北北海道を牛柄トラックで駆ける牛削蹄所。菅原道北削蹄所のオフィシャルサイトです。

とある獣医師の独り言22

12月ですね。師走は何をするにも慌ただしくて、個人的にはあまり好きではありません。今年はまだ積雪には至っていないのが救いですね。このまま雪が積もらないで春になってくれればと虫の良い事を願っている毎日です。では本題です。
草食動物は植物の線維をエネルギー源として利用しますが、人や他の肉食動物と同様に線維を分解する特別な酵素を持っているわけではなく、微生物に棲息可能な場所を作り、そこで微生物によって線維を分解してもらいエネルギーとして利用するという画期的な体を作り上げてきました。単胃動物であるウマやウサギは、盲腸を大きくしてそこに微生物を住まわせました。一方牛を含めた反芻獣は人で言うところの胃の前に食道を変形させることにより3つの部屋を作り、その中で一番大きな場所を細菌に提供することによってエネルギーを得ることにしました。それがルーメンです。このルーメンですが、生まれてきてすぐ機能しているわけではなく、むしろ牛は生まれてすぐは我々人間と同様に胃(牛では四胃)に頼って成長していきます。今月からはこのルーメンの発達の仕方と発達に影響を与える要因についてお話ししていこうと思います。

ルーメンの発達
   ルーメンの発達には大きく二つあります。一つは胃全体に占めるルーメンの容積割合が大きくなる事。もう一つはルーメンの絨毛が伸長することにより栄養の吸収が可能になる事です。

1、容積割合

写真 1 出生直後の胃全体


写真 2 49日齢の胃全体


写真1は生まれたばかりの牛の胃です。この時期の一胃は四胃と同じかむしろ小さいくらいの大きさしかありません。しかし7週齢(49日齢)経った時点のルーメンは明らかに他の胃よりも大きくなっています。(写真2)成牛の胃の中で一胃の占める割合は80%と言われていますので、生後7週齢でほぼそれに近い割合になっていることが分かります。

2、絨毛の伸長

写真 3


写真3は写真1と写真2のルーメンを切り取った内部で、左側が0日齢、右側が49日齢です。0日齢は色が白く表面は若干の凹凸がある程度ですが、49日齢では、色が黒ずみ表面に明らかな突起物が見られます。これがルーメンの絨毛です。牛はこの絨毛から細菌が作り出した酢酸、プロピオン酸、酪酸などのVFA(揮発性脂肪酸)を吸収してエネルギーとします。そのため絨毛が長ければ長いほど表面積が広くなりより多くのエネルギーを吸収できるわけです。ですから、将来的に乳量が出るか出ないかはこの時期の絨毛をいかに発達させるかにかかっているとも言われています。
 来月は飼料によってどうルーメンが発達するかについてお話していきたいとおもいます。(今月の写真はルーメン8 ~いつでも、誰にでも、基本は基本~から引用させていただきました。)

このコラムを読んでくださっているみなさん、一年間ありがとうございました。来年もさらに皆さんの興味の沸くような話をできるだけわかりやすくお話ししていけたらと思っております。またよろしくお願いします。少し早いですがよいお年を!

by とある獣医師

2014-12-9 | 2 Comments

とある獣医師の独り言21

冬ですね…。これから日は短くなるし、寒さは厳しくなるし、雪は積もってくるし、いやなことばっかり考えてしまいます。これから先の楽しみは忘年会ぐらいしかないですかね(笑)。
今月は牛の消化のまとめです。牛はルーメン発酵で生命を維持している事は何度もお話してきましたが、発酵とはそもそも何でしょうか?一般に肉や野菜、穀物などの有機物は死滅すると微生物の影響を受けて分解・転換されます。この産生物が人にとって都合が良ければ“発酵”と都合が悪い場合は“腐敗”と言われます。つまり発酵と腐敗は同じ事が起こっているわけです。具体的に発酵によってできるものは、ビール・ウイスキー・ワインなどの代表されるアルコールが生成される発酵や、醤油・味噌・キムチ・チーズなどアミノ酸(うまみ成分)が生成される発酵、ヨーグルトなど酸が生成される発酵など多種多様に存在します。人は太古の昔から試行錯誤重ね、微生物の助けを借りて発酵させる事のより食料の長期保存を実現させてきたのです。同じように発酵は酪農の分野でもサイレージとして活用されています。サイレージとは植物を刈り取り低酸素状態で保存することで、植物が元から持っている乳酸菌が発酵を起こしpHを下げることにより、タンパク分解菌などの腐敗菌の増殖を防ぎ長期保存を可能にしたものです。このように酪農は発酵とともにあると言っても過言ではありません。
そしてさらにこの発酵の究極な形が“ルーメン発酵”だと言えるかもしれません。その理由としてすべての発酵がルーメンという限局された場所で起こり、その生成物はすべてルーメンの持ち主である牛が利用できるようになっているからです。ルーメン発酵の最終産物は揮発性脂肪酸(VFA)でこれが牛のエネルギー源である事は何度もお話してきました。牛はVFAで全体の7割のエネルギーを得ていると言われています。馬やブタはルーメンを持たない代わりに大腸で発酵しています。そこで生成されたVFAはそれぞれ5割と2割程度の生命維持エネルギーとなり、不足分は人と同じように小腸からのブドウの吸収に頼っています。それを考えると牛はいかにルーメン発に頼っているかが分かると思います。表1に解剖データによる動物別の発酵が可能な消化管の容積の割合を載せてみました。


これをみると牛や羊などの反芻獣がいかにルーメンに依存しているかが一目瞭然です。さらに発酵によって増殖した微生物は小腸に流れ込み重要なタンパク源になります。一方馬やブタでは大腸で発酵するため増殖した微生物は糞として排泄されるだけのため、無駄でしかありません。この事を考えてもやはりルーメン発酵は究極の発酵システムと言えると思います。またウサギやモルモットも盲腸で発酵させることによりVFAを利用しますがその割合は5割程度に過ぎません。他は小腸からの吸収ももちろんありますが、食糞する事によって貴重な栄養源を再利用します。通常はころころの糞をしますがときどきねっとりとした盲腸便と言われる糞をします。これをもう一度食べることによって無駄をなくしているわけです。立派なリサイクルですね。ただし、お尻から直接食べるのであまり見たことがないとは思いますが。ちょっとした余談でした。
これまで数回にわたって牛の消化とくにルーメンに重きを置いてお話ししてきました。線維不足や穀類の多給によって引き起こされるルーメンアシドーシスは発酵ではなく腐敗です。ルーメンが腐敗していてはエネルギー不足になるのはもちろん様々な感染症を起こしさらには突然死を引き起こすリスクも高まります。乳量を追うために穀類を多給することは牛に腐ったご飯を与えるのと同じ事です。人は腐ったものは決して口にはしないはずです。冒頭に発酵と腐敗を決めるのは人の都合だと言いましたが、せめてルーメンの発酵くらいは人の都合で決めるのではなく牛の都合できめてあげたいものですね。
今月もお付き合いありがとうございました。


byとある獣医師

2014-11-5 | Leave a Comment

とある獣医師の独り言20

寒いですね。ここ数年は9月でも夜に外でバーベキューなんかできましたが、今年は本来の北海道に戻ったようですね。その割にはオホーツク海の水温が高く釣りはいまいちの結果が続いています。今年の釣りも楽しめるのはせいぜいあと一カ月、何とかいい思いをしたいものです。
では本題です。今回は前回少しだけ話をしたMUNについて、もう少し詳しくお話したいと思います。



①MUNとは
Milk Urea Nitrogenの頭文字で乳中尿素窒素の事です。牛が採食したタンパク質は一胃で分解されやすい分解性タンパク質(RDP)と非分解性タンパク質牛(UDP、バイパスタンパクとも言われます。)に分けられます。UDPは直接四胃に流れ小腸で吸収されますが、分解性タンパクは前回もお話した通り、一胃の細菌により最終的にアンモニアにまで分解され、できたアンモニアから自らの菌体タンパクを合成し、牛はその菌体タンパクをタンパク源として利用しています。その過程にはエネルギー源として炭水化物が必要となります(図1)。このタンパク質の分解の過程でできたアンモニアは非常に毒性が強く牛の体に害を与えるため一胃の表面から吸収されたアンモニアは速やかに肝臓で無毒化され尿素体窒素(BUN)として血液中を流れます。牛乳は血液から作られるので乳汁中にもBUNが入り込んできます。それがMUNです。
②MUNと乳タンパク率の関係   乳量旬報や乳検速報に記載されているMUNと乳タンパクを利用することで牛群の栄養状態を知ることができると言われています。下の表はバルク乳でのMUN・乳タンパクと飼料のエネルギー・タンパク質バランスの関係を表しています。
◎MUNの上昇の原因
1)アンモニアの過剰生産
   タンパク質飼料の多給で起こります。また放牧初期の牧草はタンパク質が高い為MUNが上昇することがよく見られます。



