早いものでもう6月です。関東では梅雨入りしたそうです。昔は北海道には梅雨がないなんて言われていましたが、最近は蝦夷梅雨と言われ長雨がよく見られます。ここ数年宗谷では6月に天気が続いた記憶がありません。今年こそは晴天が続いてほしいものですね。
今月はCVCTについてお話しします。聞きなれないと思いますが、スプラッター映画のような出血を起こす病気です。
◎CVCT(Caudal vena caval thrombosis、シーブイシーティ)
日本名は後大静脈血栓症です。簡単に言えば後大静脈(心臓に戻る直前の一番太い静脈)にできた血栓(けっせん)が血液に乗り肺の毛細血管に詰まって破裂することにより、大量出血する病気です。
上の写真がCVCTを発症している写真です。なかなか強烈な写真ですよね。(この写真はテレビ・ドクター3から引用させていただきました。)左の写真は出血が少量なのでまだ生きていますが、右の写真は出血多量で死亡しています。CVCTの原因は諸説ありますが、SARAが要因だとも言われています。
まずは血液の流れをおさらいしてみましょう。(心臓の構造を参照してください)。牛の心臓の図がネット上になかったので、人の心臓の図を拝借して説明します(ちなみに牛も人も心臓の構造にほとんど違いがありません。牛で言う後大静脈は人では下大静脈になります。)全身から集まった血液は前・後大静脈を経由して右心房から心臓に入り、右心室で拍出されて肺動脈を経て肺へ送られます。肺でガス交換(二酸化炭素と酸素を交換)をした後、肺静脈を経由し左心房から再度心臓へ入り、左心室で拍出されて全身へ回るという経路を取ります。思い出しましたか?これは中学の二年生で習うそうです。
CVCTは血栓が肺に詰まると言いましたが、血栓は何でできるのでしょうか? CVCTの血栓は細菌性血栓と言われています。つまりは膿瘍とほぼ一緒です。後大静脈に膿瘍ができるということは全身が細菌に侵される、つまり敗血症(はいけつしょう)になっていなくてはなりません。先月SARAはルーメンの絨毛をはがすことで血液に微生物を漏らし肝臓に化膿巣をつくるとお話ししましたが、肝膿瘍で収まらなければ細菌は全身をめぐり敗血症を起こすのです。
では、なぜ後大静脈に血栓ができるのでしょうか?それは血液の流れの速さに原因があります。左心室から拍出された血液は各臓器を回り最終的に後大静脈に戻ってきます。ですから一番血液の流れが遅いため血栓ができやすくなってしまうのです。
一度できた血栓はさらに血流を阻害するためだんだん大きくなります。そして大きくなった血栓は一部が剥がれ血流に乗り心臓へ向かいます。心臓へ入った血栓は右心室で拍出され肺動脈へ入り、肺の末梢の血管を詰まらせます。詰まった血管は血液が流れなくなり、後ろから拍出されてくる血液によりどんどんと膨らみ、そこには動脈瘤が出来上がります。その動脈瘤がいつしか圧力に耐えられなり破裂し、その血液が気管を通り鼻や口から噴出することでCVCTが発症するのです。
もちろん敗血症の原因はSARAだけではないので、CVCT=SARAではありません。CVCTの原因としてほかによく見られるのが、寝起きが悪く全身性の褥瘡(じょくそう)や化膿性の関節炎を持っている牛です。著しく痩せているような慢性的な炎症を抱えている牛は要注意と言えるかもしれませんね。
今月は以上です。来月もまたよろしくお願いします。
byとある獣医師