るリスクも高くなり生命の危機に陥る可能性が高くなります。余談ですが人が肝膿瘍になることはまれですが、アルコールやウイルスによって肝硬変を起こせば肝膿瘍と同様です。気を付けたいですね。今月は以上です。
さて、今月28日は浜頓別で29日は名寄で第三回のフットケアミーティングが開催されます。講師を引き受けてくださった皆さま、お忙しい中大変だとは思いますがよろしくお願いいたします。また、このコラムを読んでいただいている方でお近くにお住まいの方は、是非ご参加ください。よろしくお願いします。

byとある獣医師

2016-5-13 | Leave a Comment

削蹄通信Vol.11号発行しました!



お待たせしました。
年2回発行の当社削蹄通信Vol.11を発行しました。

今回も牛の情報から当社の紹介まで充実の内容です。
順次畜主様、関係機関へお渡しとなりますのでよろしくお願いします!

by RIMU

2016-4-28 | Leave a Comment

平成28年度 北海道牛削蹄師会 通常総会開催

平成27年4月22日(金) 札幌のTKPガーデンシティーにて行われました。
総会前の削蹄研修会では、『ホルスタイン種の長命性を左右するのは肢蹄』と題しまして、
一般社団法人日本ホルスタイン登録協会北海道支局 審査部長 千葉義博様より講演がありました。
総会終了後の懇親会結びの挨拶は、当社の大野雄也くん!!
初めての挨拶で、緊張してましたが、しっかりと勤め上げました!

















byRIMU

2016-4-24 | Leave a Comment

とある獣医師の独り言38

4月です。めっきり春めいてきましたね。今年は雪が少なかったせいか、牧草地がところどころ見えてきています。毎日少しずつ日が長くなっているのを実感するとなんだかやる気になります。だからと言って何をするわけでもないんですけどね。では、本題です。
先月まではSARA(亜急性ルーメンアシドーシス)の発生要因についてお話してきましたが、今月からはSARAが起こす病気についてお話ししていきます。今回は下痢です。下痢は病気というよりは糞(ふん)が柔らかくなるという状態の一つですが、SARAの場合多くに見られる症状のため、最初に取り上げることにします。
通常、胃と小腸で栄養と水分を除かれた食べ物の残りかすは、大腸でさらに水分を吸収されることで硬くなり、糞として排泄されます。しかし何らかの原因で水分過多の状態で排泄された場合を下痢と称します。その下痢の原因は大きく感染性と非感染性に分けられます。感染性の下痢の原因はサルモネラや病原性大腸菌などの細菌やノロウイルスやコロナウイルスなどのウイルス、コクシジウムやクリプトスポリジウムなどの原虫など微生物の感染にあります。これは微生物が作る毒素やウイルスが腸の壁を直接障害するために起こる下痢です。一方でSARAの下痢の原因は非感染性です。ルーメンで過剰に作られた乳酸は四胃を通過し小腸を通り大腸へと流れていきます。通常、大腸は水分を吸収し糞を固くしていきますが、乳酸が大量に含まれたまま腸を通過すると酸によって腸管に炎症をひきおこされるため、逆に水分を分泌して酸を希釈し炎症を抑えようと体が反応をします。これが下痢の原因です。急性のルーメンアシドーシスでは乳酸の量も大量のため、腸管から分泌される水も大量になり水のような下痢をしますが、SARAの場合は写真のような泡立つ下痢が見られることが多くなります。このような糞をする牛が散見されるようになったら、SARAを疑ってみるのもありかもしれません。
更にみなさんも経験があると思いますが下痢はお腹が痛くなります。そして乳酸は腸壁をチクチクと刺激するため慢性的な腹痛に襲われるそうです。腹痛が長期にわたると牛も人と同じで落ち着きがなくなり、痛みでイライラするため、気性が荒くなります。牛がうるさいというのもSARAが引き起こす症状の一つと言えるかもしれません。
今月は以上です。お付き合いありがとうございました。

