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とある獣医師の独り言23

明けましておめでとうございます。今年もこのコラムを読んで下さっているみなさんの牛が健康になり、少しでも皆さんのお役に立てるような記事を書いていこうと思っていますので、また一年間よろしくお願いします。
今シーズンは厳しい冬ですね。私の住んでいるところはすでに二回も国道が通行止めになり、陸の孤島になってしまいました。たしか気象庁が今年の長期予報で『エルニーニョの影響で暖冬になります』なんて適当な事を言っていたのを、今更ながらにがにがしく思いだしています。
さて本題です。今回は先月に続き子牛が摂取した飼料がルーメンの発達にどのような役割を果たすのかをお話しします。

◎乳(生乳、代用乳)
   生乳や代用乳は牛が生涯摂取する飼料の中でもっとも効率の良い飼料として知られています。その理由は固形飼料ではないため消化液や消化酵素で細かくする必要がなく、さらにその成分は良質なたんぱく質やアミノ酸、最もエネルギーとして利用しやすい糖が多量に含まれているためです。この栄養分はルーメンに入ってしまうと微生物の影響を受け分解されてしまうため、牛は食道第二胃溝反射を起こしてルーメンには流し込まないようにします。ですから乳はルーメンの発達には全く関与していないことになります。

◎スターター(人工乳)
   子牛が出生して乳の次に摂取するものがスターター(人工乳と言うと代用乳との区別が付きづらいのであえてスターターと言わせてもらいます。)です。スターターは哺乳子牛用の配合飼料です。出生した直後の子牛のルーメンは無菌です。無菌の状態ではスターターを消化できません。では、その細菌がどこから来るのでしょうか?それは牛舎内の母牛や他の牛が飛ばす唾液の飛沫や微生物が含まれたエアロゾル粒子だと言われています。また、敷料、初乳、スターター自身にも微生物が付着しており、これらがルーメンに定着しルーメン微生物となります。出生後ただちに少数の微生物が出現し、二日後にはほぼ成牛と同じ密度の細菌数まで増殖するそうです(ちなみにルーメンの内容物1gに100億個の菌)。
スターターには麦やコーンのデンプン質が含まれています。これらがルーメン内の微生物の影響をうけて揮発性脂肪酸(VFA)に変化します。このVFAこそがルーメンの絨毛を成長させる物質です。主なVFAは酢酸、酪酸、プロピオン酸ですが、このうち絨毛を成長させる作用は酪酸>プロピオン酸>酢酸の順に弱くなっていきます。酪酸、プロピオン酸はデンプン質が分解されたときにできるのでスターターは牛にとって極めて重要な飼料と言えます。忘れてはいけないのがスターターを消化するのには水は不可欠です。ただし、水が一胃ではなく四胃に入ってしまっては、乳の消化に悪影響を与えるので哺乳直後に与えるのは禁物です。特にバケツ哺乳の場合は牛の胃がミルクと勘違いして四胃に送り込む恐れがあるので哺乳後最低30分は開けてから水のバケツを置くようにしてください。

◎乾草
   乾草の主な栄養源は線維分です。線維分はデンプンよりも分解に時間がかかり、分解されてできるVFAも7割が酢酸のため、絨毛を伸ばすという意味ではスターターほど影響はありません。ですから乾草は離乳した後の給与でも良いのではないかという意見も有ります。しかし一方で乾草が給与されないとルーメン壁に飼料が付着したり、ルーメン内に毛玉が溜まったりするとの報告も有ります。ですからブラッシング材として給与するのがよいとされています。またスターターは配合飼料であるため多給するとルーメンアシドーシスの原因にもなります。ですから反芻を誘発するための物理刺激としての乾草給与はやはり重要であると考えます。ただ、消化は非常に悪い為十分な哺乳をさせないで乾草を与えると、空腹に耐えかねた子牛が多量に乾草を食するため消化できず、四胃に溜まり乳の消化に影響をきたす場合があります。ですから哺乳期中は数センチに切断した良質な乾草を適度に(概ね100~200g程度)を与えるのが良いとされています。


このように哺乳期からの飼料の給与の仕方がルーメンの発達に大きく関与し、このルーメンの発達こそが今後の牛の一生を決めると言っても過言ではありません。

今月もお付き合いありがとうございました。

by とある獣医師

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