とある獣医師の独り言27

ゴールデンウイークです。異常に暖かいですね。ここ宗谷でももう桜が咲きました。宗谷に来て今年で18回目の春を迎えますがこの時期に桜が咲いたのは異常な早さです。どうせならもう少し夏も暑くなればビールがおいしいんですけどね。

今月からはケトーシスについてお話ししていこうと思います。
さて皆さんケトーシスとは何でしょうか?当たり前のことですが、ケトン体が体内に過剰になる事をケトーシスと言います。普段酪農をなさっている農家の皆さんはもちろん酪農関係者の皆さんもケトーシスやケトン症と言う言葉を一度は耳にした事はあると思います。また、分娩後に泌乳が増えてエネルギー不足におちいるとケトーシスになると言う事を分かっている方もいっぱいいらっしゃると思います。しかし、そもそもケトン体とは何でしょうか?どこから出てくるのでしょうか?さらに、ケトーシスになるとなぜ食べなくなるのでしょうか?『何を今更、そんな事分かってる』と言う方もいるかと思いますがそう言わず、ぜひお付き合いください。

ケトーシスとは何か
先ほども言いましたがケトン体が体に多量に循環する状態の事を言います。ではケトン体とは何でしょうか?それはβ(ベーター)-ヒドロキシ酪酸、アセト酢酸(アセトアセテート)、アセトンの3つの総称です。ではどのような経路で体内に出てくるのでしょうか?
 牛は人間と同じくブドウ糖をエネルギー源とします。(ブドウ糖の吸収の仕組みは人とは違いますが、体を維持するのに使うエネルギー源は人と同じブドウ糖です。)しかし牛は分娩とともに莫大な量の泌乳をするため、採食で得られるエネルギーよりも多くのブドウ糖を必要とします。そこで足りないブドウ糖を筋肉などに蓄えているタンパク質を分解してまかないます。これを糖新生と言います。その糖新生に必要なエネルギー源として利用されるのが体脂肪です。具体的には体脂肪を分解し脂肪酸を作りこの脂肪酸をβかしてアセチルCoA(コーエー)を取り出し、TCAサイクルを回して…などと書いていくと何の事だかわかんなくなると思いますので、簡単に言ってしまえば、糖新生の際の体脂肪利用の副産物がケトン体です。
ケトン体として始めにできるのがβ-ヒドロキシ酪酸です。往診に来た獣医さんが乳汁やおしっこでケトン体を量っているのはこのβ-ヒドロキシ酪酸です。それが肝臓のミトコンドリアで分解されるとアセト酢酸ができます。アセト酢酸は不安定な物質なのですぐにアセトンに変わります。このアセトンは揮発性が高くは呼気や皮膚から体の外に出ていきます。よく農家さんからの往診依頼でケトン臭がすると言われますがその原因はアセトンです。アセトン臭は柿やリンゴの熟した匂いとか甘酸っぱいにおいとか言われることが多いと思います。
余談ですが最近は糖質制限ダイエットが流行っていますが、頑張りすぎると人もケトン臭がするようになるそうです。医学の方ではケトン臭の事を飢餓臭とも言われるそうです。ダイエットはほどほどにしないと体臭がケトン臭くなりますよ。
 

今月は以上です。今月から独り言のコラムを少し短めにしてみました。このほうが読みやすいかなと思いまして…。決してネタ切れが怖い訳ではないですよ(笑)。
来月もお付き合いをよろしくお願いします。

byとある獣医師