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とある獣医師の独り言2

先月に続きましてルーメンアシドーシスの時牛の体では何が起こっているのかをお話したいと思います。

通常時ルーメンでデンプンは微生物(ラクトバチルスなど)により乳酸に分解されます。乳酸はルーメンのpHが中性付近だと乳酸分解菌により速やかに酢酸やプロピオン酸などの揮発性脂肪酸(VFA)に分解されます。このVFAはルーメンの絨毛から吸収され牛のエネルギーとして利用されます。牛が健康であればデンプン質がルーメン内に入ってきて乳酸が生成されても反芻によって調整しpH6.5~7.0程度になり乳酸分解菌が活発に働けるpHに調整されます。


しかし、ルーメンマットの形成が不十分な状態でデンプンを多食したり、線維分が不足している粗飼料(水分含量の高いグラスサイレージなど)が給与されて反芻行動が行われなければ唾液による中和が起こらず、デンプンの分解により生成された乳酸により徐々にpHが低下していきます。乳酸を生成する微生物は酸性に非常に強く、菌の増殖速度も非常に速いのですが、反対に乳酸を分解する細菌や線維を分解する菌は酸性に非常に弱く増殖速度も遅いため乳酸を分解できずアシドーシスに拍車をかけます。また乳酸は強い酸でルーメンの絨毛を破壊し、生成されたVFAの吸収も妨げられます。これがアシドーシスの負の連鎖です。


皆さんもご存じと思いますが牛の重要なタンパク源はルーメンの微生物です。アシドーシスにより細菌のバランスが崩れると牛はタンパク不足に陥り痩せてきます。繁殖能力も低下します。更には乳量も減少してきます。ルーメン内に乳酸が多量になるとルーメンに大量の水が集まり、下痢お起こし脱水を引き起こします。


もっと深刻なことはルーメン内の微生物が死滅することによって慢性の大腸菌乳房炎のような状態になることです。どういうことかと言うと、ルーメン内の大腸菌の仲間のような菌(グラム陰性菌と言います)が放出する毒素(エンドトキシン)は、非常に強い毒性をもちます。ルーメンアシドーシスによって菌が死ぬことによって発生したエンドトキシンは、血流にのって肝臓に運ばれ解毒処理されます。


しかし、その量とスピードが肝臓の処理能力を超えたとき、全身に大量のエンドトキシンがまわります。こうなると大変です。肝機能、心機能、消化管機能に障害が起こります。ひどい場合は大腸菌の乳房炎のように突然死することもあります。肝炎、筋肉水腫もエンドトキシンが原因のひとつであると言われています。さらに卵巣に影響を及ぼし卵巣静止をおこし、また子宮に作用し不受胎の原因にもなります。


このように、ルーメンアシドーシスは何一ついいことは起こりません。ですからしっかり牛の状態を糞や毛艶、腹の凹み方などから把握してルーメンの状態を最適の状態に保つことが肝要です。


次回は削蹄所のコラムらしく蹄とアシドーシスの関係について触れてみたいと思います。

by とある獣医師

写真素材: Photo by (c)Tomo.Yun

2013-4-4 | Leave a Comment

とある獣医師の独り言1

 私は道北のとある町で獣医師をしているものです。
菅原削蹄師からコラムの依頼があり、僭越ながらお受けすることになりました。
よろしくお願いします。

 突然ですが皆さんルーメンアシドーシスってご存知ですか?
『そんなのは当然だ』とおっしゃる方もいらっしゃると思いますが少しお付き合いください。
ルーメンアシドーシスは一般的に粗飼料に対して配合飼料(特にコーンなどの炭水化物飼料)が多いと発症すると言われています。
はたしてそれだけでしょうか?


 現在は完ぺきに飼料設計されているTMRを給餌している農家さんも多いことと思います。
また分離給与を行っている農家さんでは飼料分析にはきちんと出しているし、飼料の給与順もきちんと守っている人が多いとか思います。しかし削蹄師に『蹄葉炎が多いですね』って言われたことはありませんか?本来はそのような飼養環境ではルーメンアシドーシスは起こりづらいはずです。ではなぜ起こるのでしょうか。


 答えは単純です。飼料設計プログラムなどの機械が飼料を食べる牛ではないからです。
では牛の体では何が起きているのでしょう。牛の体で唯一アシドーシスを補正できるものは唾液です。
唾液を出すため必要なこと、それは反芻です。
牛の反芻を起こさせるには粗線維がルーメンの粘膜を刺激することが必要です。

分かりやすく言えば線維分の少ない高水分のサイレージだけでは線維質が足りず、消化スピードが速すぎるためルーメンの粘膜への刺激が足りません。結果として反芻が起こりにくくなります。このことにより唾液によるルーメンの酸性の中和が行われずアシドーシスになるというわけです。

 ルーメンアシドーシスの症状としては軟便、腹を巻く(特にけん部の凹み)、削瘦などいろいろあります。
しかしもっと早くに表れる症状があります。実はアシドーシスはお腹が痛いそうです。しかもチクチクとした痛みらしく牛はとてもイライラするそうです。ですから『なんだか最近牛群が軟便で落ち着かないなぁ』と思ったらルーメンアシドーシスを疑ってみる必要もあるのではないでしょうか。

 最後にルーメンアシドーシスの対処方ですがまずは粗線維の給与です。
TMR給与であれば乾草を混ぜるのが一番ですが、それが不可能であれば乾草を飼槽に置いておくだけでも十分です。
また分離給与であれば給与の合間(飼槽が空の時間)に乾草を給餌するのが良い方法かと思います。
牛は自分のお腹の調子を整えるために異常があれば自ら食べるはずです。できれば乾草は良質なものを選びましょう。
ぜひお試しあれ。

 次回はルーメンアシドーシスの時、牛の体で何が起こるのかについてお話したいと思います。

by とある獣医師

写真素材: Photo by (c)Tomo.Yun

2013-3-4 | 5 Comments

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