2)一胃の細菌不足
ルーメンアシドーシスによって細菌の絶対数が減少するとアンモニアが利用されずMUNの上昇が見られます。言いかえると炭水化物の多給によってアシドーシスとなりMUNが上昇することがあります。
3)エネルギー不足
一胃の細菌がアンモニアを利用するためにはエネルギーとなる炭水化物が必要です。ですからエネルギー不足ではMUNの上昇が見られます。
   
◎MUN低下の原因
タンパク質特に分解性タンパクの給与不足で起こることがあります。しかし実際には低下が問題になる事は少なく、乳タンパクが正常範囲であればMUNが一桁の値だとしてもなんら影響はありません。逆に一胃での細菌の増殖が盛んである証拠とも言えるのです。
 
MUNはアンモニアの利用状況を反映しています。アンモニアは非常に毒性が強く胚の早期死滅による受胎率の低下や、アンモニアの解毒のために肝機能障害を起こします。またタンパク不足に陥るため牛は痩せてきます。
最近は飼料設計がしっかりしているためタンパク過剰によるMUNの上昇は起こりにくいと言われています。むしろルーメンアシドーシスによるアンモニアの利用障害による上昇の方が問題です。ですからMUNの数値のみで判断するのではなく、乳タンパクを含めた乳成分(特に繊維の採食状況に関係する乳脂肪)、糞の状態、反芻の回数、ボディコンディションなど総合的な判断が必要とされています。
今月もお付き合いありがとうございました。

byとある獣医師

2014-10-6 | Leave a Comment

とある獣医師の独り言19



秋です。宗谷にも待ちに待った鮭釣りのシーズンがやってきました。このように竿がずらりと並ぶとむずむずし出します。この時期は全道各地から鮭を求めてたくさんの人が集まります。中にはテントで寝泊まりしたり、車中泊をしながらシーズン終了まで釣り三昧の人もいるようですが、我々勤め人は休みの日を今か今かと心待ちにしています。早くコラムを書きあげて仕掛けの準備をしなきゃ(笑)。

今月は飼料成分別のルーメン微生物の利用法についてお話しします。飼料成分は大まかに炭水化物(糖質や繊維)、タンパク質、脂質に分けられます。


①炭水化物の代謝
炭水化物はルーメンの細菌の利用のしやすさ(分解速度の速さ)から易発酵性(いはつこうせい)基質と難発酵性基質に分けられます。易発酵性基質はいわゆる糖質と呼ばれる糖類やデンプンのことで、難発酵性基質とは食物繊維のことです。牛はルーメン内の微生物によってセルロースやヘミセルロースのような食物繊維も分解してグルコース(ブドウ糖)やキシロースとして利用しているのです。チモシーを例に考えると、チモシーの易発酵性基質は10%程度しかなく、半分以上は難発酵性基質となります。人間では1割しか栄養にならないものを牛が食すると6割以上を食料として利用できることになります。
またルーメン細菌は基質の利用性によってセルロース分解菌、デンプン分解菌、ヘミセルロース分解菌などに分けられます。一般的にセルロース、ヘミセルロースなどの繊維からは酢酸が合成され、これは乳脂肪となります。また、デンプンや糖類などの糖質からは乳酸が生成され、乳酸は乳酸分解菌によってプロピオン酸に合成されます。このプロピオン酸は酢酸や酪酸を産生するよりエネルギーロスが少ないため(話が難しくなるのでその理由についてはここでは話しません。決してわかんない訳じゃないですよ。念のため。)、牛が利用できるエネルギーが増えることにより乳量が増えることになります。このことは非常に良いことに思えますが、デンプンが乳酸利用菌の処理能力を超えて供給 されてしまうと、乳酸によるルーメンアシドーシスへと繋がっていきます。

②タンパク質の代謝
タンパク質はルーメン細菌でペプチドやアミノ酸、さらにアンモニアや有機酸まで分解されます。この分解物から新たにタンパク質が合成される話は以前にもしましたが、ルーメン細菌で最も特徴的な事はアンモニアからでもタンパク質を合成できる菌が存在すること事です。タンパク質の多給によりルーメン内でのアンモニア生成速度が利用速度を上回った場合は、ルーメン壁からアンモニアが吸収されルーメンアルカローシスとなります。症状としては食欲減退、削瘦、繁殖障害などアシドーシスとよく似ています。タンパク質給与の指標と言われるのがMUNで一般的に10~15mg/dlが正常値だと言われていますが、炭水化物の給与状況やルーメンの細菌との兼ね合いなので一概に高値だから多給、低値だから少給とは言えないと思います。たとえば、アシドーシスでルーメン細菌が減少していればアンモニアは利用されず高値を示しますが、決してタンパク質の多給ではないですし、逆にルーメンの状態が良ければ低値を示しても特に問題は無い訳です。すべては牛の糞の性状や腹の張りなど健康状態を見ながら総合的に判断するべきです。

③脂質の代謝
 脂質はほぼ90%ルーメン微生物によって分解され脂肪酸とVFA(ほぼプロピオン酸と酪酸)に分解されます。脂肪は多給すると細菌自体がコーティングされルーメンの発酵が悪くなると言われています。

今月はルーメン内での飼料の代謝について少し掘り下げてお話ししました。今月もお付き合いありがとうございました。

byとある獣医師

2014-9-12 | Leave a Comment

とある獣医師の独り言18

人間を含めた多くの動物と牛を含めたいわゆる反芻獣とは消化の機能が大きく異なります。非常に大雑把に言わせてもらうと、人は歯で食べ物を噛み砕いてから、胃で消化液の影響を受けてさらに細かくして、小腸で吸収されます。一方牛は歯で噛み砕くまでは同じですが、食べ物そのものから直接栄養を吸収することは非常に少なく、一胃に代表される前胃の微生物を利用した消化が行われます。昔から言われる『牛飼いは虫飼い』とはうまい表現だと思います。一胃の状態が悪化は乳量の維持どころか牛の生命維持すら難しくなってくるわけです。今月からはこの反芻獣だけが持つ素晴らしい消化システムをいろんな側面からできるだけわかりやすくお話ししていこうと思いますので、お付き合いをよろしくお願いします。
生物が自分の体を成長させ維持していくためには、食物を食べて消化をし、栄養を吸収することが必要です。吸収するためには食べた物をできるだけ小さくして吸収しやすくする必要があります。それが消化です。一般に消化は機械的消化と化学的消化に分けられます。機械的消化は咀嚼(そしゃく、噛む事)や蠕動(ぜんどう、消化管を動かして食べ物を後に運ぶ事)など機械的に食べ物を小さくすることです。一方化学的消化は胃酸による融解やアミラーゼやペプシーノゲンに代表される消化酵素による分解によって化学的に食べ物を小さくすることです。
牛を代表とする反芻獣の消化管の特徴としては先ほども述べましたが、人の胃に相当する四胃の前に3つの前胃が存在することです。前胃である一胃や二胃には微生物が無数に存在し、これらの微生物は飼料を分解する酵素を作り、飼料を分解します。(三胃にも微生物が存在しますが胃壁が襞(ひだ)状になっていて、その襞ですりつぶす機械的意義が強いとされています。)つまり、一胃、二胃では消化酵素は出ていませんが、ルーメン微生物によって四胃と同様に化学的分解が行われているわけです。このルーメン微生物による化学的分解はルーメン発酵と言われます。ルーメン発酵の結果として微生物は増殖し、増えた微生物は四胃以下で消化、吸収されて牛の貴重なタンパク源となります。またルーメン発酵によって揮発性脂肪酸(酪酸、プロピオン酸、酢酸など)を代表とする発酵生成物をルーメン内に放出し、牛はそれをルーメン表面の絨毛を介して吸収して自らの栄養源とするのです。要するに、牛のタンパク源はルーメン微生物の体タンパク、牛のエネルギー源はルーメン発酵の発酵生成物なのです。このようにルーメン微生物無しでは牛は飼料を利用できない生き物なのです。微生物だけであの大きな体を維持しているなんてすごい生き物ですよね。
次回はその微生物についてもう少し掘り下げていきます。