byとある獣医師

2016-4-16 | Leave a Comment

とある獣医師の独り言37


三月です。今年はあまり荒れた天気にならないなんて言っていたら、ついに先日やられました。このコラムの中にも~猿払大荒れの天気~として写真付きで紹介されていましたが、スーパー爆弾低気圧が道北を直撃しました。まさにホワイトアウトそのものでした。その時の強烈な東風のおかげと言ってはなんですが、わが村でもようやく流氷がやってきました。まだ接岸とまではいきませんが、この流氷が様々な栄養を運んでくれるため、オホーツクの海は豊かだと言われています。ようやく日差しも春めいてきました。春までもう少しの辛抱です。
本題です。先月は乳酸を中和するための反芻についてお話ししましたが、今月は反芻が減少することによる中和障害のSARAについてお話ししていこうと思います。
 数年前までは牛は配合飼料の多給と配合飼料の給餌のタイミング(分離給与の場合、配合飼料の給餌の前には粗飼料を与えるなど)さえ間違えなければSARAにはならないと言われていました。ですから、飼料設計されたTMR給与ではSARAは起こらないと信じられていました。しかし、近年センイ不足により反芻が低下し、SARAが発生することが注目されるようになってきました。牛は反芻することによって唾液を一日に150から200ℓ出すと言われていますが、それを重曹に換算にすると1から1.5㎏になります。この重曹によって中和されたルーメン内では、乳酸利用菌が元気に働き乳酸をプロピオン酸へと変換し、変換されたプロピオン酸はルーメンの絨毛(じゅうもう)から吸収され、肝臓でブドウ糖へと変換され全身で利用されます。しかし、反芻が減少し重曹が流れてこなくなったルーメンでは、酸に弱い乳酸利用菌が次々と死滅し、乳酸は分解されずにどんどんとルーメン内に蓄積されることでさらにルーメンの酸性度を下げSARAの発症へとつながっていきます。ですから、前回お話しした『反芻を触発するセンイの長さ』や『精神的な安静』は牛に生命にとって非常に重要な要素になっています。

図1正常なルーメンのイメージ


図2SARAのルーメンのイメージ

三回にわたりSARAの発生原因についてお話してきましたが、一般的にはSARAの症状の重さは乳酸の産生される量に比例するので、乳酸を処理できない場合のSARAの方が重症にはなりますが中和障害の方も決して症状が軽いわけではありません。
現代の牛は泌乳を求めるがため、より多くの配合飼料を食べさせられています。さらに、乾草のような消化に時間がかかる飼料は乳量にならないとして嫌われる傾向があります。しかし牛は一番必要なものは、配合飼料ではなく、栄養価が高く良質のセンイを多く含んだ粗飼料であることは間違えありません。
今月は以上です。来月からはSARAが招く様々な病気についてお話ししていきます。今月もお付き合いありがとうございました。

by とある獣医師

2016-3-20 | Leave a Comment

~猿払大荒れの天気~

発達中の低気圧の影響で、北日本を中心に雨や雪を伴って風が強まり、ところによって猛吹雪となっていました。
2/29この日は猿払の現場で午前中は穏やかな天気でしたが、午後になるにつれて風が強まり、雪が激しくなってきました。
このままでは、帰れなくなると判断し現場を途中で切上げ名寄に帰宅中 猿払の国道238号線が通行止めに・・・
帰ろうにも猛吹雪の影響で各道路が通行止めなり、全く身動きがとれなくなってしまいました。
猿払道の駅に停車し一向に良くならないまま6時間が経過した時に、パトロール隊の方が来られて鬼志別の役場に避難する事になり、1日役場で過ごす事となりました。
その一部を写真でご紹介します。


↑国道238号線通行止めの様子


↑配給の様子


↑就寝の様子

猿払村役場の方々大変お世話になりました。
ありがとうございます!!

