とある獣医師の独り言30

8月ですね。ここ宗谷もようやく熱くなってきてビールも美味しい時期になりました。牛にとってはこの暑さは堪えるでしょう。いくら暑くても人間以外の動物は冷たい水を好みません。特に牛はルーメンの細菌たちがびっくりしてしまうので禁物です。キンキンに冷えたビールを飲める人間に生まれて幸せを感じてしまう今日この頃です。
さて本題です。人間でも牛でも同じですが、活動のエネルギーはブドウ糖です。筋肉を動かすのも、頭で物事を考えるのもブドウ糖が必要です。そのブドウ糖がたくさん結合してできた物が炭水化物です。米やパン、パスタなどがそれにあたります。これら炭水化物を胃や腸でバラバラにして、最終的にブドウ糖にまで分解して腸で吸収することが、炭水化物の消化吸収です。一方で体を作っているのはアミノ酸です。筋肉や骨、血液など体の部品を作っているのはアミノ酸です。このアミノ酸がたくさん結合してできた物がタンパク質です。肉や魚、大豆などの豆類などがそうです。これらタンパク質をバラバラにして腸からアミノ酸として吸収することが、タンパク質の消化吸収になります。これを車で例えると、エンジンやボディーを作っているのがタンパク質、ガソリンが炭水化物と考えると分かりやすいかも知れません。とにかく、われわれ動物が生きていくためには、炭水化物とタンパク質は絶対必要不可欠な食べ物と言えます。今月からは牛の炭水化物とタンパク質の消化吸収に前胃がどのように関与し、人間の消化吸収とはどこが違うのかについてお話ししていこうと思います。


循環器病情報サービスのホームページより引用

まずは人の炭水化物の消化吸収です。基本的に人の消化の主体は体から出す酵素アミラーゼになります。酵素とは炭水化物やタンパク質の結合を分解するのに手助けをするタンパク質の一種です。口から入った炭水化物はまずは口の中で噛む事によってある程度ばらばらになります。そこで口の中の唾液に含まれる消化酵素アミラーゼによってさらに分解されます。ご飯を口の中で良く噛むと甘くなるのは、炭水化物が分解されて、糖に変わっていくためです。その後、胃に入り唾液のアミラーゼは胃酸によって活力を失いますが、胃を経て十二指腸に流れると、今度はすい臓からのアミラーゼによってブドウ糖にまで分解され、小腸の絨毛と言う襞(ひだ)から吸収され、血液に乗り全身へと運ばれていきます。運ばれたブドウ糖は全身の筋肉や脳でエネルギーとして使われ、残りは筋肉や肝臓でグリコーゲンとして蓄えられます。グリコーゲンはエネルギーとしては使いやすいのですが、あまり多くは貯蓄できないため、より貯蓄しやすい脂肪に変換され皮下や内臓に溜まります。これがいわゆる中性脂肪です。現代のような日本になる前は、一日三食はおろか一食すら危うい毎日を過ごしていたため、この余りを中性脂肪として蓄積するシステムは生き残るために非常に有意義なものでした。しかし、現在では体を動かすことなく簡単に三食食べられてしまうため、中性脂肪は利用されることなくどんどんと蓄積され、メタボリックシンドロームとなってしまうわけです。
今月はこのくらいにしておきます。来月は牛の炭水化物の消化についてお話ししていきます。
今月もお付き合いありがとうございました。

byとある獣医師