2014-8-10 | Leave a Comment

とある獣医師の独り言17

夏真っ盛りですね。実は私は釣りが趣味でして先日ブリを釣ってきました。まさかこんな道北であの青物のブリが釣れるとは全く思っていなかったのですが、どうやら海水温の変化で対馬暖流に乗った魚が日本海を北上し宗谷岬を回ってオホーツク海に来たようです。釣り人的にはようこそって感じですが、いたるところでゲリラ豪雨が降るようになったのも海水温の上昇によるとも言われているし、地球は本当に大丈夫なのか心配になりながらも次はマグロが釣れないかと期待をしている一釣り師でした。
では本題です。先月牛の生命維持にはルーメンが不可欠だという話をしてきましたが、ルーメンの中には細菌、原虫(プロトゾア、ミドリムシのような単細胞生物)、真菌(かび類)が無数に生息しています。ルーメンの容積を100リットルと仮定すると。細菌は1000兆個、原虫は100億個、真菌は10億個程度存在している計算になります。今月はルーメン微生物の代謝についてお話ししていこうと思います。
ルーメンの中で微生物は人間を含む他の生き物と同様に、生命活動に必要なエネルギーを得るためのエネルギー生成反応(異化代謝)と生体を構成する成分を合成する反応(同化代謝)を行っています。

① 異化代謝
異化代謝とは細胞に燃料を供給する反応で、これで生じたエネルギーは栄養の細胞内への取り込みや細胞成分の成長・分裂、細胞を維持するためのエネルギーとして使われます。この異化代謝をルーメンの中でルーメン微生物が行った場合、牛が食べた植物の構成成分であるセルロースやデンプンは異化代謝によってエネルギーとなり、残った分解産物は小さな分子へと変換されていきます。最終的には酢酸・酪酸・プロピオン酸などの揮発性脂肪酸(VFA)、二酸化炭素、メタンとなります。このVFAは先月もお話ししましたがルーメン壁から吸収されて牛のエネルギーとして利用され、二酸化炭素と水になります。言いかえると、ルーメン微生物が生きていくためのエネルギーを作った残り物が牛の大事なエネルギー源になっているわけです。

② 同化代謝
  同化代謝とは異化代謝の途中で生成された低分子などを素材とし、組み合わせることにより大きな構成成分(部品)を作り、最終的に微生物細胞その物を作り上げる反応のことです。同化代謝に利用する素材としてはタンパク質を分解することによって生成されたアミノ酸やアンモニア、低分子の糖質・脂肪酸などです。この異化代謝によって増殖したルーメン微生物は良質のタンパク源として小腸以下で吸収されて、牛の体の維持に利用されます。

つまり、ルーメン微生物がルーメン内で行っている事は、牛が食べた飼料を微生物自身の餌とし、異化代謝によりエネルギーと同化代謝の材料を獲得し、得られたエネルギーを使って微生物自体を組み立てる(増殖する)事なのです。また、個々のルーメン微生物は飼料に含まれるすべてを利用できるだけの能力はありません。しかし、多種多様なルーメン微生物がルーメンと言う限られた空間で生活することで、飼料中の多くの成分が分解されて微生物本体に再構築されていきます。このルーメン微生物の生命活動の総体がルーメン発酵です。牛が肉を食べなくてもあの大きな体を維持できる秘密はルーメン発酵にあったのです。

来月はさらに微生物をさらに掘り下げていきます。お付き合いありがとうございました。

by とある獣医師

2014-7-7 | Leave a Comment

とある獣医師の独り言16

春ですね。ようやく私の住むところも草地に草が伸びて放牧地には牛が放される時期になりました。暑くもなく寒くもなくちょうどいい時期になりましたね。
では早速本題に入りましょう。今月は削蹄の重要性についてお話します。今までのまとめ的な話になりますがよろしくお願いします。

①削蹄と乳量
蹄に不安があると乳量が減少します。これはフリーストールでは飼槽や水槽まで歩いていく必要があるため勿論ですが、繋ぎ牛舎でも同じように乳量は減少します。牛は基本的に立って採食し水を飲み、寝て反芻します。ですから削蹄が不十分で蹄に違和感を持っている牛は寝起きを嫌がり採食量が減るため乳量も減ってきます。

②削蹄と蹄病
蹄に違和感があると寝起きの回数が減ることで、一度起立したら長時間起立するようになり蹄に負担をかけ白線病や蹄底潰瘍を発症させるリスクも上がります。特にフリーストールではスラリーの中での持続起立となりPDDやスラリーヒールと言った感染性の蹄病を増やすことになります。

③削蹄とアシドーシス
採食量の低下による空腹が数日続くと牛は寝起きの回数を減らしても栄養が取れるように反芻が必要な粗飼料を嫌い、消化スピードが速い濃厚飼料を好んで食べるようになります。それを何日か繰り返すと一胃は濃厚飼料の分解によってできた乳酸によりルーメンアシドーシスとなり乳質の悪化、乳量の減少へ拍車をかけます。
さらにルーメンアシドーシスは蹄葉炎や蹄底潰瘍を引き起こし、ますます蹄の痛みが酷くなります。始めは違和感だけであった蹄も痛みがひどくなるにつれ起立が下手になり、寝起きに際にあちこちぶつけることで関節の腫れや褥瘡ができ、最終的には起立不能となります。


図 1 正常な子宮


図 2 子宮捻転

④ 削蹄と子宮捻転
  本来は牛が横になる動作はゆっくりと行われます。ところが蹄に痛みがある場合は横になる動作の途中で痛みに耐えきれず勢いよく寝てしまうことがあります。これにより左右不対称に大きくなっている子宮角は、胎子と胎水の移動でバランスが取れなくなりくるりと捻じれることで子宮捻転を発症してしまいます。(図1.2 文永堂出版『獣医繁殖学』より引用)


図 3 お産時に牛が取る姿勢

⑤ 削蹄と難産
  実は蹄の痛みは難産も引き起こします。牛は陣痛が始まると頻繁に寝起きを繰り返します(このことが前述の子宮捻転にも関係します)。その中で図3の姿勢が難産の減少に役立ちます。この前肢を折り曲げ後肢だけ起立した姿勢は胎児を骨盤の中から腹腔に戻すことにより、胎児が自らの力で肢や首を伸ばし、異常な姿勢で産道に入るのを防ぎます。ただし胎児が生きている場合に限っての話です。
後の蹄に異常があればこの態勢を維持することができないため難産が増えるわけです。

このほかにも削蹄の不備は様々な疾病を引き起こすので、最近はアニマルウェルフェア(動物福祉)の観点から削蹄は非常に重要視されています。私は個人的に牛の健康を維持するために一番大切なことは餌の管理で次には削蹄であると思っています。『うちは乳量を増やすために濃厚飼料を増やさなきゃいけないから、削蹄師を料金の安いところに変えるんだ。』と言う人がいますが、本来は逆で濃厚飼料を増やすからこそしっかりした削蹄師に蹄の管理をしてもらうべきだと私は思います。

今回で蹄の話は一旦終了します。至らない点や説明が下手で分かりにくかった点も有ったかと思いますが、どうかご容赦ください。
勝手ながら次回からは蹄に関係が深く牛の管理では最も重要なルーメンの話をしていきたいと思います。来月からもお付き合いのほどよろしくお願いします。

by とある獣医師

2014-6-6 | 1 Comment

とある獣医師の独り言15

今年は雪が少なくて春が早いなんて言っていたら4月4日の吹雪はすごかったですね。私の住んでいるところは風に加えて降雪量も半端なくて、今シーズン一番の暴風雪じゃなかったかと思います。簡単には春は来ないものですね。
それではさっそく先月に引き続きPDDの話をしていきたいと思います。いきなりですが乳房の間が化膿して悪臭を放っているのを見たことはないですか?(写真が無くてすいません。手頃な写真を持っていなくて…。)最近知ったのですが、あれもPDDと同じ原因菌で乳房DDと呼ばれているそうです。PDDの病変部が牛が横になった時に乳房につくことで感染するそうです。



