とある獣医師の独り言38

4月です。めっきり春めいてきましたね。今年は雪が少なかったせいか、牧草地がところどころ見えてきています。毎日少しずつ日が長くなっているのを実感するとなんだかやる気になります。だからと言って何をするわけでもないんですけどね。では、本題です。
先月まではSARA(亜急性ルーメンアシドーシス)の発生要因についてお話してきましたが、今月からはSARAが起こす病気についてお話ししていきます。今回は下痢です。下痢は病気というよりは糞(ふん)が柔らかくなるという状態の一つですが、SARAの場合多くに見られる症状のため、最初に取り上げることにします。
通常、胃と小腸で栄養と水分を除かれた食べ物の残りかすは、大腸でさらに水分を吸収されることで硬くなり、糞として排泄されます。しかし何らかの原因で水分過多の状態で排泄された場合を下痢と称します。その下痢の原因は大きく感染性と非感染性に分けられます。感染性の下痢の原因はサルモネラや病原性大腸菌などの細菌やノロウイルスやコロナウイルスなどのウイルス、コクシジウムやクリプトスポリジウムなどの原虫など微生物の感染にあります。これは微生物が作る毒素やウイルスが腸の壁を直接障害するために起こる下痢です。一方でSARAの下痢の原因は非感染性です。ルーメンで過剰に作られた乳酸は四胃を通過し小腸を通り大腸へと流れていきます。通常、大腸は水分を吸収し糞を固くしていきますが、乳酸が大量に含まれたまま腸を通過すると酸によって腸管に炎症をひきおこされるため、逆に水分を分泌して酸を希釈し炎症を抑えようと体が反応をします。これが下痢の原因です。急性のルーメンアシドーシスでは乳酸の量も大量のため、腸管から分泌される水も大量になり水のような下痢をしますが、SARAの場合は写真のような泡立つ下痢が見られることが多くなります。このような糞をする牛が散見されるようになったら、SARAを疑ってみるのもありかもしれません。
更にみなさんも経験があると思いますが下痢はお腹が痛くなります。そして乳酸は腸壁をチクチクと刺激するため慢性的な腹痛に襲われるそうです。腹痛が長期にわたると牛も人と同じで落ち着きがなくなり、痛みでイライラするため、気性が荒くなります。牛がうるさいというのもSARAが引き起こす症状の一つと言えるかもしれません。
今月は以上です。お付き合いありがとうございました。

byとある獣医師