by RIMU

2016-3-4 | 2 Comments

とある獣医師の独り言36

2月です。今年は暖冬と言われながら沖縄でも観測史上初めて雪が降ったそうです。アメリカやヨーロッパでも大寒波が発生し、暖かい冬なんだか寒い冬なんだかよくわかんないですね(笑)。そんな中、私の住んでいるところは特に雪も多くもなく寒さも例年通りです。苦手な冬も実質あと二か月。大荒れになることもなく無事過ぎていくことを祈るばかりです。
本題です。先月はSARA(亜急性ルーメンアシドーシス)になる要因の一つ、乳酸をプロピオン酸に変換できなかった場合についてお話ししましたが、今月からはもう一つのSARA要因、乳酸を中和できなかった場合についてお話ししようと思いますが、その前にその中和にどうしても欠かせない反芻についてお話ししようと思います。
当たり前かもそれませんが、酸を中和するのはアルカリです。化学物質としてアルカリ性のものは沢山ありますが、生体内でアルカリ性を示す物質と言えば唾液に含まれる重炭酸しかありません。ですから、ルーメンでできた乳酸を中和するためには、唾液をたくさん出すことが必要で、そのためには反芻という行動が必要になるわけです。そこで今月は反芻の発生に必要なこと見ていきましょう。


図1 反芻発生のメカニズム

◎反芻をさせるために
①センイの長さ
反芻を引き起こすには一胃の中と二胃のヒダにある特定の部分(正確には上皮受容体(じょうひじゅようたい)と言います)に物理的な刺激が必要になります。具体的には平均5mm以上の粗飼料のセンイが通過しようとすると、牛の脳は消化できないと判断し、第二胃から収縮を起こし一胃へと連動する一連の反芻が発生するわけです。ですから5mmに満たないセンイが通過しても反芻が起こりません。混ぜすぎたTMRではこの長さには満たず反芻は減少し、高水分のサイレージでもルーメン内では微生物により早くに分解されてしまうため反芻が起きなくなってしまうのです。この5mm以上という長さが非常に重要です。一方、センイが長すぎてもヒダを通過できないため、刺激が起きず反芻がおこりません。その場合はルーメン内を長くただよい、微生物の分解を待たなくてはならないため消化に時間がかかるわけです。

②精神的な安静
反芻は脳で起こします。ですから、精神状態によって反芻の発生に大きな差が生まれます。つまり、興奮状態や過度のストレス下では反芻は起きにくくなります。具体的に、居心地の悪いストールや汚れた環境、暑熱、過密などは反芻の減少の大きな要因になります。また、毎日行っている飼養管理作業を規則正しい時間に、決められた手順で行うことも牛の精神的な安定には重要な要素です。

牛は反芻獣と言われるくらいですから、反芻が生きていく上で最も重要な行動です。より良い反芻をさせてあげることが牛を飼う上で最も重要な管理です。

今月は以上です。来月は反芻の減少が及ぼす中和障害によるSARAについてお話しします。

今月もありがとうございました。

2016-2-25 | Leave a Comment

~学業の神様と牛の深い関係~


受験シーズン真っ只中の今日この頃。
合格祈願をこめて天満宮に行かれる方も多いかと思います。そこで祀られているのは学業の神様としてよく知られている菅原道真公です。
天満宮は菅原道真が太宰府で亡くなったのち平安京で数々の天変地異が起こったり菅原道真を左遷に追いやった者たちが次々に
亡くなっていったことから菅原道真の怨霊に祟られていると考えそれを鎮めるために建てられたとされています
<注>諸説あり
また菅原道真が学業の神様として参拝されるようになった由縁は生前の菅原道真がとても優れた学者であったためだとされています

さてみなさんは天満宮に臥牛像と呼ばれる像があることをご存知でしょうか?この臥牛像は「使いの牛」(神使[=神様の使者]の牛]と呼ばれており古くから傷や病気の箇所をさすると治るとか頭をさすると知恵を与えてくれ賢くなるという言い伝えがあるそうです

そもそもなぜ学業の神様である菅原道真を祀っている場所に牛の像があるのか
不思議ですよね?それには多くの諸説があるようなんです一つ目は菅原道真が生まれたのが乙丑の年(承和12年[846年])
そして亡くなられたのが延喜3年[903年]2月25日の丑の日だからとゆう説二つ目は菅原道真のご遺骨を乗せた車を引いていたのが牛で、またその牛が座り込んで動かなくなった場所を菅原道真のご墓所と定めたからであるとゆう説
(この説から天満宮にある使いの牛の像は臥牛と呼ばれる座った姿勢をしている)
三つ目は菅原道真が太宰府へ下る際牛に乗っていたとゆう説四つ目は菅原道真が牛を愛育されていたとゆう説最後に太宰府に下る途中菅原道真が命を狙われた際、白牛に助けられたとゆう説
まだその他多数諸説はございますが何れにしてもこれだけの伝承があるとゆうことは菅原道真の神威の広大さと牛との深い関係を物語っていますね