写真 1 趾間過形成にできたPDD



写真 2 痛みのためつま先立ちする牛

いきなり話がそれましたが、乳房DDは別にして肢に発生するPDDの90%は後肢に起こります。できる場所としては球節上の趾間の皮膚にできることが最も多いようですが、蹄球や副蹄周辺、趾間過形成の上(写真1)、趾の背側の蹄冠部、そして時には蹄底潰瘍の病変部にもPDDができている事があります。一般に毛が少なく皮膚の柔らかいところを好むようです。PDDは痛みが非常に強く、特に趾間の皮膚や蹄球にできた場合には患部に負重することを嫌い、つま先立ち(写真2)で歩くことが良く見られます。このつま先立ちが蹄にねじれや無理な力を発生させ白線病や裂蹄の原因にもなります。
PDDを発生させないためには原因菌を持ち込まない事が一番ですが、これだけ全国的に蔓延してしまうとなかなか簡単には行かないと思います。特に一度農場に入り込んでしまったPDDを完全に排除するのは非常に困難です。しかし発生を制御することはできるはずです。最初に手をつけるべきことは肢もとの環境の衛生の改善です。具体的にはストールに敷料を十分に入れることや除糞回数を増やすことによって、牛床をできるだけ乾燥させ清潔な状態に保つことです。またフリーストールでは感染源である通路のスラリーを溜めないためにもバーンスクレーパーの稼働頻度を上げるなどの工夫も必要です。さらにパーラーで搾乳している場合には、削乳時に趾間に付着しているスラリーを洗浄して除去してあげることも大事です。
PDD感染牛が移動して歩くため蔓延しやすいフリーストールでは、蹄浴槽を利用した5~10%の硫酸銅での蹄浴が世界的にも最も効果があると言われています。ただ蹄浴に使用した後の排液による銅汚染が深刻な環境問題となっています。最近では銅濃度の低い薬剤や消毒液を混合した薬剤、泡状になり患部に付着しやすくなった薬剤などいろいろできては来ていますが、決定打となるような蹄浴剤が出てきていないのが現状です。やはりPDDの抑制には硫酸銅の使用量を減らす意味も含めて、削蹄師による削蹄時の処置と重症な牛の摘発、その摘発牛の獣医師による個別の治療が地道ではありますが最重要だとおもいます。
 最後に治療について少しお話します。まずは病変局所をよく洗浄するのはもちろんですが、これは私の経験上ですがイチゴ状やつる状になった病変を血が出るまで削り落してから薬剤を塗りこんで包帯をした方が治りが早いような気がします。その際に抗生剤の併用は非常に有効だと思いますが、出荷制限には十分注意しなくてはいけません。
二回にわたりPDDについてお話してきましたが、PDDは感染力も強く、また痛みも激しいため治療にかかる労力や経済的損失は非常に大きなものがあると思います。しかし最近では直腸内の新鮮な糞からPDDの菌が発見されたという報告もあることから、PDDの菌は牛の体内の常在菌としての地位を確立したような感じも受けます。そうなると先月も述べましたが発症するかしないかは牛群の健康状態次第だと思います。牛がせっかく持っているバリア機能を喪失させないような飼養管理が一番重要だと思います。

今月も写真はテレビドクター3から引用させていただきました。

by とある獣医師

2014-5-7 | Leave a Comment

とある獣医師の独り言14

4月ですね。今年は春が早いような気がしますが、皆さんのところではどうですか?早く雪が溶けて、桜が咲いて、花見で一杯と行きたいですね。
さて、さっそくですが今回はPDDについてお話したいと思います。



写真 1 典型的な趾皮膚炎の病変



写真 2 毛のような皮膚の増殖を伴った趾皮膚炎

PDDはPapillomatous=いぼ状のできもの、Digital=指や趾、Dermatitis=皮膚炎の頭文字をとったもので、日本語では、いぼ状皮膚炎とか趾皮膚炎と訳されます。またDDと略されている本も有ります。(写真1、2)
PDDは1970年代にイタリアで初めて報告された蹄病で、その後全世界に広まり最近では日本全国に広まってしまいましたが、私が就職した17年くらい前には宗谷ではほとんど発生が見られず(私が不勉強だったせいかもしれません)、その後数年で一気に広がってきたという印象があります。その就職当時、オホーツク方面の同期の獣医師から『趾皮膚炎って知っているか?大して酷そうな病変ではないんだけど、痛みがすごくてしかも伝染性がすごい蹄病があるんだぞ。まだ見たことないならオホーツク方面の牛を導入するときは気をつけた方がいいぞ。』なんて言われたのを未だに覚えています。(オホーツクの方々ごめんなさい。)
このようにPDDは伝染力が非常に強く、PDDに罹患した牛を導入することにより汚染された土壌やスラリーを介して、牛から牛へと感染が広がっていきます。また、痛みも非常に強くPDDに罹患した牛は乳量が30~45%減少するという報告も有ります。



写真 3 趾皮膚炎の顕微鏡画像(糸くず状に見えるものがトレポネーマ)

PDDの原因菌については未だにはっきりしてはいませんが、トレポネーマと言う細菌が病変の形成の主役を担っていると考えられています。(写真3)

トレポネーマは人の歯周病の原因菌と類似していると言われており、どちらも慢性の炎症を起こす細菌という点でも共通しています。ただPDDはトレポネーマ単独で起こるものではなく、ある環境下で他の細菌と競合して発症させると言われています。つまり不衛生でドロドロの牛床では蹄球や趾間にスラリーがこびりつきます。そうすると趾の皮膚はスラリーの水分やアンモニアでふやけたり、細菌で傷んだりします。そこにスラリーの中で増殖したトレポネーマが傷から侵入し病変を形成するのです。
ここで重要なのはすべての牛が同じ環境にいたからといって、同様に発症する訳ではないということです。その環境にいる牛の免疫状態や乳期、年齢などにより発症のしやすさが決まるらしく、一般に初産牛が最も発症しやすいと言われています。
また正常な牛の皮膚には外界から感染を守るバリアー機能があります。勿論このバリアーは趾皮膚にもあるため、健康な牛にはトレポネーマを感染させてもPDDは発症させることはできません。このバリアーにはビタミン(代表的なものとしてビタミンHといわれるビオチン)や微量ミネラル(亜鉛など)によって維持されています。このビオチンは亜鉛と競合して爪や皮膚などの蛋白質を合成するという重要な役割を担っています。牛の場合はビオチンに限らずビタミンの多くをルーメン内の細菌が作り出すことができます。しかし牛がルーメンアシドーシスになり、ルーメン内の細菌が減少している場合にはビオチンが作られずこのバリアー機能を発揮させることができません。つまり容易にトレポネーマの感染が成立するという訳です。さらにルーメンアシドーシスによる軟便はトレポネーマの増殖しやすい環境を作りやすくしてしまいます。やはり牛のルーメンアシドーシスは百害あって一利無しって事ですね。

次回もPDDについてお話します。


今回の写真はテレビドクター3から引用させていただきました。

by とある獣医師

2014-4-2 | Leave a Comment

とある獣医師の独り言13

私の住んでいるところは今年の雪は例年より少なく、国道の通行止めもまだ一度もなく平和な冬を過ごさせていただいておりますが、皆さんの住んでいるところはいかがでしょうか?春が待ち遠しいですね。


写真 1 趾間過形成

さっそく趾間の病気についてお話していきます。まずは趾間過形成(しかんかけいせい)です。趾間結節(しかんけっせつ)とも言われます。内外側の軸側の蹄壁とくっついている皮膚には小さな襞(ひだ)があり、それが慢性的に刺激され続けると皮膚が肥厚し盛り上がってきて写真1のような状態になるのが過形成です。ですから盛り上がっているのは皮膚の一部なので趾間皮膚過形成といってもいいと思います。その刺激の原因として趾間に糞や異物が詰まる事や趾間の軽度の細菌感染にあります。そのため蹄浴や蹄の洗浄で趾間をきれいに保つ事がもっとも大切です。


写真 2 過形成の切除

治療法は小さい過形成であれば削蹄により趾間の隙間を広げてあげることで徐々に小さくなりますが、大きな過形成の場合には写真2のように外科的に切除する必要があります。

次に趾間腐爛(しかんふらん)についてです。これは趾間がFusobacterium necrophorumという菌 (日本語では壊死桿菌(えしかんきん)と言われます)に感染にすることにより起こります。この菌は空気のあるところでは増殖できないので、まず趾間に傷ができることが発端です。たとえば木の枝や石によってできる小さな傷、または物理的に趾間が広げられてできた裂け傷などから菌が侵入しそこで増殖することで趾間腐爛が発症します。ですから成乳牛のみならず公共牧場で預託されている育成牛でもよくみられます。急激に跛行を示す牛が増えた時には趾間腐爛かPDDを疑うべきでしょう。特に長雨の後では要注意です。雨で放牧地の表面の土が流れ、尖った石が趾間を傷つけることにより複数頭に趾間腐爛の発症が見られることもよく有ります。


