とある獣医師の独り言60

今月は牛の炭水化物の消化吸収についてお話ししていきます。

炭水化物の消化(牛の場合)
当然ですが、牛も口から炭水化物を摂取するわけですが、その消化は口に入った時点から人間のそれとは大きく異なります。牛は唾液の中に炭水化物を分解する酵素、唾液アミラーゼを持っていません。つまり牛は食べ物を口の中で咀嚼し唾液と混ぜることはせずに、ほぼ丸呑みします。丸呑みされた炭水化物は反芻動物の最も特徴的な器官第一胃(ルーメン)に入ります。牛のルーメン内には表1に代表される無数の微生物が存在し、牛の炭水化物の消化のメーンはこのルーメン微生物の消化つまり発酵に頼っています。彼らが炭水化物を分解発酵し、揮発性脂肪酸(VFA)=ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸を得ることで牛はエネルギーを得ることができるのです。ルーメン微生物の中には人間が植物繊維としてしか利用できないセルロースやデキストリンなどを分解し、炭水化物として利用できるようにしてくれるセルロース分解菌や可溶性繊維分解菌も存在します(表1)。セルロースと言えばティッシュペーパーで、デキストリンと言えば特定保健用食品(トクホ)の飲料に含まれる難消化性の繊維のことです。牛はティッシュも消化できるしトクホを摂取しても糖の吸収を穏やかにはしてくれないってことです。

話は逸れましたが、次回はルーメン微生物による発酵でできたVFAを牛はどう利用するか、そしてSARAの原因はどこにあるのかについてお話ししていきます。

表1 代表的なルーメン微生物と発酵物質と発酵産物

byとある獣医師