国際蹄病学会レポート
反芻動物の国際蹄病学会が平成31年3月10日(日)~13日(水)浅草ビューホテル(学会会場)
3月14日(木)麻布大学(実習会場)で開催されました。道北護蹄会からは木内会長、菅原が参加しました。木内会長のレポートをご覧ください。

「反芻動物の蹄に関した話題だけで世界中から技術研究者の集まる学会があるんだ
よ」と、20年以上も前の北海道獣医師大会で見知らぬ先輩から教えてもらった。その
方が石井亮一さんであり、蹄治療の参考書として何度も読んだツーサン・レーヴェン
著の「牛のフットケアと削蹄」を訳した御本人だった。以来、そのような方々が国際
蹄病学会へ参加し続け、ついに日本開催を実現したのである。心から感謝したい。
プログラムは3/11から3/13まで基調講演・特別講演を含めた口頭発表が66本。ポス
ターセッションは32本。そして最終日3/14は、麻布大学で削蹄実演とジンプロ社主催
の研修会が3本。とても豪華な内容である。参加者は250名以上で、半数は海外から
だったと思う。道北護蹄会からは私と菅原、そして多くの会員が自費参加した。

私は3/12の早朝から出発して、昼に浅草ビューホテルへ到着。学会2日目の昼食か
ら参加したが、当然にテーブル席は満席。後方の椅子だけの場所で、豪華な弁当を食
べながら気持ちを落ち着かせた。だから弁当の内容は全く覚えていない。午後はジン
プロ社A.Gomezの基調講演から始まった。栄養観点から跛行をコントロールしよう
と、SARA(亜急性アシドーシス)の悪影響やビオチン・亜鉛・銅などの微量元素の必
要性を示した。一般口演はテーマで分けて発表が進む。まずは「蹄病の影響」として
繁殖や乳生産に及ぼす影響の口演が続き、次いで「基本」として蹄構造や栄養面など
多方面から捉えたレポートだった。アメリカ人もヨーロッパ人もイスラエル人も中国
人も、日本人までも英語で話す国際学会。同時通訳があって助かった。途中のコー
ヒーブレイクでは、ポスタープレゼンテーションを囲んで各自自由に質問。まわりに
は協賛ブースもあり、とても楽しめる空間だった。終了後の夜は、護蹄会会員であり
生産者でもある野露くんと小さな店で初めてのサシ呑み。生産者ながらも蹄治療に関
心のある彼なので、たくさん勉強させてもらった。

翌日3/13は学会3日目。ドッファーと三澤教授の特別講演から始まった。ドッ
ファーと言えば趾皮膚炎(DD)のMスコアサイクルを世紀末に唱えた研究者。今世紀
ではさらに進化し、歩様や蹄球部をカメラで撮り、それをAIアプリでロコモーション
スコアやMスコアとして解析して疾病発見の一つにしようと考えていた。三澤教授は
昨年の護蹄研究会で報告していた趾皮膚炎の原因菌究明。主たるはトレポネーマ(T.
phagedenis)ではあるが、他の細菌群も巻き込んだポリミクロバイアル(多菌種感
染)病であることを裏付けた。一般口演テーマは関連性のある「趾皮膚炎」で始ま
り、原因菌とされるトレポネーマの糞中敷料中生存期間や消毒効果、蹄浴pHなど、昼
食時間を挟んで様々なレポートが出された。それほどDDは世界的に切迫した問題なの
だろう。ドッファーはレッグバンドなる副蹄の下に装着するバンドを紹介。銅イオン
薬液を浸した効果を示した。次いで「蹄傷害」としたテーマでは、DD以外の趾間フレ
グモーネも重要であることを伝え、また蹄病変の意味を報告していた。この口演で座
学は終了。同時通訳の方々も含めて皆さんに感謝して終えた。夜は世界から集まった
仲間のために、ガラディナー(特別祝典ディナー)をバスで移動して開催。景色や料
理はもちろんのこと、アームレスリング大会や剣術舞踏などの余興もあって、参加者
全員で楽しい時間を過ごした。その後は護蹄会メンバーたちと浅草のホッピー通り。
屋台感覚を楽しみながら歓談したのだが、翌日が早いので閉店とともに解散した。

最終日3/14の4日目は、朝6時から麻布大学へ4台のバスで移動。乗ったバスは前
席がカールバーギーで他の研究者もハイテンションな楽しい遠足バスだった。大学で
は防疫対策後に研修会場へ移動。グループを6チームに分けて3会場の研修と1会場
の削蹄実演を効率的に受けさせてくれた。
3.効果的な記録の分析と文書化 Dr.Gerard Cramer ミネソタ大学 アメリカ
削蹄作業は記録してこそ役に立つ。そのためのツール〈アプリ〉も存在している。
分析して何かの傾向が分かれば、それ以上の納得できる情報は無い。
1. 牛の蹄の生体力学 Dr.Christoph Mulling ライプツィヒ大学 ドイツ
死蹄と圧力センサーとプレス機を使って蹄底部負重面を可視化してくれた。
削蹄技術によって負重する面積は明らかに変わった。
2.AI技術での趾皮膚炎の評価と管理 Dorte Dopfer ウィスコンシン大学 アメリ
カ
DD治療の模擬実演に驚いた。No Cut. No Debridement.と言ったか分からないが、
「患部は切除するな」と聞いた。自分の治療は間違っていなかった。最大の収穫。

削蹄実演
3グループを集めて実施した。死蹄を用いて眞鍋削蹄師のバタフライチェックを
使った真皮平行削蹄法。蹄尖を落とした死蹄すべてを縦に割断して実証した。次いで
石賀削蹄師が実際の乳牛に立ち切り削蹄を実演。海外で使われるのはフーフナイフ
(括削刀・かっさくとう)である。日本固有の鎌形蹄刀は珍しく、海外からの参加者
は集中して見学していた。また死蹄を使った模擬削蹄実習でも、海外の人たちは鎌形
蹄刀に悩んでいた。力の無い日本人が硬い蹄を削るため、柄を回すことで刃を滑らせ
て切削する技術。この意味を学んだ全員に石賀削蹄師は使った鎌形蹄刀をプレゼント
していた。おもてなしの心である。

全ての内容を終えて、麻布大学での昼食会は乾杯で始まった。多くの参加者が笑顔
で集まっていたが、本当に笑顔だったのはスタッフの方々だった。このような素晴らしい学会を準備開催してくれたことに感謝し、麻布大学とその学生たちにも御礼を言いたい。
道北護蹄会 会長 木内 彰