写真 3 趾間腐爛による蹄冠の腫脹


写真 4 趾間腐爛による趾間皮膚の裂け目

趾間腐爛の特徴は写真3で見られるような蹄冠部の腫脹です。発症初期は小さな傷なので蹄を挙げても趾間腐爛だと気付かない事も有ります。少し時間がたつと中に溜まった膿が自潰(じかい)し写真4のようになります。


写真 5 趾間過形成と趾間腐爛の合併症

また趾間過形成と合併して起こるようなことも有ります。過形成と趾間の間にできる擦り傷から壊死桿菌が感染し写真5のような二次的な趾間腐爛が出来上がります。
趾間腐爛の治療としては早期の場合は抗生物質が非常に有効です。ペニシリンの全身投与を数日実施するのが一番です。それと同時に趾間の壊死組織(えしそしき)の除去と消毒をおこなうのがよいでしょう。ただし、発見が遅くなった場合には壊死桿菌が趾間から軸側の蹄壁へ侵入し蹄球部から蹄底へ化膿が波及する場合も有ります。その場合は抗生物質の全身投与と並行して、蹄底潰瘍と同様に浮いている角質をすべて削切する必要があり、治癒には時間がかかることになります。特に蹄関節へ腐乱が侵入した場合には予後は非常に悪くなります。すべての病気に言えることですが、早期発見、早期治療が肝です。

次回は趾間の病気のPDDについてお話します。


今回の写真も牛のフットケアガイドから引用させていただきました。

by とある獣医師

2014-3-6 | 1 Comment

とある獣医師の独り言12

今回は蹄底潰瘍の治療についてお話しします。蹄底潰瘍の治療には先月も少しお話しましたが、患部のみを除去しても蹄骨による蹄真皮の圧迫の原因を除去しなくては治りません。

一昔前は蹄底潰瘍の治療は馬の治療を応用し、『患部に穴を開け排膿させる』という方法が一般的でした。この方法は確かに蹄壁で体重を支えている馬には有効です。(馬は排膿させるだけで治ることが多く、蹄壁は削ってはいけないそうです。)一方、牛は排膿させるだけや、潰瘍の部分をすり鉢状にくり抜くだけでは治りません。その理由は牛の体重は蹄壁で支えるのではなく蹄底全体で支えているからです。


【写真1 肉芽の突出】


【図1 蹄球枕の位置】

蹄底潰瘍の治療経過で(写真1)の矢印のように肉芽が飛び出てくるのを見たことはありませんか?飛び出す原因は牛の蹄の構造にあります。このコラムの3話でもお話しましたが、牛の蹄は蹄底の後2/3の部分には蹄球枕というクッション装置があります(図1)。

蹄底潰瘍によって形成された浮いた角質のみをすり鉢状に削ると、蹄球は部分的に残ります。するとその残った蹄球部に体重が掛かり蹄真皮内部の蹄球枕は圧縮され、その圧力は一番薄い病変部の穴から肉芽となり飛び出してくるのです。この肉芽が飛び出した状態では傷はいつまでも治りません。




【図2 ヒールレステクニック】

そこで蹄球に負重がかからない処置=ヒールレス(かかとを無くす)テクニック(図2)が必要となるわけです。





【図3 ヒールレスの削切部位】

それでは蹄底潰瘍に対するヒールレスについて簡単に説明していきましょう。まずは潰瘍によって形成された坑道(浮いている角質)をすべて削切します。そして軸側蹄壁の始まる部分から先の1/3を残して蹄球は削ります。(図3参照)その後傷をよく洗浄し、感染させないように被覆材で覆い、包帯を巻きます。

これらの処置によって蹄球が免重できるうえにさらに蹄骨の先端の方へ負重が移動するため蹄骨の後端による蹄真皮の圧迫も緩和され潰瘍の治癒の促進にもなります。

ただし、何らかの原因(遺伝による球節の沈下、ルーメンアシドーシスによる屈腱の伸び、長期にわたる削蹄の不備による蹄の変形など)で蹄球部の角質が異常に薄くヒールレスにできない場合には反対側の蹄に蹄ブロック(下駄)をつけて罹患蹄を浮かせて、患部を免重するようにする方法も非常に有効です。

ここで注意しなくてはいけない点は、蹄ブロックを長期にわたり装着したままだと、装着した側の蹄に荷重がかかり蹄底潰瘍になるケースが多くみられるため、治療が終了してから1~2週後にはブロックを除去するべきだとおもいます。

このように蹄底潰瘍の治療には蹄球部の免重が一番重要というわけです。
次回は趾間の蹄病についてお話します。

(図2)は牛の跛行マニュアルから、ほかは牛のフットケアガイドか引用させていただきました。

by とある獣医師

2014-2-3 | Leave a Comment

とある獣医師の独り言11

あけましておめでとうございます。今年もこのコラムを通して少しでも皆さんに牛について理解していただいて、より多くの牛が健康で快適な生活を送れるようにできるだけ分かりやすいお話ができたらと思いますので、本年もお付き合いをよろしくお願いします。

では、さっそくですが今月は化膿性蹄皮炎と蹄底潰瘍についてお話していこうと思います。実は恥ずかしながら私もつい最近までは両者をよくわからず、混同して覚えていたことがあります。このコラムでは何度も出てきている蹄底潰瘍ですがここでしっかり覚えていただければと思います。

化膿性蹄真皮炎とは
初めて聞く方も多いかと思いますが蹄底から異物、たとえば尖った石、ガラス片、釘などを踏むことにより蹄底に傷をつけ、そこから化膿が蹄真皮に進行していく蹄病です。放牧している農場で雨上がりによくびっこを示すのもこの化膿性蹄真皮炎の事が良くあります(趾間腐乱の方が多いですが)。原因は放牧場までの通路が雨で洗われて表面に尖った砂利が出てくることで、蹄底に傷ができることにより起こります。

蹄底潰瘍とは

図1 ヒトの褥瘡(じょくそう)のでき方



図2 牛の蹄底潰瘍


蹄底潰瘍は人間の褥瘡(じょくそう)の発生とよく似ていると言われています。褥瘡とは、床ずれのことで、専門用語では「圧迫による軟部組織の虚血性壊死(きょけつせいえし)」と定義されています。簡単に言えば寝たきりの人がうまく寝返りできず、骨(特に突起状になった肘やかかと等の骨)と寝具の間で組織が圧迫されて血液の循環障害が起こり、その部分が壊死してしまうことをいいます。(【図1】参照)  

一方、蹄底潰瘍の原因は様々ですが、何らかの要因で蹄骨が蹄真皮を圧迫して蹄真皮が壊死することにより起こります【図2】。ですから両方とも血行障害による組織の壊死と言う内側からの要因という意味でよく似ていると言うわけです。

このように化膿性蹄皮炎は外因性の炎症、蹄底潰瘍は内因性の炎症と言うことがお分かりかと思います。どちらも発生原因は違いますが、炎症と言う意味では同じです。ですから放置すれば化膿が進行して蹄骨を侵食しますし、蹄関節炎にも移行し最悪は断蹄にまで悪化します。

これらの治療の話は来月に回しますが、化膿性蹄真皮炎は原因の異物とその周囲の坑道の除去で済むため比較的簡単に治癒しますが、蹄底潰瘍の場合は蹄骨による真皮の圧迫の原因を撤去しない限り治癒しないもしくは再発を繰り返すため、一般に治り辛いと言われています。たとえば、原因がアシドーシスにあれば飼料の見直しが必要であるし、内外蹄のバランスが原因であれば正しい削蹄の実施が必要であるし、牛が寝ないのが原因であればその原因(ストールの安楽性、暑熱対策など)の追求が必要になります。

他の蹄病にも言えることですが、われわれ獣医師が関与できるのは治療の部分でしかありません。蹄病を防ぐには酪農家さんの毎日の牛の観察と削蹄師さんの正しい削蹄にかかっていると言えるでしょう。

来月は蹄底潰瘍の治療についてお話していきたいと思います。

by とある獣医師

2014-1-8 | Leave a Comment

とある獣医師の独り言10

今月は先月に続き白線病の後半のお話をしたいと思います。【図1】の2、3、4の部位に白線病ができた場合には蹄鞘と蹄骨の間が狭く、膿が広がる隙間が少ないため、強烈な跛行(びっこ)を示す話は前回もしました。

【写真1】は白線部に出血跡が見られそこを削切していくと排膿が見られた写真です。この場合は膿を排出させた後、坑道が形成された角質を丁寧に除去することにより治癒します。【写真2】参照





