九月になりました。暑い夏も台風と長雨で一気に秋の空気に変わってしまいました。ここからは一気に日が短くなり、寒くなる一方でなんだか寂しい感じになるのであまり好きな季節ではありません。実りの秋なので食べ物がおいしくなるのは良いですけどね。釣りにもいい時期になりますし。
本題です。今月もSARA(亜急性ルーメンアシドーシス)によってルーメン微生物が死亡することで引き起こされる病気の続きです。
◎繁殖障害
今までこのコラムではSARAになると、エネルギー不足とタンパク不足により栄養失調となることは何度もお話ししてきました。栄養失調の状態になると牛はまず先に自分の生命維持のためにエネルギーを使います。そして生命維持に使って残ったエネルギーを自分の子供のための牛乳を作る泌乳のエネルギーとして、それでもエネルギーが残っていて初めて子孫を残すために繁殖(発情)へとエネルギーを回すそうです。ですからSARAの状況下では繁殖障害になるのは当たり前と言ってしまえばそうなのですが、ルーメン微生物の死滅によるエンドトキシンによってさらに繁殖に悪影響を与えます。今回はそのお話しです。エンドトキシンは血液に取り込まれることによって様々な臓器に行くことはお話ししましたが、卵巣も例外ではありません。
写真1 牛の卵巣 下の写真には4個の卵胞がある
1、卵胞機能への影響
卵巣の中には複数の卵胞があり卵胞液と一つの卵子が入っています。その卵胞液が発情や受胎に重要なホルモン、エストロジェンとプロジェステロンを分泌します。卵巣に到達したエンドトキシンはこれらのホルモンのバランスを崩すことよって発情を起こさないように働きます(鈍性発情あるいは無発情)。
2、卵子への影響
卵子は卵胞の中で成熟することにより排卵し、授精によって子宮内で精子と結合することにより受精卵となります。しかし、卵巣内に入り込んだエンドトキシンは卵子を授精できるように成熟させるのを阻害します。つまりはエンドトキシンがあると卵子は成熟できなくなり、排卵できるような卵子に成熟できなくなるのです(卵子の発育障害)。
さらに受精卵は子宮から栄養を得るための栄養膜と呼ばれるものを伸ばすことで子宮に着床し核分裂を繰り返し胎児へと成長していきますが、ところがエンドトキシンは栄養膜を作るのを阻害することで着床にも悪影響を与えます(受精卵の着床障害)。
もちろんエンドトキシンSARAの時だけ出るものではありません。大腸菌性の乳房炎や産褥性の子宮炎の場合にはSARAの場合よりも多くのエンドトキシンが産生されます。エンドトキシンの量が多ければ多いほど繁殖に悪影響を与えるのは間違えありません。みなさんも経験があるかと思いますが、乳房炎や子宮蓄膿症に罹った牛はその後受胎が悪いのはこの影響もあるようです。エンドトキシンは怖いですね。
今月は以上です。お付き合いありがとうございました。
byとある獣医師