とある獣医師の独り言28

6月ですね。今月の中過ぎにはここ宗谷でも草刈りが始まります。今年の天気はどうなんでしょうか。この時期の天気が今後一年間の乳量や病気の発生に大きく影響する訳ですから、何とか晴天が続いてくれる事を祈るばかりです。
前回はケトーシスとは何かについてお話ししました。今月はもう少しケトン体が産生される過程を詳しくお話ししていきます。

ケトン体はなぜできるのか
ケトン体は牛だけが作る物質ではありません。人間も作るし、肉食獣であるネコやイヌも地球上のほとんどすべての動物が作り出す物質です。動物が飢え死にしないように取る、自己防御手段の一つです。
太古の昔から動物は飢餓との戦いでした。人も現在のように一日三食ご飯が食べられるわけでもなく、牛も家畜になる前はサイレージや配合飼料が毎日お腹いっぱい食べられるわけではありませんでした。ですから、いつもより多く食べられた時に余ったタンパク質やブドウ糖を貯蔵に最も適した脂肪の形として内臓や皮下に溜めることを覚えました。油は筋肉や砂糖より燃えやすい事を考えると、いかに効率が良い貯蔵かがわかると思います。
一方、食べられない時には、肝臓で筋肉を分解してできたアミノ酸を変換してブドウ糖を作る糖新生を行い全身で利用するということを獲得しました。ですから、飢餓の時、動物は痩せてはいきますが、数日食べなくても生きていけるわけです。この過程で出来るのがケトン体です。
どのようにケトン体はできるのか?糖新生を行うにはエネルギーが必要です。このエネルギーを作り出すのが脂肪の分解です。体中から脂肪は肝臓に入り分解され脂肪酸になり、脂肪酸がさらに分解される時にできるアセチルCoA と言う副産物がケトーシスの原因物質ケトン体になるわけです。しかしケトン体は全くの悪ではありません。ケトン体は飢餓状態時の脳の唯一のエネルギー源として使用されるからです。 しかし飢餓状態が長引き、脂肪の分解が過剰になると、ケトン体は利用されずケトーシスと言われる病態に移っていくわけです。
では、なぜケトーシスになると食べないのでしょうか?ケトン体はアセト酢酸、βヒドロキシ酪酸と言うように酸が付いていることからもわかるように酸性物質です(ケトン体のうちのアセトンは別です)。ですから体のpHは酸性に傾き、アシドーシスになるわけです。これをケトアシドーシスと言います。アシドーシスになっては食欲が低下するのもわかりますよね。人もケトーシスになるそうですが、その典型は糖尿病だそうです。糖尿病では糖が吸収されないため、体は極度の飢餓状態になるため、人でもケトアシドーシスになるそうです。
今月はこのくらいにしておきます。
お付き合いありがとうございました。