また、蹄尖部にできた白線病を放置しておくと、蹄真皮(A)が広範囲に破壊され蹄骨(B)が露出してしまうことがあります。【写真3】を参照

このような場合は黒く見えている蹄真皮を出血するまで削り新鮮な肉を露出させ(デブリドマンといいます)、さらには蹄骨も同様に変色している部分を削り白い骨を露出させます。傷の治癒には血液が必須なため、荒療治に思えるかもしれませんが重要です。

そして最も重要なことは健康な方の蹄(【写真3】では右の蹄)に蹄ブロック(下駄)をつけ患部に負重させないようにすることです。傷はぶつけることにより炎症が広がるため、反対側の蹄を高くすることで床に当たらないようにしてあげることで治癒を促進します。

これは白線病に限ったことではなく、すべての蹄疾患に言えることです。



また、白線病を見つけ角質の除去と排膿によって一時的に跛行が改善されても一週間後に再発することが良くあります。そのような蹄を再検査すると【写真4】のように黒っぽい肉芽組織が飛び出している事があります。



また蹄冠部のあたりが赤くはれ上がっているのが分かると思います。これは坑道の角質(変質した角質)の除去が不十分なために起こる症状で、治すためには飛び出した肉を切除し、角質を【写真5】のように広く削切する必要があります。この際にも蹄ブロックの装着は非常に有効です。



白線病はただでさえ他の蹄病より治癒に時間が係るうえに放置しておくと深部感染を起こし抗生物質による治療さらには断蹄が必要となることしばしばです。

【写真6】はとう嚢、とう骨、屈腱まで化膿が波及している写真です。こうなる前に治療を開始したいものですね。
どの蹄病にも言えることですが蹄病は早期発見、早期治療が大原則です。

今回も写真はすべて牛のフットケアガイドより引用しました。

by とある獣医師

2013-12-4 | 1 Comment

とある獣医師の独り言9

今月からは蹄病の各論とその発生原因についてお話していきたいと思います。

最初は白線病(白体病または白線膿瘍とも言われます)について説明したいと思います。白線病の原因となる白線の脆弱(ぜいじゃく)を招くのが蹄葉炎であるという事はこのコラムで何回もお話してきたため省略させていただきます。

一度白線がもろくなると蹄底から砂や尖った石などが入りこみます。基本的には後肢の外蹄が最もなりやすく、まれに前肢の内蹄にも見られます。また白線病になりやすい場所は以前にもお話したとおり、【図1】の1→4の順です。
(この図は右の後蹄の図です)

特に【図1】の1の場所は硬い蹄鞘とやわらかい蹄内部の蹄球枕の収縮・拡張が歩行時に常に起こりひずみが発生しやすく、蹄骨に蹄鞘が直接くっついている蹄尖よりも白線の解離が起こりやすくなるため、最も白線病が起こりやすいと言われています。



白線に入り込んだ異物は蹄鞘内に深く入り込み、白線に坑道という溝を作り、同時に蹄真皮で化膿を起こします。さらに化膿によりできた膿は逃げ場がなくなり、蹄真皮を圧迫することによって痛みを起こし跛行を示すようになります。

【写真1】は蹄底を削切したところ白線部に出血跡が見つかりそこを削って行くとBの部分から排膿した写真です。またちょっとわかりにくいかもしれませんが、Aに示した蹄踵の蹄縁角皮から蹄球部に貯留していたと思われる膿が漏出しています。



白線から広がった膿は【写真2】のように蹄球部に膿瘍を作り蹄真皮と蹄の角質の間を解離させます。これを治癒させるためには解離によって壊死している蹄底の角質と白線の坑道をすべて削切し、蹄真皮(【写真2】のピンク色の組織)を露出させる必要があります。

ここを露出させることによって新しい蹄の角質を作らせるためです。



今回のように【図1】の1の近辺に白線病ができた場合は蹄踵にやわらかい部分がありそこに膿が貯留できるためそれほどの痛みは示しません。さらに多少発見が遅く膿が多量に貯留しても蹄踵の蹄縁角皮はやわらかいため容易に破裂(自潰)することが多く、とう骨やとう嚢などの蹄内部を侵食するようなことは稀です。

しかし、これが蹄尖部により近くなるに従って、膿が逃げる場所が少ないため跛行が強くなり、さらに蹄縁角皮も蹄踵に比べると硬いためしばしば化膿が蹄内部に波及します。更に蹄尖(【図1】の3の部位)や軸側壁(4の部位)に白線病ができた場合は痛みも重度であるし、感染も重度になる場合も多く治癒に時間がかかります。
来月はその辺についてお話したいと思います。

今月も写真はすべて牛のフットケアガイドより引用しました。

by とある獣医師

2013-11-6 | Leave a Comment

とある獣医師の独り言8

今回は蹄葉炎で起こる蹄の変化について話したいと思います。
蹄葉炎という用語は本来蹄葉の炎症を意味しますが、実際は蹄真皮全体の炎症を指すことが多くため蹄真皮炎と理解した方が分かりやすいかもしれません。一般に蹄葉炎になると以下のいずれかまたはいくつかが合併した変化が起こります。

◎蹄鞘の過剰形成

蹄真皮に炎症が起きると最初は血液が多量に流れ込みます。このことにより蹄鞘(蹄壁および蹄底)に過剰な成長が起こります。その結果としてやわらかい角質が形成されます。

◎白線部におけるやわらかい角質

上記の過剰形成は白線で最も起こりやすいため白線の結合がもろくなり、その結果白線部に異物の混入が起こり白線病の要因となります。

◎蹄底の角質の黄色化および出血

蹄葉炎は血管に障害を起こすため血液の中の血漿(けっしょう)が血管外に浸み出すため蹄底が黄色く変色すると言われています。さらに血管の障害が重度であれば血漿だけでなく血液そのものが浸み出し蹄血斑と呼ばれる蹄底における出血が起こります。(写真1、2参照)


写真 1 蹄底出血
蹄底潰瘍の好発部位(A)と白線(B)に出血が見られる。




写真2 蹄底出血
蹄尖と白線に出血が見られる。右の蹄には蹄血斑と黄色化が見られる。




◎蹄壁の裂蹄およびハードシップラインの形成

炎症がさらに進むと蹄真皮が腫れることにより血液の停滞(うっ血)がおこり、一時的な蹄の形成の停止が起こります。写真3は分娩直後に大腸菌性の乳房炎を起こし大腸菌の毒素により蹄の形成が完全にストップしたため完全な裂蹄が形成された例です。


写真 3



ここまで重篤でなくても、慢性的なルーメンアシドーシスにさらされると、ルーメン内の微生物が死滅することにより産生される毒素により蹄の形成が阻害され、写真4にみられるハードシップラインと呼ばれる水平な溝が出来上がります。


写真 4



また写真5のような粉末状の角質が詰まった蹄底のくぼみも蹄葉炎と関連していると言われています。


写真 5




◎蹄踵で歩くことと蹄の過剰形成による蹄尖の上方への回転と変形

以前にも述べたように蹄葉炎は蹄尖部で痛みが強いため蹄踵に体重をかけるため蹄は変形し、さらに不完全な蹄が過剰生成するため最終的に写真6のような異常な蹄の形になります。ここまでで蹄が変形してしまうと削蹄で簡単には元に戻すことは非常に困難となります。こうなる前に飼料の見直しによるルーメンアシドーシスの改善と正しい削蹄による負重の改善が必要となります。

写真 6



次回からは様々な蹄病の発生原因と治療方法についてお話していきたいと思います。
(写真はすべて牛のフットケアガイドから引用させていただきました。)

by とある獣医師

2013-10-3 | 2 Comments

とある獣医師の独り言7

今回は蹄の内部構造とその役割を簡単に話していきたいと思います。

上の蹄の構造を見ながら話を進めていきます。蹄の内部構造は3つの趾骨と蹄骨(第三趾骨)を支える伸腱と屈腱の2本の腱、歩行の衝撃から蹄を守る蹄球枕、さらに腱を滑らかに動かすためのとう骨ととう嚢そしてそれらの構造物が合わさった蹄関節からできています。それぞれについて説明します。


蹄骨
 我々の指でいえば中指と薬指が内側蹄と外側蹄の蹄骨です。蹄骨の前面は蹄壁に蹄葉を介してしっかりと付着していますが、蹄踵方向では蹄鞘とは付着していません。また蹄骨はアーチ状をすることにより下からの荷重に強い構造になっています。人の足の土ふまずがアーチ状であるのと同じ原理です。