最後に学業の神様としてたくさんの学生さんに参拝される菅原道真に上記のような話があったことを初めて知りましたしいい勉強になりました!またそれを知った上で天満宮に参拝にいくと面白いかもしれませんね

bySHUN

2016-1-31 | Leave a Comment

とある獣医師の独り言35

あけましておめでとうございます。今年も皆様に楽しんでいただけるようなコラムにしていきたいと思いますのでお付き合いよろしくお願いします。
当たり前ですが、やっぱ冬になってしまいましたね。今年は雪が少なくて良い冬だと思ったら年末にはすっかり雪景色になってしまいましたね。まだ一月になったばかりですが、すでに春が待ち遠しくなってしまいます。では本題です。
先月は亜急性ルーメンアシドーシス(SARA)の原因には二種類あると説明しましたが、その続きです。
◎乳酸を処理(プロピオン酸に変換)できない場合のSARA
牛の炭水化物の消化でお話ししましたが、牛は乳酸菌によって乳酸を作り、乳酸利用菌が乳酸をプロピオン酸に変換して、それをルーメン壁から吸収し肝臓でブドウ糖に再合成して全身で使うエネルギーにしています。しかし炭水化物が大量に入った場合には乳酸をプロピオン酸に変えることが間に合わなくなるため、SARAとなるのです。
昔から配合飼料をたくさん上げると乳量が増えることは知られていました。確かに配合飼料の増やし始めは乳酸利用菌も元気でプロピオン酸が多量にできるため乳量は増えますが、そんなに長くは続きません。乳酸菌は酸に強いですが、乳酸利用菌は酸にそれほど強くないため、徐々に増える乳酸により酸性化したルーメンは乳酸利用菌を死滅させます。そのためプロピオン酸に変換できなくなった乳酸はルーメンをさらに酸性化しSARAの発生につながっていきます。(図1.2参照)ただ現在は配合飼料の多給が牛の寿命を縮めることが一般的な知識になり、このような管理は減少しつつあります。しかし、次に挙げる場合ではこのタイプのSARAが起きていることが考えられます。


図 1 正常なルーメン


図 2 乳酸を処理しきれなかった場合のSARAの状態のルーメン

1.選び食い
 TMRによる給餌の場合しばしば問題になるのが選び食いです。水分不足のサイレージで作られたTMRではミキサーでうまく混ざらないため、牛は鼻先でサイレージを飛ばし残った配合飼料を選んで食べるようになります。この結果配合飼料多給と同じようなルーメン環境になりSARAを発症するわけです。この現象はフリーストールで飼養している場合には牛群の順位が優位の牛ほどSARAを起こしやすくなります。真っ先においしい餌を選んで食べるためです。牛群の中で強い牛が急に肢を痛がり出したら注意が必要です。もしかしたらSARAによる蹄病を起こしているのかもしれません。
  
2.ルーメンの馴致(じゅんち)不足
 初産牛や乾乳期間の長かった経産牛に見られるのがこのタイプです。初産牛は泌乳用の餌、つまり配合飼料が大量に入っている餌を分娩するまで食べたことがなく、ルーメンの細菌バランスが経産牛とは異なるためSARAを起こしやすくなっています。また、経産牛でも受胎が遅れ過肥になるのを予防するために粗飼料中心の飼料で過ごしてきた場合は、初産牛と同様のことが起こります。ルーメン微生物が炭水化物の急激な摂取量の増加についていけず、乳酸が過剰になってしまうのです。初産牛や乾乳期間の長かった牛に蹄病が多かったり、周産期病が多かったりする原因の一つがこれです。


来月はSARAのもう一つの原因、乳酸を中和できなかった場合をお話しします。

今月もお付き合いありがとうございました。

2016-1-7 | Leave a Comment

2024 菅原道北削蹄所|北北海道を幅広くエリアカバーする牛削蹄所です . | Blue Weed by Blog Oh! Blog