蹄球枕
 固い蹄骨と蹄鞘が受ける地面からの衝撃を吸収するためのショック吸収材の役割をしています。



 肢を曲げ伸ばしするために必要な線維で、骨に付着するため筋肉の先端部が細くなったものが腱です。腱は蹄球枕とともに衝撃吸収の役割も担っているため、強靭でなくてはいけません。ご自身のアキレス腱をイメージすると分かりやすいかもしれません。腱は2本あり蹄を曲げるために必要な腱が屈腱で伸ばすために必要な腱が伸腱です。


とう骨
 腱を動かすため滑車の役割をする骨です。遠位種子骨とも言われます。この骨によって腱の引っ張る方向を変えるという重要な役割があります。


蹄関節
 基本的には蹄骨と第二趾骨の間の関節ですがこれにとう骨ととう嚢が組み入れられたのが蹄関節です。


以上が蹄の内部構造です。後ほど蹄病のところでも述べますがここで少し蹄底潰瘍の話をしてみたいと思います。

【図1】

前述したとおり蹄骨は蹄鞘の前面は蹄葉を介し付着していますが蹄踵側では蹄鞘と離れており、腱でぶら下がり蹄球枕に浮かんでいるような状態です。

そこで何らかの原因により蹄骨のぶら下がりが弱くなり蹄骨が沈下した場合、蹄真皮に血行障害がおこり蹄鞘の再生が阻害され蹄底潰瘍が起こるわけです。また蹄骨は蹄踵までの3/4までの長さしかないため、図1の場所によく発生します。さらに蹄鞘と蹄骨の付着の強度は外蹄より内蹄の方が強くなっているため、内蹄より外蹄の方が蹄底潰瘍の発生が多くなってしまいます。

せっかく蹄の構造のはなしに触れたのでもう少し潰瘍の話を掘り下げると、蹄底潰瘍がより悪化しさらに深部感染となると球節が赤く腫れあがり、牛は肢をつくことができなくなることがあります。そこで蹄底を削っていくと潰瘍から膿が浸み出し穴の奥から白い線維性のものが出てくることがあります。

これは屈腱の一部です。これは蹄関節に感染が及んだためです。さらに腐った骨のかけらが取れることがありますが、それは蹄骨の一部です。さすがにここまでの深部感染が起こると断趾(蹄)するしかありません。こうなる前に定期的な正しい削蹄を行い、感染のひどい牛は獣医師に適切な治療をしてもらう必要があります。

今回は以上です。次回は話が重複すると思いますが蹄葉炎についてまたお話ししたいと思います。

by とある獣医師

2013-9-4 | Leave a Comment

とある獣医師の独り言6

それでは今月は先月説明した蹄の名称に引き続きもう少し掘り下げて、蹄の形成の仕方やそれぞれの部位がどのような機能をしているかについて説明していきたいと思います。

まずは蹄の外側の固い部分、蹄鞘(ていしょう)および白線について説明します。先月も書きましたが、蹄鞘は蹄縁角皮・蹄壁・蹄底・蹄踵からなっています。それでは、それぞれがどこで作られるのか説明しましょう。

蹄縁角皮
 蹄縁角皮は蹄壁と皮膚を分けている部分であり、蹄鞘の前面に水分を与えることにより蹄の柔軟性を保っています。蹄縁角皮は老化や乾燥で機能が低下します。これによって蹄壁にひびが入る裂蹄が起こることがあります。



蹄壁
 蹄壁は蹄冠のすぐ下にある蹄真皮の中の真皮乳頭と言うところで形成されます。ここで聞いたことがある人もいるかと思いますが、ケラチンという物質を含んだ角質を作ります。ケラチンは髪の毛や爪、歯のエナメル質などに含まれる固い物質です。
真皮乳頭で作られたケラチンは一カ月に5ミリの速度でゆっくりと蹄の外面を伸びていきます。成牛の蹄の長さがおよそ75ミリですから、一度作られた蹄壁は15カ月も残り続けるということです。後ほど蹄病のところでもお話しますが、牛が何らかの原因で栄養失調になると蹄壁に亀裂やくぼみが入ることが良くありますが、それが蹄冠から何ミリのところにあるのかを測れば、不調だった時期が推測できます。

 また蹄壁は蹄骨と強力に接着していなければならない反面、歩行によるいろいろな衝撃を吸収するためにそれなりの可動性を持っていなくてはなりません。そこで蹄葉といわれる構造が必要になります。魚の鰓(えら)のような構造(写真1のA)が蹄葉です。重ねた波板がスライドするのをイメージしてもらえれば分かりやすいかもしれません(図2)。入り組んで密着しているため左右にずれることが無く、それでいて上下に稼働する感じです。ここに炎症がおきて腫れることにより起きるのが蹄葉炎です。腫れによって波板が上下に稼働しなり歩くたびに激痛を引き起こします。





蹄底
 蹄底の角質は蹄底の真皮乳頭から蹄壁と同じようにケラチンを含んだ角質を作ります。蹄底の角質は蹄壁とは違い真下に伸びます。蹄底には蹄葉がなく蹄壁の角質と蹄底の角質の結合部は白線(図3の赤線)となります。白線は結合している部分の為、ケラチン化が不完全でありしばしば解離しそこに異物が侵入することにより白線病が起こります。



蹄踵
 蹄踵は蹄縁角皮の続きでやわらかい角質によって覆われた部分であり、柔軟性があるので圧迫されると形態が変わります。このことが蹄鞘の固い部分との間にひずみを生じ白線病の発生原因に繋がります。したがって蹄踵の固さの違いにより図3の番号順に白線病が発生しやすくなってしまいます。(1→4の順番に蹄底の固さが増すため。)

蹄の内部構造についてのお話は来月に回します。またお付き合いをお願いします。

by とある獣医師

2013-8-9 | Leave a Comment

とある獣医師の独り言5

先月まで4回に分けてアシドーシスについてお話してきましたが、やはり蹄の構造と名称を知らないと蹄の成長や形成、蹄病の発生原因や治療方法を理解しづらいかとも思いますので、順序は多少前後しますが、今回からはそこを説明したいと思います。


もう皆さんもご存じだとは思いますが牛の蹄は外蹄と内蹄の二つの蹄からできています。ここでは右の後ろ蹄を例に話をしていきましょう(図1)。

まずは蹄の外観の名称について説明します。内蹄、外蹄のそれぞれの内側の蹄壁を中心(軸)に近いという意味で軸側(蹄)壁、外側を反軸側(蹄)壁と言います。さらに内外蹄の間を趾間隙(しかんげき)と呼び、これによって内外の蹄球(ていきゅう)を分けています。

蹄底と蹄壁の接合部を白線と呼びます。余談ですが基本的に後ろ肢においては外蹄が、前の肢においては内蹄が大きくなっています。これは後肢は外蹄に、前肢は内蹄により体重がかかっているためです。



次は側面から右後蹄をみると(図2)つま先側を前方、かかと側を後方、蹄底側を腹方、関節の方を背方と呼びます。

そして毛の生えていないやわらかい角質の帯状の部分を蹄縁角皮(ていえんかくひ)と呼び、皮膚と蹄を分けています。またその境目を蹄冠(ていかん)と呼びます。



そして牛の二つの蹄は人間の手に例えると(図3)中指と薬指が変化したものです。人差し指と小指はそれぞれの副蹄に相当し、親指は完全に消失していると思ってください。




更に蹄壁は人間の爪に、趾骨の三つ(基節、中節、末節骨)は人の指の骨三つにあたります(図4)



続いて蹄の内部構造を見ていきましょう。蹄は蹄鞘(ていしょう)・蹄真皮(ていしんぴ)・蹄骨および関連の構造の三つの基本的な組織から構成されています。それぞれ簡単に説明します。(図5)

蹄鞘とは蹄の外側の角質の固い覆いであり、さらに蹄縁角皮、蹄冠角質、蹄底角質、蹄踵(ていしゅ)角質に分けられます。

蹄真皮は神経と血管が豊富で、蹄鞘形成と蹄骨に栄養を送る役目を担い、蹄縁真皮、蹄冠真皮、蹄葉真皮、蹄底真皮に分けられます。

蹄骨および関連の構造は基節骨、中節骨、末節骨、遠位種子骨(とう骨)、蹄球枕(ていきゅうちん)などから形成されています。


専門用語ばかりで非常に頭に入りづらいと思いますが、今後の蹄病に説明には必要なので分からなくなった時点でもう一度見直して、ぜひ覚えていただけたらと思います。

来月は蹄の形成や成長の仕方をできるだけ分かりやすく説明するつもりですのでまたお付き合いをお願いします。

by とある獣医師

2013-7-4 | 6 Comments

とある獣医師の独り言4

今回はアシドーシス繋がりで子牛のアシドーシスについてお話します。

親牛のアシドーシスは炭水化物の一胃での異常発酵および唾液による中和不全によっておこることは前回までに説明しましたが、哺乳している子牛には炭水化物は給与されていないのになぜアシドーシスになのでしょうか?

その発生要因は大きく二つに分けられます。一つは一胃にミルクが流れ込みミルクが異常発酵し乳酸が産生されるケースと、ミルクの消化吸収の過程が通常通り行われず腸管でミルクが異常発酵をおこすケースです。

まず始めに正常なミルクの消化吸収のされ方について簡単に説明します。親牛と違い子牛は食道と三胃の間に第二胃溝(食道溝)という溝が走っており、乳首でミルクを飲むことによりこの溝が閉じてストローの形となり、ミルクは第一胃・第二胃、三胃を素通りして四胃に到達します。(第二胃溝反射といいます)そこで四胃から分泌される消化酵素(レンニンまたはキモシンとも言います。)により凝乳しカードというミルクの塊とホエーという水分に分解されます。

牛乳からチーズが作られる過程と一緒ですね。分離されたホエーは初乳の時には特に重要で子牛の感染防御に欠かせない免疫グロブリンが大量に含まれています。そのグロブリンは四胃から速やかに流れ小腸で吸収され血流に乗り全身に行きわたります。このことにより細菌、ウイルスなどからの感染に対して無防備な生まれたての子牛を防御します。一方、塊となったミルクの栄養成分であるカードは固体になることにより液体のままのミルクよりもゆっくりと時間をかけることにより、異常発酵を受けずに吸収されていきます。これが正常なミルクの消化吸収の過程です。


ではなぜ一胃に流れるのでしょうか?いくつか原因があります。

① 食道カテーテルでの哺乳
子牛自らがミルクを飲まなかった場合にカテーテルを直接食道に入れて飲ませることがあると思います。しかしこれは第二胃溝反射が起こらないため一胃に流入しやすくなってしまいます。
② ミルクの温度・濃度
ミルクでは第二胃溝は起こりますが水では起こりません。この理由は何でしょうか?それは温度と濃度です。つまり加温不足のミルクや濃度が薄いミルクだった場合には一胃に流入する可能性が高くなります。
③ 哺乳の量
一度に大量のミルクを与えた場合には四胃から逆流が起こり一胃に流入することも有ります。体格の小さな牛は四胃も小さいため、牛の大きさに合わせた適度な量を数回に分けて給与する必要があります。
④ バケツでの哺乳
第二胃溝反射の基本は乳首で飲むことでありバケツで飲んだ場合にも反射が起こり辛くなるため一胃に流入する可能性があります。一方、凝乳しない原因も一胃への流入と同様にバケツによる哺乳や、ミルクの温度、濃度の間違い、一度に多量のミルクを与えるなどが考えられます。

どちらのケースでもアシドーシスとなった子牛は親牛のルーメンアシドーシスと同様に腸管へ水が流入することにより下痢をし、最初は非感染性の下痢であっても長期にわたることにより腸管の粘膜が荒れ、そこにウイルスや細菌・原虫などが住み着き感染性の下痢へと変化します。また栄養の吸収不足による抵抗力の低下が病状の悪化に拍車をかけます。

これが哺乳時期のアシドーシスに起因する下痢症のおおまかな発生原因です。意外と人間側の要因が多いと思いませんか?さらには哺乳器具の消毒や洗浄が不完全な場合は細菌が増殖してさらに悪化させます。飼われている環境については言うまでも有りません。

本来牛は非常に丈夫な生き物です。しかし人間が正しい知識を持たず間違った飼い方をすると簡単に病気になってしまうということを理解していただけるとありがたいです。


by とある獣医師

フォト素材:blue eyes photographies

2013-6-3 | 9 Comments

とある獣医師の独り言3

ルーメンアシドーシスはルーメンの細菌(グラム陽性菌)が大量に死ぬことによって、大腸菌の乳房炎の時のように毒素(エンドトキシン)を発生させることは先月お話しました。では今月はエンドトキシンがなぜ蹄病を起こすのかについてお話します。

このエンドトキシンがヒスタミンという炎症物質を体の中で作らせます。花粉症の方は聞き覚えがあると思いますあのアレルギーを引き起こす厄介な奴です。ちなみにサバを生で食べると食あたりを起こすのもヒスタミンのせいです。サバの体内のヒスチジンが細菌の影響でヒスタミンに代わり食中毒になります。魚が痛む前に血抜きをして内臓を除去できれば刺身で食べられますが、個人的には〆サバも有りだと思いますが・・・。

話が横道にそれましたがこのヒスタミンは血液に乗って全身すべてに末端にまでいきわたります。蹄も例外ではなくヒスタミンの影響を受け蹄の角質を作る蹄真皮に炎症を引き起こします。(蹄の構造と名称は図1を参照してください)そのせいで蹄真皮の血流が悪くなり、浮腫が起こります。これが蹄葉炎です。急性の蹄葉炎では膨れ上がった蹄真皮は固い蹄鞘(ていしょう・蹄壁と蹄底の角質)の中では膨れることもできず激痛をもたらします。

図1 蹄の構造 フットケアガイドより引用



ルーメンアシドーシスによる慢性の蹄葉炎ではそれほど激しい症状は見られない代わりに、蹄底潰瘍や白線病などの蹄病となって現れます。蹄の角質は蹄縁、蹄冠、蹄葉、蹄底の4つの異なる蹄真皮から作られ、それらが合わさって全体の蹄が形成されます(図2)。血流の悪化は角質の形成とそれぞれの角質の結合に障害を起こし様々な蹄の病気を引き起こします。ルーメンアシドーシスに起因する代表的な蹄病である蹄底潰瘍と白線病について発生原因を簡単に説明します。

図 2 真皮の分布(斜め下から見た図)蹄縁(P)、蹄冠(C)、蹄葉(L)、蹄底(S)の真皮から、それぞれ別の角質が生成され、それが張り合わされて全体の蹄角質が形成されている。(テレビドクターより引用)



まずは蹄底潰瘍についてですが、蹄骨は蹄真皮と結合組織で吊り下げられた状態で固定されています。また蹄骨の後半と蹄真皮の間は蹄球枕(ていきゅうちん)というクッションで満たされ、衝撃の吸収をしています。蹄葉炎ではこれらの組織がもろくなり、さらに蹄骨はアーチ型をしているため体重が後ろ側の蹄骨にかかり沈下を起こして、蹄真皮が圧迫を受けて蹄底潰瘍が発生します。(図3)

図 3蹄底潰瘍のでき方 フットケアガイドより引用



白線病の原因は、蹄の形状にあります。蹄は升とは違い底からのねじれるような荷重には弱い形状になっており、さらに蹄葉炎による血行障害があれば白線の結合が弱くなり白線病が起こります。(図4)

図 4 白線病のモデル テレビドクターより引用



最終的に慢性蹄葉炎は放っておくと起立不能になり廃用になる可能性の高い病気です。それは姿勢異常により蹄が変形していくためです。蹄の構造上蹄尖部では蹄骨と蹄鞘の間が狭く、蹄真皮は蹄骨に挟まれて締め付けられます。そのため蹄葉炎による充血、浮腫は痛みや不快感を生じさせ、牛はかかとの方に体重をのせ写真1のような姿勢をとるようになります。

写真 1 フットケアガイドより引用



そうすると最終的には蹄は変形し写真2のようになります。このような姿勢や蹄では起立が困難となり、褥創(じょくそう)ができ、肢が腫れ最終的には立てなくなるでしょう。

牛は痛みには非常にがまん強い生き物です。痛みを見せること=肉食獣に襲われることにつながるからです。痛がっていた翌日には痛がる様子がなくなっていたっていうことはよく聞く話です。しかしそれは水面下で炎症が進行しているのかもしれません。蹄病は早期発見、早期治療が大原則です。少しの異常でも見逃さないことが肝要です。

写真 2 フットケアガイドより引用


さて三回にわたってルーメンアシドーシスの話をしてきましたが、ルーメンアシドーシスの危険性について理解していただけたでしょうか?今回でルーメンアシドーシスの話は一旦終了です。次回はアシドーシス繋がりで子牛の下痢についてお話したいと思います。

by とある獣医師

2013-5-9 | 4 Comments

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